Amarok / Mike Oldfield (1990)

 

AMAROK-REMASTERED

AMAROK-REMASTERED

 

 

1990年6月14日リリース、マイク・オールドフィールド12枚目のアルバム。80年代後半にはすっかり歌ものポップスが板についていたマイクが90年代の幕開けとともに放った、一枚一曲一時間ぶっ通しの一大音楽絵巻。60分ノンストップで次々と新しい展開が現れる楽曲構成や小音量の繊細な表現から突発的大音量までを含むダイナミックレンジの広さなど、CDとデジタル録音のメリットをこれでもかと活かしまくっている。

一説には『Ommadawn 2』であるとも言われ、『Ommadawn』に参加したミュージシャンたちが再び参加しているのに加えて雨に濡れたガラス越しのマイクのポートレイトというジャケット・デザインも共通する。なにせ1枚1曲なので裏ジャケにトラック・リスト的な表記はまったくなく、代わりに人をおちょくった感じの警告文が掲載されている。ちなみにAmarokという言葉の意味は諸説あるが、Ommadawnの場合と同じく由来はなんであれ実質的に意味のない言葉だと思われる(インタビューのたびに全然違う説明がされてる印象)。

 

70年代の名作群と同じように大半の楽器をマイク自身が演奏し、トム・ニューマンとともにスタジオで即興的に組み上げられた作品。冒頭から「拍子のない」ギターや瞬間的な大音量、突然挿入される「Happy?」という皮肉げな声など攻撃的かつ挑戦的。まさに"This record could be hazardous to the health of cloth-eared nincompoops"という警告を体現している。かと思えば牧歌的で優しげなメロディや急激に視界が開けるような瞬間があったりと、縦横無尽な曲展開に翻弄されそのままどこまでも連れて行かれてしまう。

そうして散々弄ばれた末に40分過ぎからいよいよ終盤に突入するもののこれがまた曲者。いかにもクライマックスという展開が2回繰り返され3回目にとうとうチューブラー・ベルズが高らかに鳴り響きさすがにこれで仕舞いとなるのだが、残響が消え去らないうちにまた太鼓のリズムがはじまってしまう。そしてなにやら魔女のバアさんかマーガレット・サッチャーかというような声質の女性によるリスナーへの語りかけがはじまるのだ。しかも開口一番"I suppose you think that nothing much is happening at the moment."とくる。もうね、タイトルで煙に巻かれ警告文でおちょくられ「Happy?」で煽られ曲展開で弄ばれついでにモールス信号で特定の個人への罵声を聞かされ(これは言われないとわかんないけど)、その挙句サッチャー(に似た声のおねえさん)にこんなこと言われるって、なんなんだこれはふざけやがって最高か。ひどいことされてるんだけど気持ちよすぎてわけわけんなくなっちゃう快楽堕ち系エロマンガのヒロイン気分を味わえる、というのが思いつく限り最大の賛辞です。

その果ての、本当に最後のクライマックスはそれはもうものすごい壮大な盛り上がりであり、感慨とか思い入れとか以前に実際問題この小音量と大音量の差が激しいアルバム中の最大音量(簡単なデジタル騒音計でそれまでの大音量部分より10dBぐらいでかい)となっている。これから聴く人には気をつけてほしいという気持ちといい加減爆音で翻弄されて気持ち良くなった末に音量上がり過ぎてどうしようもなくなってほしいという気持ちがせめぎ合う感じなので各自近所迷惑にならない範囲で塩梅してほしい。

 

即興で作られたというだけあってよく言えば変幻自在悪く言えばひたすら脈絡が無い作品なのだが、重要な主題は最初の10分程度の間にほとんど登場し以降はそれらの変奏であると言えなくも無い。なのでそんな気張らず最初のうちはひとつふたつのメロディを拾い上げるくらいのつもりで聴いてみればいいと思います。大丈夫大丈夫すぐに気持ち良くなる。

 

