Platinum / Mike Oldfield (1979/2012)

 

Platinum

Platinum

 

Remastered from the original master tapes by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

 

1979年、マイク・オールドフィールドのはじめてのライブ・ツアー後の作品。内容的には充実していたが大赤字だったツアーの影響かアメリカンなポップス的要素を大々的に導入しており、これはこれでかなり独自色が強い作品に仕上がっている。

A面に長尺曲、B面により短い楽曲群という以降何度も登場する構成も本作ではじめて導入された。

 

大半の楽器をマイク自身が手掛けていた前作までと違い、今作は多数のミュージシャンが参加し基本的にバンド形式で録音されている。またエンジニアリングやプロデュースも他者に委ねており、非常に挑戦的な姿勢で制作に臨んだことがうかがえる(むしろこっちのが一般的なわけですが)。その結果前作までの綿密さや緊張感が薄れたかわりによりリラックスしたアンサンブルに変化し、今作の音楽性とうまいこと合致したと思います。

なお今作以降アルバムやツアーで活躍するモーリス・パートが初参加したほか(クレジットがMaurice Pertになってる)、フィリップ・グラスのカバーを含む今作にエンジニアとしてTHE PHILIP GLASS ENSEMBLEのKurt Munkacsiが関わっているのが興味深い。

 

タイトル・トラックでありA面を占める大作「Platinum」は第1部「Airborn」こそ前作『Incantations』の延長上にある作風だがドラムセットという確実な変化があり、第2部はホーン・セクションが登場しドラムもより強調されファンク風なこれまでにない雰囲気へ。さらにディスコな第3部「Charleston」からビートを維持したまま突入するクライマックスの第4部「North Star」はアメリカの現代作曲家フィリップ・グラスの楽曲をもとにマイクが大幅なアレンジを加えたもので、全体的にとても大胆なこれまでとは違った表現が試みられている。

以降のアルバムでは大作とポップで短い楽曲の住み分けがよりはっきりと志向されたこともあって、結果的にこの楽曲はマイクの長尺曲のなかでも独特なものになったんじゃないだろうか。

 

B面はマイクのアルバムにタイトル・トラック以外の楽曲が収録されるというまさに初の試み(On Horsebackがあるけど)なのだけど、正直全体としてはなんとも言い難い。

というのもこのアルバムの初版では「Into Wonderland」の箇所に「Sally」というタイトルのマイク自身がヴォーカルをとる楽曲が収録されており、前後の曲とひとつながりのメドレーを形成していたらしいのである。

しかも「Airborn」や「Punkadiddle」には「Sally」と共通のメロディが使われていたりリマスター盤における「Punkadiddle」イントロ部分が実際には「Sally」のクライマックス部分だったりと、元々はもっとA面B面を通して楽曲同士の関連性が高いアルバムだったそうだ。

それが詳しい経緯は知らないがセカンド・プレスでVirgin Recordsのリチャード・ブランソンの意向とかで「Into Wonderland」へと差し替えられ、以降マイク本人も確実に関わっているこのリマスター盤においてすら元々意図されていた楽曲の流れが断ち切られた状態のままになっているのだ。

まあマイク本人がこれでいいと思っているのなら作品としてはこれでいいんだろうし、「Into Wonderland」やその前後の流れがダメなわけじゃ決してないんだけど、ないんだけど……。ていうかマイク、今回の一連のリイシューで自身がヴォーカルとった曲を意図的に無視してない?

そのいろいろな意味であれこれあった末の、アルバムラストを飾る「I Got Rythm」はアイラとジョージのガーシュウィン兄弟による名曲。イントロのエレピが素晴らしい効果をあげており、後半にはチューブラー・ベルズも登場する。

 

Audio Archiving Companyによるリマスターそのものは相変わらず良好でまったく不満がないです。楽器とコーラスが重なるフォルテ部分でちょっと音がぐしゃっとなるけど、これは多分マスターからしてそういうバランスで作られてるんだと思う。

 

