Tubular Bells / Mike Oldfield (1973/2009)

 

Tubular Bells (Dlx)

Tubular Bells (Dlx)

 

24-bit digital remastering by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

2009 5.1 Surround Sound Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1973年発表、マイク・オールドフィールドとVirgin Records双方にとっての“Virgin Release”である記念碑的作品。レコード片面1曲の2パート構成で、両パートとも冒頭で示される旋律がミニマル・ミュージック的反復とカノンや変奏曲を思わせる曲展開によって様々に変化していき、その末になぜか楽器紹介MC(ベンジャミン・ブリテン青少年のための管弦楽入門』のパロディと思われる)が出てきて大団円を迎えたり原始人が登場してわめき散らしたりえらいこっちゃな楽曲となっている。

 

アルバムはマイク・オールドフィールドとエンジニアのトム・ニューマン、サイモン・ヘイワースの3人でThe Manorの16トラック・レコーダーを駆使して制作されており、大半の楽器をマイクひとりで演奏している。

なかでもギターはアコースティック、エレクトリック両方が楽曲の展開に応じて重要なポジションを担当しつつ音色を工夫して笛やマンドリンっぽい音まで出したりとかなり活用されていて、「ギタリストがこつこつ作ったアルバム」感にあふれていると思います。それゆえこれ以降の作品と比べるとギターのお兄さんの独り言がえんえん続くような印象を受けたりもするのだけど、そういったところが1stアルバムらしいとも言える。

ちなみにアルバムのタイトルとなり今作にとどまらず以降の作品の多くにおいて象徴的に鳴らされるチューブラー・ベルズだが、もともとは偶然同じスタジオで作業していたジョン・ケイルが使用して置いてあったのを見かけたのがきっかけらしい。そのせいで「マイク・オールドフィールドジョン・ケイルのベルズをぶん取った」という噂がネット時代に入ってからもまことしやかに語られたりしていた。

 

2009年リリースのデラックス・エディションは、マイク・オールドフィールド本人によるステレオ及びサラウンド・リミックスとAudio Archiving CompanyのPaschal Byrneによるリマスターを収録。

このアルバムはオリジナル・リリースの数年後にQuad Mix版もリリースされ、SACDのマルチチャンネルにはその4ch音源がディスクリートで収録されてるらしいのだけど持ってないです。 欲しい

 

サラウンド・リミックスを一聴してまず驚くのが低音域のボリュームで、サブウーファーからかなりブンブン響いてくる。オリジナルからして結構な響き具合とはいえ、ここまでぶち込んでくるのは珍しいんじゃないでしょうか。

もともとサラウンド映えしやすい構成の楽曲で、マイク本人がリミックスを手がけていることもあって音のレイアウトがとても良く作品に集中し易い。これまでこの作品に馴染めなかったひとにもおすすめしたいよく出来たサラウンド・ミックスだと思います。

 

なおリミックスに際して何箇所か楽曲構成がいじられていて、Part 1後半でナレーションが始まる直前部分のリピート回数が変わってたり、Part 2原始人パートに入る手前の一旦ドラムとティンパニだけになる部分がカットされていたりする。

このティンパニ部分、個人的には「なんか始まる」感あってわくわくする箇所だったので残念。そして始まるのがPart 1のナレーション以上にまったく脈絡のない例のマイク・オールドフィールド御本人による原始人パフォーマンス、しかもクレジットがPiltdown Manという笑っていいのかもわからない奇妙なもので「ほんとに始まっちゃったけどなんだこれ……」ってなるやつな訳ですが(これはとても褒めている文章です)。

ここで自ら捏造された古代人類を演じるという行為に出ていることと、後のOmmadawnというネーミングにはなにかしら共通する意識があったりするのではないだろうか。サラウンドではこの原始人の咆哮がフロントからリアにパンしたりもしつつ全体としては無難なバランスに収められている。まあこんなもんだろうけどもっと無駄に強調しちゃったりしてもおもしろいのにとか思ったりも。

それにしても、こうしてサラウンドで各パートがくっきり分かれた状態であらためて聴いてみるとアンサンブル自体は意外なほどシンプルで音数も絞られているのでちょっと驚いた。なんだかとにかく沢山の音が使われてる複雑な楽曲って先入観があってそういうつもりで聴いてました。

 

ひとつ残念なのはこのデラックス・エディションのシリーズ全作でDVDに収録されている音声がDolby Digital形式のみなことで、せめてより圧縮率の低いDTSでも収録してほしかったところ。