『Amarok』はマイク・オールドフィールドのスタジオRoughwood CroftにSonyの48トラック・デジタル・レコーダーPCM-3348が導入され、フルデジタルで制作された最初の作品。前述した通りフルデジタル録音によるダイナミックレンジの広さを大胆に活用しており、楽曲構成もレコード時代のA面B面という制約にとらわれていない。さらに楽曲をチャプターごとにトラック分けすることすらせずあえて1枚1トラックで押し通した点まで含め、CDというフォーマットだからこそ出来る表現をこれでもかと盛り込んだアルバムとなっている。 そういった意味でも今作こそまさにCDという音楽メディアを代表するマスターピースの1つであると個人的には思っているのだけど、それはそれとしてまあ案の定と言うべきかリリース当時は商業的に大敗で本人曰く「悲劇的」というほど売れなかったらしい。

 

今作は2019年4月現在の段階ではサラウンド・リミックス等はされておらず、最新のバージョンは2000年リリースのサイモン・ヘイワース(Tubular Bellsのエンジニアでもあった)によるVirgin Records時代のアルバムをHDCDフォーマットでリマスターした一連のシリーズのもの。通常のCDとして再生した限りではオリジナル・リリースのCDと比べて少しだけダイナミックレンジが抑制されている。たぶんHDCDデコーダーを通して再生することで本来のダイナミックレンジになるのだと思うが今のところ未検証です。なおオリジナルのブックレットには使用楽器の他にウイリアム・マレー(「On Horseback」の共作者)によるAmarokにまつわる御伽噺が掲載されページ背景も楽曲の構成に関するメモ書きが使われていたりして興味深かったが、リマスター盤でブックレットのデザインがオシャレに一新された結果ごっそり省かれてしまった。

Discovery / Mike Oldfield (1984/2016)

 

Discovery

Discovery

 

Remastered from the original master tapes by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

『The 1984 Suite』 5.1 Surround & 96kHz/24bit Stereo Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1984年発表のマイク・オールドフィールド9枚目のアルバム。タイトルはジャケット表に『Discovery』、背と裏には『Discovery And The Lake』と表記されている。前作B面、特に「Moonlight Shadow」の成功で手応えを掴んだであろうマイクがより大人向け風な歌ものポップスに焦点を絞って制作した作品で、以降Virgin Recordsを離れるまでの基本的なスタイルをここで確立した感も。

ヴォーカリストとしてマギー・ライリーとバリー・パーマーが参加し、アルバムは基本的に二人の担当曲が交互に配置された構成。また前作に引き続きサイモン・フィリップスがドラムで全面的に参加、プロデューサーとしても名を連ねている。

 

「To France」 マイク・オールドフィールドとマギー・ライリーの「Moonlight Shadow」に次ぐ代表曲で、ケルティックなイントロの主題から引き込まれる。歌詞はフランスとも関わりの深いスコットランド女王メアリー・ステュアートに関するもの。12" Extended Version(ボートラとして収録)もいいです。

「Poison Arrow」 バリー・パーマーががんばって高音出してるダークな楽曲。サスペンスかホラーかといった雰囲気で、「Tubular Bells」の主題がちょろっと出てくるのも狙ってのことかも。

「Crystal Gazing」 マギー曲。コーラスの透明感が好き。

「Tricks Of The Light」 ヴァースをバリー、コーラスをマギーが担当した唯一のデュエット曲で、シングルカットもされた。マイクのギター・ソロが冴えている。

「Discovery」 バリーのヴォーカルによるヘヴィ・チューン。"When you want the score"という歌い出しでもう「あっこれは心境をわりと素直に反映してる系のやつですね」ってなるタイトル・トラック。Scoreといば我らがトニー・バンクスにも「I Wanna Change The Score」というたいへんキュートな曲がですね

Talk About Your Life」 マギーによるB面頭の曲で、「To France」と共通の主題が登場する。派手さはないがいい曲。

「Saved By A Bell」 バリーによる歌ものラストを飾る、幻想的で壮大な楽曲。サイモン・フィリップスも絶好調。歌詞は「Tubular Bells」がきっかけて商売が成功した何処かの誰かへの皮肉込み?