残念ながら今作と次作『QE2』はボーナス・トラックで1曲ステレオ・リミックスが作られただけでサラウンド・リミックスは作られなかった。

そのリミックスである「North Star (2012 Mike Oldfield remix)」にはオリジナルのコーラスとちょうど対旋律になる女性ヴォーカルが追加され、楽曲の前半から大きくフューチャーされている(ついでにコーラス自体も前半から登場する)。音が整えられた結果後半のフォルテ部分でも音がぐしゃっとならず綺麗に響くので、迫力が薄れた面もあるけどこれはこれで悪くない。長尺曲の美味しいところを単品でさくっと聴けるのも利点か。

個人的にはシングルA面曲「Blue Peter」の収録が嬉しい。以前のトラッド路線シングル曲におけるリコーダー・パートをシンセに置き換えた感じの愛嬌のある楽曲で、PVもすごくいい雰囲気なんですよこれ。本作デラックス・エディション収録のライブにおける「Portsmouth」とのメドレーも最高です。ちなみにイギリスの子供向けテレビ番組のテーマ曲のカバーだそうで、当時同番組(たぶん)でマイクの録音作業の様子が紹介されたりもしたようだ。

 


Mike Oldfield - Blue Peter

 

Incantations / Mike Oldfield (1978/2011)

 

Incantations: Deluxe Edition

Incantations: Deluxe Edition

 

2011 Remastered Edition of the Original 1978 Stereo Mix Supervised by Mike Oldfield

24-bit digital mastering by Paschal Byrne at The Audio Archiving Company, London

5.1 Surround Sound Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1978年リリースの4thアルバムで、レコード2枚組の大作。3年前の前作『Ommadawn』はLP両面ともはっきりとした序破急の展開を持つ密度の高いタイプの傑作であったが、こちらはいくつかの主題をじっくりと反復しつつレコード4面かけてじわじわ深まっていくタイプの傑作。

アルバム全編がそのタイトルを思わせる神秘的雰囲気に満ちていて、あくまで個人的な感傷を扱っているようにも思われたこれまでの3作と比べてスケールの大きな音楽になっている。

特に全体的に激しい曲展開のPart 3からPart 4に入って一旦沈静化、そこから次第に盛り上がり大団円的ピークへ達するかと思いきや一転マリンバのみになる流れは見事。以降のあえて盛大なクライマックスとはならず静かに緊張感を維持するエンディングパートもすばらしい。

曲中の歌はPart 2がロングフェロー、Part 4がベン・ジョンソンの詩による。

 

オリジナルのアルバム・ジャケットは前作までの長髪髭面から髪と髭をバッサリと落としあたかも爽やかな好青年であるかの如き出で立ちとなったマイク・オールドフィールドが印象的。

この2011年リイシューではジャケットが岩礁をモチーフとしたものに新装された。この岩はオリジナル・ジャケットでマイクの後ろに写っていてLPのレーベル面にも使われてるんだけど、なにか謂れでもあるのだろうか?(北海道の神威岩とかみたいな感じで、Incantationsってネーミングとなにかしら関連性のある名前でもつけられてるとかそういう)

 

 

以下でとりあげるデラックス・エディションは気になる点が多くていつも以上に文句たらたらになってしまったので、適当にスルーしてください。

 

Disk 1、本編のリマスター具合はとても良い。ただし初期プレスは不良品で音飛びがあったらしいのでこれから買う人は注意してください。

ボーナス・トラックとしてアルバムの後にリリースされ物議を醸したシングル「Guilty」が収録されている。アルバムと共通するモチーフを用いつつも曲調はディスコやフュージョン的なものになっていて、曲そのものも、アルバム本編の余韻を見事にぶち壊すという点でも非常におもしろい。いや後者は大問題ですけど。せめて本編終了からボートラがはじまるまでのブランクをもっと長めにとって欲しいしこれじゃあほんとにGuiltyってやかましいわ。

加えてここに収録されている「Guilty」はPV用の別バージョンであり、当時12"と7"でリリースされたシングルとは異なる音源となっている。実際綺麗にリマスターされているわりに当時のテレビ音源特有のモヤモヤした感じの音である。

この曲の12"と7"それぞれのバージョンはおそらく未だにCDというかデジタル・フォーマットでリリースされていないと思われる。はよ

 