他の音楽や映画ソフトで比較したかぎり、Dolby DigitalとDTSではDTSのがあきらかに高音域が伸びやかでノイジーさが無く、特にサラウンドの場合それが響きや空間表現に直結してくるのでけっこう気になってしまうのだ。

正直体感としてはDolby Digital→DTS→ロスレスの差にくらべればmp3だCDだいやハイレゾだなんて誤差みたいなもんです。すみません嘘ですそもそも前提が違うから比べるようなもんじゃないです。

 

オリジナル・ミックスのリマスターは安心安定のAudio Archiving Companyクオリティで、状態のいいソースから丁寧にデジタル化して余計なコンプなどもしてない印象。なんだかんだA面クライマックスでベルズがガツンと鳴ってくれるのはやっぱりこのミックスだし、そこからアコギのソロに収束する流れの自然さもこれがいちばんだと思う。リミックスに興味ない人もこっち目当てで入手するだけの価値はあるんじゃないでしょうか。ていうかデラックス・エディションと同時リリースの単品CDにはステレオ・リミックスじゃなくてこっちを収録してくれよ。

ステレオ・リミックスはなんかまあ、そりゃ音はキレイになってるけどサラウンドやオリジナルミックス差し置いてわざわざは聴かないような。

 

CDとDVDにはボーナス・トラックとしてシングルA面曲「Mike Oldfield’s Single」と本編ラストのトラッド「Sailor's Hornpipe」のオリジナル・バージョン(Viv Stanshallがなんか演説?してるやつ)を収録。どちらもステレオだけじゃくサラウンド・リミックスまで制作されている。

Mike Oldfield’s Single」はアメリカで「エクソシストのテーマ」としてシングル・リリースされた本編Part 1冒頭部分の抜粋盤がヒットしたことをうけてイギリス向けのシングルとして新たに企画、レコーディングされたもの。基本的にPart 2中盤(Caveman手前)の主題をオーボエやアコギ中心にアレンジしたもので、なんでもジョージ・マーティンから編曲に関する助言があったらしい。

「Sailor's Hornpipe (Original Version with Viv Stanshall)」はアルバム本編で使用されたバージョンより以前に当時注目されていたQuadraphonic Soundを駆使して「4つのスピーカー間を動き回るように」録音されたが、結局狙った効果が得られずボツになっていたもの。アルバムのQuad Mix版ではこちらのバージョンが使用されていたはずだけど音源が手元にないので確認できない。効果自体は今回の5.1chリミックスでずいぶん改善されたとかなんとか。

もしこのバージョンが本編に採用されていたらPart 1ラストの楽器紹介MCとこのしゃべくりが対応する形になっていたわけで、そういった意味でも非常に興味深い(のだが、なに言ってるのかさっぱりわからん)。 聞いた話ではQuad Mix版はおしゃべりが終わったらオリジナル・ミックスと同じ加速パートに入るらしいのだが、この音源はそのままフェードアウトする。

DVDにはさらにBBCテレビの2nd Houseに出演して「Tubular Bells, Part 1」を演奏した際の映像が収録されている。参加メンバーがMick Taylor, Steve Hillage, Fred FrithにPierre Moerlen他錚々たる面子ですごい。

 

デラックス・エディションと同時リリースのボックスセットには上記の内容に加え、アルバム制作過程のデモ音源を収録したCDとオリジナル・ミックスのLPが付属していた(あとポスターとかピックとか)。

さらにデジタル・デラックス・エディションと銘打った配信版も用意され、こちらは不可逆圧縮でLPがない(そりゃそうだ)かわりに「Tubular Bells (Opening Theme / From ''The Exorcist'') 」というおそらくアメリカでのシングル・カット版に加え、本編の「Boxed Mix」、つまりQuad Mix(SQエンコードされたステレオ音源)が収録されている。

さらにさらに2012年には5.1chリミックス音源のハイレゾ24/48ファイルがダウンロード販売されたりもしていたらしいのだけど、これってまだどこかで手に入るんすかね?

 

ちなみにデジタル・デラックス・エディションは現在Apple MusicやSpotifyでも配信されています。喜び勇んでさっそくBoxed Mixを聴いてみたところ、なんと一番気になってたPart 2最後の「Sailor's Hornpipe」がしれっとカットされてた。なんてこったい。

 

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