「The Lake」 アルバム唯一のインスト。10分越えの長尺曲にして、「Discovery」と並ぶタイトル・トラックでもある。裏ジャケに"Recorded in the Swiss Alps at 2000 metres within sight of Lake Geneva on sunny days"と表記されていることから、レマン湖の印象から着想を得たのではないかと思われる。正直マイクの長尺曲のなかでは散漫な印象がないこともないけど(聴き込みが足りないだけだとも思うが)、その分サイモン・フィリップスの活躍の場が多いのと後半の展開がたまらない。

 


Mike Oldfield - To France

出だしの部分音切れてるじゃん……

 

2016年にリリースされた今作のデラックス・エディションは2CD+DVDの3枚組。

Disk 1は本編およびボーナス・トラックで、「To France」「Tricks of the Light」それぞれの12”シングルに収録されたトラックを補完している。「To France」の12”バージョンはもちろん、「In The Pool」「Afghan」といったマイクお得意のインストものも相変わらず良質だし「Tricks of the Light」のインスト版が元々の編曲の良さもあって案外面白い。

Audio Archiving CompanyのPaschal Byrneによるリマスタリングも非常に良いです。

 

Disk 2とDVDには新たに編纂されたコンピレーション・アルバム『The 1984 Suite』を収録。DVDの方は5.1chサラウンドと96kHz/24bitステレオ音源の2種類が入っているので購入以来Disk 2を再生したことがないかもしれない……

『The 1984 Suite』はマイク・オールドフィールドが今作『Discovery』と『The Killing Fields』(ドラマのサウンドトラック)という1984年に制作した2つのアルバムから楽曲をピックアップし自身の手でリミックスを行った、ある種のコンピレーションともリミックス・アルバムともいえる作品。正直『Discovery』全編をリミックスしない代わりに『The Killing Fields』の代表曲2つも加えときましたみたいな雰囲気が無きにしも非ずだけど、単純に思いついたからやってみただけの可能性も(どうやら一連のリミックス作業はかなりマイクに裁量があったらしいので)。

アルバムの性質上完全な新曲はないが新たにリメイクされたトラックが2つ収録されている。Re-Discovered Trackと銘打たれた「The Royal Mile」はDisk 1ボートラとしても収録されているシングルB面インスト「Afghan」をパイプ風のシンセサイザー中心に編曲したもの。「Zombies」は本編に先駆けて2015年10月31日にデジタル・シングルとPVで配信されたトラックで、「Poison Arrow」のヴォーカルをホーキング博士風に、歌詞中の”Somebody's”を”Zombies”に置き換えたハロウィン向けの形容し難いなにか。

基本的にどのトラックもこれ以前のリミックスと同じくサラウンド、ステレオともに良質な仕上がりで、アルバムとしてはなんだかなぁという気もしないこともないけどまあ代表曲はしっかり抑えているので楽しめます。ただ一部曲間の処理とか音量バランスの調整とか雑じゃない?という気はする。長尺曲中心の過去のリミックスと比べてサブウーファーにぶっ込まれてる箇所は少ないけど、「Étude」のシンセベースはなかなかブンブン鳴ってます。

DVDにはミュージック・ビデオ3本も収録しているが、「To France」はPVではなく上に貼ったテレビ出演時の映像。まあPVのほうはたしかかなりやっつけ感あるものだった。それとメニュー画面とか全体的に同じデラックス・エディションのシリーズでも初期のものより画質が向上してる。

ちなみに『The Killing Fields』サウンドトラックは今作と同時にリマスターのうえCDとLPの2フォーマットで再発された他、『The 1984 Suite』のほうもLP単体でリリースされている。

 

マイク・オールドフィールドがVirgin Records時代のアルバムをリミックスした一連のシリーズは今のところ本作が最後で、インタビューとか読むかぎりこれで打ち止めという気もする。実際80年代後半になると元からCDでのリリースを前提に制作されていることもあって、当時のミックスで十分音質もクリアだしサウンド的にもバランスが取れている。本人が弄るとこないと言うならその通りなんだろうな、という感じです。個人的にはアマロックはもちろん、レーベル移ってからのベルズ2や遥かなる地球の歌もサラウンド化希望