Mike Oldfield - Guilty

 

Disk 2及びDVDのサラウンド音源は多少内容の違いはあるが基本的にリミックス集で、本編の一部パートをそれぞれ単体のトラックとしてピックアップしたものが中心となっている。そう、つまり、アルバム全編のサラウンド・リミックスではなくあくまで断片的なものなのでありますなぁ。

本編からピックアップされたリミックスは、たしかに音質的にはオリジナルより各楽器の響きが生々しくなってはいるものの、ここだけ聴かされても……というのが正直な感想であり自分はあまり楽しめない。サラウンドも、本編の流れのなかでこのシーンがこういう風に鳴っていたらまた違った感想になっていただろうとは思うものの、ぶっちゃけこれだけでどうしろと……みたいな気分になってくる、ような感じです。

あと「Guilty」に関してはリミックスされてもDisk 1収録の(一応)オリジナル・ミックスのモヤモヤ感を引き継いでいる。クリアな空間にモヤを纏った音が配置されてるとでも言えばいいだろうか。これは大元のマルチからしてこんな感じなのだと思われる。リミックス自体もクライマックスが12"バージョンをなぞっているのは興味深いけどギターがあまり朗々と鳴り響くようなプレイではないにも関わらず妙に強調されていたりフェードアウトのタイミングも雑な感じだったりとだいぶアレ。

何故こんなことになってしまったのか…本編がサラウンド・リミックスされていれば大勝利間違いなしな作品なのに……。マルチトラックテープの紛失とかあるいはなにか技術的な問題があってその上で最善を尽くしてくれた可能性だってあるのだけども、ライナー・ノートにもオフィシャルサイトにもなんら説明らしい説明は見当たらないのでなんでこんなことに……という不満ばかりが残ってしまう。

これらのディスクはどちらかと言うと本編そのもののリミックスよりも「Northumbrian」「Piano Improvisation」といった追加曲や「William Tell Overture」から「Wrekorder Wrondo」にかけての同時期のシングル曲が興味深いし内容的にも充実している。

なお「Diana - Desiderata」は「Diana」に『The 1984 Suite』の「Zombies」と同じようになにやら某博士風の男性ボイスが加わって宇宙がなんちゃら言っており、わからない。

 

DVD収録の映像はPVと「Incantations」のライブ映像。

前者は今の時代YouTubeでもオフィシャルで配信されているがまあ資料的に手元において置けるならそれはそれで嬉しい。「Guilty」のものすごく時代を感じるアニメーションも今見るといい味出してるし、「William Tell Overture」も正直編曲自体は当時のマイクのシングル曲の中では精彩を欠いた部類に入ると思ってるんだけど、映像は空元気っぽいアクションや最後の取って付けたような愛想笑いが可愛いのでオッケーなやつです。

「Incantations」はライブビデオ『Exposed』と同じ映像。ふつうに『Exposed』をリイシューしてくれ。

 


Mike Oldfield - William Tell Overture

 

Ommadawn / Mike Oldfield (1975/2010)

 

Ommadawn: Deluxe Edition

Ommadawn: Deluxe Edition

 

 24-bit digital remastering by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

2010 5.1 Surround Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1975年発表の3rdアルバム。魅力的な主題や展開が散りばめられつつも楽曲構成そのものはこれまでより簡潔でキャッチーにまとめられた充実した作品となっており、最高傑作に挙げられることも多い。

 

Part 1は神秘的な雰囲気ではじまり次第に盛り上がってピークに達し、一転ピアノとリコーダーのみになる前半の展開が見事。特にピアノとリコーダーのパートに入る瞬間はそれだけでイケます。

後半は展開的には前半をなぞるようになっているがどんどん厳しく切迫的になっていき、その中でギターが前半のようなピークに達しようと途切れ途切れにあがく。あがいた末にとうとう断末魔をあげ、あとには太鼓だけが残り終了。

 

Part 2は沢山の楽器が短いフレーズを繰り返すミニマル・ミュージック風に開始し、チューブラー・ベルズが鳴らされるあたりから次第にアコギとバグパイプの通奏音へと移行していく。この後のトラディッショナルなアコギソロとバグパイプソロが最高です。