Crises / Mike Oldfield (1983/2013)

 

Crises

Crises

 

Remastered from the original master tapes by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

 

1983年発表。70年代的な中音域の厚み感みたいなものが残っていた前作『Five Miles Out』からシンセサイザーやパーカッションの残響が美しい冷たく透き通ったNew Waveサウンドへと変化した作品。ジャケットのイラストや色使いもこのアルバムの響きによくマッチしている。またこの音響はのちのNew Ageに対してマイクが与えた影響の大きさを直に感じさせもする。

アルバムは前作に引き続いてA面に大作1曲、B面によりポップな楽曲という構成。特にB面はこれまでになく歌ものポップスとして完成された作品が並ぶ。ドラムにサイモン・フィリップスの他、B面のヴォーカル曲にはマギー・ライリー、ジョン・アンダーソンにロジャー・チャップマンと豪華な面子を迎えている。またサイモン・フィリップスはマイクと共同でプロデューサーとしてもクレジットされている。

 

「Crises」 アルバム・タイトルを冠したA面を占める大作で、これまでの長尺曲よりもはっきりと「Tubular Bells」の延長上にある作風。途中めずらしくマイク本人のヴォーカルが入る。曲の長さは20分程度だがクライマックスの盛り上がりに向けた展開がはやくも10分過ぎには始まりそこからずっとじりじり演っているので、なんだかミニマル的というよりむしろワーグナーなんじゃないかという気もしてくる。そのクライマックスはがっつり音量上げて鳴らしていれば独特の壮大さを味わえるが、音響的にはどこまでもクールなのでそれなり程度の音量だとさんざん引っ張ったわりになんかぱっとしない、みたいな印象になりがち。そういうとこがまたマイクらしいっちゃマイクらしいけど。ただしこれはあくまでスタジオ作品としての話で、当時のライブ音源や映像では「タコ人間」サイモン・フィリップスの見せ場としてバンドも観客も大いに盛り上がっていたことが確認できる。

「Moonlight Shadow」 皆さんご存知、「Tubular Bells」と並ぶマイク・オールドフィールドの代表作。一度耳にしたら忘れない印象的なメロディラインを持ち、今作の音作りやマギー・ライリーの淡々としつつも悲しみの滲むようなパフォーマンスの相乗効果もあって実際非常に優れたポップソングに仕上がっている。歌詞は愛する者を失った人間の心情を…って前作でもマギーの歌パートそんな感じだったよな。

「In High Places」 ヴォーカルはジョン・アンダーソン。彼のボーイ・ソプラノ的声質も今作の音作りと実によく馴染む。

「Foreign Affair」 再びマギー・ライリーのヴォーカル。こちらはより無機質な反復によるミニマル・ミュージック的要素の強いトラックで、今作の冷たく澄んだサウンドとマギーの声質の相性の良さが際立っている。

「Taurus 3」 牡牛座シリーズ第三の刺客で、小気味好くまとまった小品といった風情のインスト。

「Shadow On the Wall」 ロジャー・チャップマンのヴォーカルによるマイク流ヘヴィ・ロックとでも言うような楽曲。彼の声質や歌い回しは他の二人とあきらかに傾向が異なるので最初ちょっとギョッとしたけどこれはこれで。

 


Mike Oldfield - Moonlight Shadow ft. Maggie Reilly

 

今作は2013年に30周年記念で3CD+2DVDボックスセット、2CDデラックス・エディション、1CDそしてLPがリリースされたのだけど、ボックスセットはすぐ売り切れになって再生産されたという話も聞かずたまに中古で出るとプレミアがついている。問題なのはせっかくのサラウンド・リミックスがその入手困難なボックスセットのみに収録されていることで、結局自分は入手することができないまま現在に至っている。デラックス・エディションを初期4作のと同じ2CD+DVDにしてくれていれば……

1CDの内容はようするにボックスとデラックス・エディションにおけるDisk 1そのもので、なんならレーベル面の印刷もそのまま。

リマスターに関しては相変わらずAudio Archiving CompanyのPaschal Byrneがいい仕事をしてくれていて、なんのストレスもなくがんがん音量上げて気持ちよく鳴らすことができる仕上がりになっている。

 

1CD(つまり他エディションにおけるDisk 1)収録のボーナス・トラックは7曲。

「Moonlight Shadow」「Shadow On the Wall」のUnplugged Mixはオリジナルのヴォーカル・トラックにシンプルなアコギ中心の伴奏を組み合わせた(というか他の音を省いたと言う方が適切かも)もので、まあ両曲ともマイク・オールドフィールドの作品のなかでも名ヴォーカリストによる名唱といった類いのものだから作りたくなったんだろうなーとか勝手に想像してる。

「Mistake」はアルバム『Five Miles Out』から今作の間にリリースされたシングルA面曲で、『QE2』でもプロデュースを担当したDavid Hentschelと再び組んだ明るくポップな曲調のトラック。わりとあからさまに「狙った」感じを出してきている。ヴォーカルはマギー・ライリーで、シングル自体はなぜかThe Mike Oldfield Group名義でのリリースだった。なおB面の「(Waldberg) The Peak」は『Five Miles Out』のデラックス・エディションに収録。

「Crime of Passion (Extended Version)」は翌84年リリースのシングルA面曲。ヴォーカルは次作『Discovery』に参加するバリー・パーマーで、曲調も次作に通じる大人向けポップスといった具合。これも愛する者を失った人間の心情を的なやつであり、シングルのジャケットはマイクの母親の肖像(当時すでに故人)をあしらったものだった。たぶんわざと滑稽な感じを狙ったのであろうPVがそれにしても変。

「Jungle Gardenia」は同シングルのB面曲で、ケルティックなフレーバーを効かせたギターインスト。タイトルからして密林に咲くクチナシの花をモチーフにしているはずなのにケルティック風なのだけど、まあべつに表現として間違ってるわけじゃないしわりと以降のインストもそういう感じである。

「Moonlight Shadow」「Shadow On the Wall」12" Single Versionは読んで字のごとく両曲の12"シングル版。特に「Moonlight Shadow」は意図的に3分間ポップスとしてあっさり目に仕上げたのであろうアルバムや7"のバージョンとは違った、より聴きごたえのある凝った編曲になっていてこちらはこちらで良い。また歌詞は一部アルバム版にはないフレーズを含んでいる。

 

ところで「Moonlight Shadow」のシングルB面曲「Rite Of Man」、今まで一度も公式にリイシューされてなくない?

Five Miles Out / Mike Oldfield (1982/2013)

 

Five Miles Out: Deluxe Edition

Five Miles Out: Deluxe Edition

 

24-bit digital remastering by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

2013 5.1 Surround Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1982年発表。アメリア・イアハートを想起するジャケット・イラストや「Taurus II」「Orabidoo」「Five Miles Out」といった各楽曲に共通する主題・歌詞から旅にまつわる希望や喜びそして恐怖といったテーマがおぼろげに浮かび上がってくるアルバム。

プロデュースとエンジニアリングは基本的にマイク自身が手掛けているが、「Mount Teidi」にRichard Manwaring、そして制作が難航したことで知られる表題曲「Five Miles Out」にトム・ニューマンがそれぞれクレジットされている。

 

A面を占める大作「Taurus II」は冒頭の主題がアルバム最終曲と共通なことで密かに結末を暗示しつつも楽曲そのものは後半にいくにつれ楽しげに展開していく。途中挟まれるイーリアンパイプスのソロが素晴らしい(THE CHIEFTAINSのPaddy Moloneyによる)。マギー・ライリーによるヴォーカル・パートは「The Deep Deep Sound」と名付けられている。ラストは冒頭の主題に戻り、余韻を残しつつ終了。