バグパイプソロが一段落つくと木管に引き継がれつつ次第に雰囲気が変化し、一転マンドリンのリードする舞曲風へ。エレキギターが乗っかってソロをとりリコーダーも加わり一気にクライマックスとなる。

そして終了後しばらくのブランクがあってエピローグ的な楽曲「On Horseback」がはじまる。語り風のヴォーカルに子供たちのコーラスが加わるフォークソングで、最後はみんなで仲良く合唱みたいな具合で全曲を終了。

なんか希望を抱いて旅立った若者が苦難の末とうとう挫折しなんやかんやあって村のガンピーさん(モンティ・パイソンのスケッチとかで有名なアレ)に落ち着く的なストーリーが思い浮かんだり浮かばなかったり。曲の好きな箇所のこと書きたかったんだけどうまく書けなくてよくわからない解説風になってしまった。

 

マイク・オールドフィールド本人によるサラウンド・リミックスは安定のクオリティ。特に本作は前2作ほど楽曲構成も弄られておらず、オリジナルの雰囲気をそのまま拡張したものに仕上がっている。

Part 2ラスト「On Horseback」のヴォーカルは、オリジナルでは他の楽器に紛れてぼそぼそと聴こえてくる感じだったのがぐいっと前に出てきた(もともとの録音品質の関係かだいぶサチっているが)。特に最後のひと言はオリジナルでは聞き取れないレベルだったのがはっきりと分かるようになった。

Part 1クライマックスのギターソロは、オリジナルでは片chに寄っているのに対し、リミックスでは前方中央に配置されている。加えてステレオ・リミックスではそれなりに音量が大きめになっているのに比べるとサラウンド・リミックスでは他の楽器に紛れがちな程度になっており、同じリミックスでもだいぶ印象が異なる。

Part 1クライマックスのギターとPart 2クライマックスの「On Horseback」が、オリジナル・ミックスとサラウンド・リミックスでバランス的に逆転しているのが興味深い。

オリジナル・ミックスのリマスターは良好。フェードアウトのタイミング等、多少の微調整はされているらしい。

 


Mike Oldfield - In Dulci Jubilo

 

ボーナス・トラックは当時のシングルや『Boxed』に収録されたものが中心。「In Dulce Jubilo」「Arginers」「Portsmouth」といった楽曲はどれもトラディッショナル・ソングのカバーで、Les Penningのリコーダーが素晴らしい。「First Excursion」はアルバム本編と共通の素材を用いたインスト曲、みたいな雰囲気。

「Ommadawn Lost Version」と題された本編Part 1のデモ音源は非常に興味深い内容で、前半から本編ではアイディアを煮詰めた結果省かれたと思われる細かな違いが散見される。後半いきなり男性ふたりの会話が乗っかってきて、何言ってるのかよくわからんけどこれは右側の男性が「Ommadawn」ということなんじゃないでしょうか(会話後半に一箇所マスター由来と思われる欠損あり)。クライマックスの展開も本編とはまったく異なり、これ1曲で完結している印象が強い。音質的にもかなり良いというか、基本的に完成形と同じ品質で収録されている感じで、別バージョンとしてふつうに鑑賞に耐えうるものです。

 

ところでDVDのメニュー画面BGMは基本的にOmmadawn Part 2の舞曲部分なのだが、あきらかにアルバム本編のバージョンとは異なって聞こえる。憶測だけど「Ommadawn Lost Version」のPart 2編とでもいうべき音源が存在していて、これはその一部分なんじゃないだろうか。えっ聴きたいんだが

 


Mike Oldfield - Portsmouth

 

Hergest Ridge / Mike Oldfield (1974/2010)

 

Hergest Ridge: Deluxe Edition

Hergest Ridge: Deluxe Edition

 

24-bit digital remastering by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

2010 5.1 Surround Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1974年リリースの2ndアルバム。タイトルとジャケットから連想されるイギリスの自然風景のイメージどおり、トラッド・フォーク色の濃いゆったりとした曲展開が特徴。