「Family Man」はマギー・ライリーのヴォーカルをフューチャーした、マイク・オールドフィールド初と言っていい本格的な歌ものポップス。マイク本人のバージョンもシングル・カットされUKチャートでそこそこの順位に登ったが、翌83年にアメリカのホール&オーツがこの楽曲をカバーし米英で大ヒットとなった。歌詞はなんか男の人が女の人に誘惑されてる感じのやつなのでアルバムの中で一曲だけテーマが違って浮いてる気もする。

「Orabidoo」は複数のパートに分かれた10分超えの楽曲。牧歌的なオルゴール風の導入ではじまる前半は「Taurus II」中盤以降の楽しげな雰囲気を引き継いだような前途洋々とした感じがあるが次第に不穏さを増していき、「Taurus II」と共通の主題と共に曲調が急変、厳しい雰囲気のインストに(挿入されるヒッチコック映画の台詞“Don't Come In Again...”はこの展開を揶揄してのものだったりするのだろうか?)。後半は「Ireland’s Eye」とも通称されるマギー・ライリーのヴォーカルをフューチャーしたパートで、聴きようによってはほとんど鎮魂歌である。

「Mount Teidi」は前作までの流れを汲んだ作風(ようするにいつものノリ)のインスト。マイク・オールドフィールドカナリア諸島テイデ山に登った際に得たアイディアを反映しているとか。パーカッションはなんとカール・パーマー

アルバム・ラストを飾るタイトルトラック「Five Miles Out」は加工されたマイク・オールドフィールド自身のヴォーカル(一部某ピルトダウン人ボイスも)にマギー・ライリーの呼びかけるようなヴォーカルが加わって展開していく、4分ちょいながら凝った構成の楽曲。「Family Man」や本作以降の歌ものとはまた違った趣のある傑作である。歌詞は航空関係の専門用語が頻出し詳しい意味はわからんけど非常にやばい状況なことは伝わってくるやつで、最後は意味深な飛行機のSEと共にフェードアウトする。シングル・カットされ、PVも制作された。

 


Mike Oldfield - Five Miles Out ft. Maggie Reilly

マギー・ライリーの声帯を持つ謎のちゃんねーが登場するPV

 

長いことジャケットと最終曲そしてマイク・オールドフィールド本人の飛行機好きのイメージからアルバムを通して空の旅を扱っているという先入観を持っていたのだが、「Taurus II」の歌詞はあくまで抽象的なものであり「Orabidoo」は途中カトマンドゥという地名が出てくることからも登山家と残された人の話と思われる。「Mount Teidi」もあきらかに山をモチーフとしていて、直接的に飛行機が関係するのは「Five Miles Out」のみ。あらためて考えてみるとこれらの楽曲に共通するのはむしろ「旅人」と「天候」であった。「Family Man」もまあ歌詞中の"I"が旅人でまさに"she"という嵐に直面していると言えなくもない…か?

 

今作のデラックス・エディションはオリジナル・ミックスのリマスターとサラウンド・リミックスのみでステレオのリミックスは制作されなかった。まあもともと完成度の高いオリジナル・ミックスのリマスターがなんの不満もない出来栄えなのであってもそんなに聴かないと思う。

目当てのサラウンド・リミックスはレイアウトが良くて期待通りの仕上がり。70年代作品のリミックスと比べて楽曲の構成面がほとんど弄られていない(よね?)ことからも元々の完成度の高さが伺える。タイトルトラックの最後、例のブーン音はオリジナル以上に「楽曲を終わらせる音」として強調されており、この音が楽曲を断ち切るように終わる。

このアルバムに限らず、マイク・オールドフィールド本人の手によるサラウンド・ミックスはポップス系では標準なサラウンド・スピーカーにも実音を入れてリスナーを取り囲むタイプのもの。どれも製作者本人が手がけていることもあってか楽曲の展開に合わせた音の配置が非常に的確でなんの違和感もなく聴けてしまうので、逆に自分の乏しい語彙力では楽曲の構成をオリジナルから弄っている箇所の指摘以外あんまり書くことが思い浮かばなかったりします。