ただし牧歌的で穏やかな曲調にあっても常に一抹の寂しさというか諦観のようなものがつきまとい、ことあるごとに厳しさが表出する作品でもある。しかもアルバムクライマックスで穏やかな主題に回帰したかと思いきや最後の最後に残るストリングスの音は不穏であり、結局まったく救われていないことを予感させる。

このどこか淡々とした楽曲展開はむしろ如何ともし難い危機的状況の現れなのでは、とか考えるのが楽しい傑作です。

 

オリジナルのジャケットはおそらくハージェスト・リッジで魚眼レンズを用いて撮影した風景をあしらったものだったが、2010年リイシューでは同地の航空写真に変更された。デラックス・エディションのDVD再生画面でもこの航空写真が映し出され、模型飛行機が脈絡なく飛び交っている。

音声は例によってDolby Digitalのみ。考えてみるとこのシリーズのDVD、ステレオ音源のハイレゾくらい同時収録する余裕あるはずなのでは?

ところでこのデラックス・エディション、手持ちの盤ではなぜかDVDディスクのレーベル面にDVDではなくCDロゴがプリントされているというあきらかなエラーがあったり。

 

マイク・オールドフィールド本人によるサラウンド・リミックスは例によって作品に集中しやすい良好な仕上がり。彼のサラウンド・リミックスはだいたいどれも良くて、不満があるとしたらサラウンドそのものの出来以外の部分だったりします。

メロトロンや女性コーラスの広がり具合、Part 2後半のいわゆる「Thunder Storm」場面の迫力はサラウンドならでは。加えて前作『Tubular Bells』のリミックスほどではないけど低音域がけっこうブーンと鳴る箇所もある(←サブウーファーが振動するととりあえず嬉しい)。

 

リミックスに際して細かなカットや追加が行われており、特にPart 1は印象がけっこう変わっているように感じる。たとえばPart 1中盤のオーボエ部分前にアコギによる前奏的なパートが追加されていて、効果的に雰囲気を高めていてすごく良いと思う。

また後半の展開への導入となるチューブラー・ベルズ部分のあと、オリジナルでは一旦ベースのみになる箇所がカットされ、さらにマンドリンかなにかによる「チャッチャッチャッ」って感じのリズムがけっこう大きめのバランスで鳴り続けるように変更されている。これは正直次の展開への導入が急になる上にマンドリンの音量が大きすぎて邪魔なように思います。

 

オリジナル・ミックスはこれ以前にリリースされてたCDが『Boxed』収録の別ミックスによるものしか無いためなにげに初CD化。リマスターも基本的に良好だが、おそらくマスターの劣化によると思われるノイズが入る箇所があるのと、Part 1イントロがオリジナルのLPではカットインだった(らしい)のがフェードインに変更されている。

ステレオ・リミックスは例によってあんま聴いてないです。

 

ボーナス・トラック、シングルB面曲の「In Dulci Jubilo (For Maureen)」が聴けるのは嬉しいんだけど、アルバム『Platinum』までのデラックス・エディションをすべて集めても70年代のマイク・オールドフィールドのシングル・リリースのみの楽曲をコンプできないのどうにかなりませんかね?

デモ・バージョンはなんと断片ではなく全曲を収録している。楽器構成が素朴なためもあってか、実際に完成された本編より素直でほのぼのとした印象を受ける。音質もこういうものとしては悪くないので分析とか確認のためじゃなくても普通に楽しく聴けます。

 

 

Tubular Bells / Mike Oldfield (1973/2009)

 

Tubular Bells (Dlx)

Tubular Bells (Dlx)

 

24-bit digital remastering by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

2009 5.1 Surround Sound Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1973年発表、マイク・オールドフィールドとVirgin Records双方にとっての“Virgin Release”である記念碑的作品。レコード片面1曲の2パート構成で、両パートとも冒頭で示される旋律がミニマル・ミュージック的反復とカノンや変奏曲を思わせる曲展開によって様々に変化していき、その末になぜか楽器紹介MC(ベンジャミン・ブリテン青少年のための管弦楽入門』のパロディと思われる)が出てきて大団円を迎えたり原始人が登場してわめき散らしたりえらいこっちゃな楽曲となっている。

 

アルバムはマイク・オールドフィールドとエンジニアのトム・ニューマン、サイモン・ヘイワースの3人でThe Manorの16トラック・レコーダーを駆使して制作されており、大半の楽器をマイクひとりで演奏している。

なかでもギターはアコースティック、エレクトリック両方が楽曲の展開に応じて重要なポジションを担当しつつ音色を工夫して笛やマンドリンっぽい音まで出したりとかなり活用されていて、「ギタリストがこつこつ作ったアルバム」感にあふれていると思います。それゆえこれ以降の作品と比べるとギターのお兄さんの独り言がえんえん続くような印象を受けたりもするのだけど、そういったところが1stアルバムらしいとも言える。

ちなみにアルバムのタイトルとなり今作にとどまらず以降の作品の多くにおいて象徴的に鳴らされるチューブラー・ベルズだが、もともとは偶然同じスタジオで作業していたジョン・ケイルが使用して置いてあったのを見かけたのがきっかけらしい。そのせいで「マイク・オールドフィールドジョン・ケイルのベルズをぶん取った」という噂がネット時代に入ってからもまことしやかに語られたりしていた。

 

2009年リリースのデラックス・エディションは、マイク・オールドフィールド本人によるステレオ及びサラウンド・リミックスとAudio Archiving CompanyのPaschal Byrneによるリマスターを収録。

このアルバムはオリジナル・リリースの数年後にQuad Mix版もリリースされ、SACDのマルチチャンネルにはその4ch音源がディスクリートで収録されてるらしいのだけど持ってないです。 欲しい

 

サラウンド・リミックスを一聴してまず驚くのが低音域のボリュームで、サブウーファーからかなりブンブン響いてくる。オリジナルからして結構な響き具合とはいえ、ここまでぶち込んでくるのは珍しいんじゃないでしょうか。

もともとサラウンド映えしやすい構成の楽曲で、マイク本人がリミックスを手がけていることもあって音のレイアウトがとても良く作品に集中し易い。これまでこの作品に馴染めなかったひとにもおすすめしたいよく出来たサラウンド・ミックスだと思います。

 

なおリミックスに際して何箇所か楽曲構成がいじられていて、Part 1後半でナレーションが始まる直前部分のリピート回数が変わってたり、Part 2原始人パートに入る手前の一旦ドラムとティンパニだけになる部分がカットされていたりする。

このティンパニ部分、個人的には「なんか始まる」感あってわくわくする箇所だったので残念。そして始まるのがPart 1のナレーション以上にまったく脈絡のない例のマイク・オールドフィールド御本人による原始人パフォーマンス、しかもクレジットがPiltdown Manという笑っていいのかもわからない奇妙なもので「ほんとに始まっちゃったけどなんだこれ……」ってなるやつな訳ですが(これはとても褒めている文章です)。

ここで自ら捏造された古代人類を演じるという行為に出ていることと、後のOmmadawnというネーミングにはなにかしら共通する意識があったりするのではないだろうか。サラウンドではこの原始人の咆哮がフロントからリアにパンしたりもしつつ全体としては無難なバランスに収められている。まあこんなもんだろうけどもっと無駄に強調しちゃったりしてもおもしろいのにとか思ったりも。

それにしても、こうしてサラウンドで各パートがくっきり分かれた状態であらためて聴いてみるとアンサンブル自体は意外なほどシンプルで音数も絞られているのでちょっと驚いた。なんだかとにかく沢山の音が使われてる複雑な楽曲って先入観があってそういうつもりで聴いてました。

 

ひとつ残念なのはこのデラックス・エディションのシリーズ全作でDVDに収録されている音声がDolby Digital形式のみなことで、せめてより圧縮率の低いDTSでも収録してほしかったところ。

他の音楽や映画ソフトで比較したかぎり、Dolby DigitalとDTSではDTSのがあきらかに高音域が伸びやかでノイジーさが無く、特にサラウンドの場合それが響きや空間表現に直結してくるのでけっこう気になってしまうのだ。