 

CD1のボーナス・トラックは2曲。「Waldberg (The Peak)」はシングル「Mistake」B面曲(シングル・リリースのみの「Mistake」そのものは次作『Crises』のリイシューに収録)。マイクらしいバグパイプの音色をフューチャーしたトラッド色の濃いインストである。「Five Miles Out」のデモ・バージョンはマイクが自身の声を用いる決断を下す前段階のもので、完成版とは曲構成自体が異なる。マギー・ライリーのヴォーカルも完成版でのマイクとの役割分担がない分より切迫感のあるものになっている。音質も悪くないのでこれはこれで別バージョンとして楽しめます。

CD2は本作に伴うツアーからのライブ音源。会場はドイツのケルンなんだけど、同じノルトライン=ヴェストファーレン州にWaldbergという地名の丘陵?があるらしいので、あるいは「Waldberg (The Peak)」も「Mount Teidi」の場合と同じくそこから受けた印象に基づいているのかもしれない。

DVDにはアルバム本編のサラウンド・リミックスの他に「Five Miles Out」PVとマイク・オールドフィールド迫真の口パクが見られるテレビ出演時の映像を収録。あんまり迫真なんでマギー・ライリーが笑っちゃってるような

QE2 / Mike Oldfield (1980/2012)

 

Qe2

Qe2

 

Remastered from the original master tapes by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

 

マイク・オールドフィールドの80年代幕開けを飾るアルバムであるが、なんとなく「ここらでひと休み」感もある、これまでより肩の力を抜いた雰囲気の作品。3, 4分程度のインストが多く収録され、しかもうち2曲はポップスのカバーというあきらかにこれまでとは異なる構成になっている。以降の作品で重要な役割を担うマギー・ライリーがコーラスで初参加したほか、プロデューサーとしてマイクと共同でDavid Hentschel(ピーター・ガブリエル脱退後のGENESISの傑作群を手掛けた)が参加。エンジニアリングも前作に引き続き本職の人たちが手掛けており、全部自分でやってしまうのが基本なマイクにはめずらしい制作体制となっている。

QE2とはクイーン・エリザベス2号のことで、ジャケットのデザインも船体を抽象化したもの。さらにオリジナルのレコードでは舷窓部分がカットアウトになっており、インナーには船の概略図が掲載されていた。

 

アルバムとしては前作『Platinum』で導入したリズム感覚やシンセサイザーの音作りを継承しつつ、ひとつひとつの楽曲の独立性を高めたような印象。特筆すべきはA面冒頭の「Taurus 1」で、以降のアルバムで同じタイトルを冠した連番シリーズが制作され、様々な楽曲でさりげなく(ときとしてあからさまに)主題が引用される重要な作品であり、演奏時間も本作最長の10分となっている。他の楽曲も粒ぞろいで、マイクの作品の中でも気軽に聴けて十分楽しめる手に取りやすいアルバムに仕上がっていると思う。

 


Mike Oldfield - Wonderful Land

前述した「2つのポップスのカバー」はそのままこのアルバムからシングルカットされた2曲でもあり、THE SHADOWSの「Wonderful Land」は上の通りPVが制作され、ABBAの「Arrival」はなぜかストレートに本家パロディなヘリコプターのジャケットだった。

 

リマスターは例によって良好。ボーナス・トラックとしてシングルB面の「Polka」ライブ音源と「Wonderful Land」シングル版、そして「Sheba」の2012年版らしい「Shiva」を収録。『Platinum』リマスター盤での「North Star」は女性Voが追加されていたが、「Shiva」にはあらたに男性Voがフューチャーされている。この男性Vo(マイク本人?)は意図的に加工されているからとはいえボソボソした声質で、歌い回しが妙にねちっこくて他のパートとの縦線のズレが気になり、聴いていてどうにも違和感がある。正直自分の如き若輩者には作者の意図したところがわからないです。