正直体感としてはDolby Digital→DTS→ロスレスの差にくらべればmp3だCDだいやハイレゾだなんて誤差みたいなもんです。すみません嘘ですそもそも前提が違うから比べるようなもんじゃないです。

 

オリジナル・ミックスのリマスターは安心安定のAudio Archiving Companyクオリティで、状態のいいソースから丁寧にデジタル化して余計なコンプなどもしてない印象。なんだかんだA面クライマックスでベルズがガツンと鳴ってくれるのはやっぱりこのミックスだし、そこからアコギのソロに収束する流れの自然さもこれがいちばんだと思う。リミックスに興味ない人もこっち目当てで入手するだけの価値はあるんじゃないでしょうか。ていうかデラックス・エディションと同時リリースの単品CDにはステレオ・リミックスじゃなくてこっちを収録してくれよ。

ステレオ・リミックスはなんかまあ、そりゃ音はキレイになってるけどサラウンドやオリジナルミックス差し置いてわざわざは聴かないような。

 

CDとDVDにはボーナス・トラックとしてシングルA面曲「Mike Oldfield’s Single」と本編ラストのトラッド「Sailor's Hornpipe」のオリジナル・バージョン(Viv Stanshallがなんか演説?してるやつ)を収録。どちらもステレオだけじゃくサラウンド・リミックスまで制作されている。

Mike Oldfield’s Single」はアメリカで「エクソシストのテーマ」としてシングル・リリースされた本編Part 1冒頭部分の抜粋盤がヒットしたことをうけてイギリス向けのシングルとして新たに企画、レコーディングされたもの。基本的にPart 2中盤(Caveman手前)の主題をオーボエやアコギ中心にアレンジしたもので、なんでもジョージ・マーティンから編曲に関する助言があったらしい。

「Sailor's Hornpipe (Original Version with Viv Stanshall)」はアルバム本編で使用されたバージョンより以前に当時注目されていたQuadraphonic Soundを駆使して「4つのスピーカー間を動き回るように」録音されたが、結局狙った効果が得られずボツになっていたもの。アルバムのQuad Mix版ではこちらのバージョンが使用されていたはずだけど音源が手元にないので確認できない。効果自体は今回の5.1chリミックスでずいぶん改善されたとかなんとか。

もしこのバージョンが本編に採用されていたらPart 1ラストの楽器紹介MCとこのしゃべくりが対応する形になっていたわけで、そういった意味でも非常に興味深い(のだが、なに言ってるのかさっぱりわからん)。 聞いた話ではQuad Mix版はおしゃべりが終わったらオリジナル・ミックスと同じ加速パートに入るらしいのだが、この音源はそのままフェードアウトする。

DVDにはさらにBBCテレビの2nd Houseに出演して「Tubular Bells, Part 1」を演奏した際の映像が収録されている。参加メンバーがMick Taylor, Steve Hillage, Fred FrithにPierre Moerlen他錚々たる面子ですごい。

 

デラックス・エディションと同時リリースのボックスセットには上記の内容に加え、アルバム制作過程のデモ音源を収録したCDとオリジナル・ミックスのLPが付属していた(あとポスターとかピックとか)。

さらにデジタル・デラックス・エディションと銘打った配信版も用意され、こちらは不可逆圧縮でLPがない(そりゃそうだ)かわりに「Tubular Bells (Opening Theme / From ''The Exorcist'') 」というおそらくアメリカでのシングル・カット版に加え、本編の「Boxed Mix」、つまりQuad Mix(SQエンコードされたステレオ音源)が収録されている。

さらにさらに2012年には5.1chリミックス音源のハイレゾ24/48ファイルがダウンロード販売されたりもしていたらしいのだけど、これってまだどこかで手に入るんすかね?

 

ちなみにデジタル・デラックス・エディションは現在Apple MusicやSpotifyでも配信されています。喜び勇んでさっそくBoxed Mixを聴いてみたところ、なんと一番気になってたPart 2最後の「Sailor's Hornpipe」がしれっとカットされてた。なんてこったい。

 

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