Incantations / Mike Oldfield (1978/2011)
2011 Remastered Edition of the Original 1978 Stereo Mix Supervised by Mike Oldfield
24-bit digital mastering by Paschal Byrne at The Audio Archiving Company, London
5.1 Surround Sound Mixes by Mike Oldfield
2CD+DVD
1978年リリースの4thアルバムで、レコード2枚組の大作。3年前の前作『Ommadawn』はLP両面ともはっきりとした序破急の展開を持つ密度の高いタイプの傑作であったが、こちらはいくつかの主題をじっくりと反復しつつレコード4面かけてじわじわ深まっていくタイプの傑作。
アルバム全編がそのタイトルを思わせる神秘的雰囲気に満ちていて、あくまで個人的な感傷を扱っているようにも思われたこれまでの3作と比べてスケールの大きな音楽になっている。
特に全体的に激しい曲展開のPart 3からPart 4に入って一旦沈静化、そこから次第に盛り上がり大団円的ピークへ達するかと思いきや一転マリンバのみになる流れは見事。以降のあえて盛大なクライマックスとはならず静かに緊張感を維持するエンディングパートもすばらしい。
曲中の歌はPart 2がロングフェロー、Part 4がベン・ジョンソンの詩による。
オリジナルのアルバム・ジャケットは前作までの長髪髭面から髪と髭をバッサリと落としあたかも爽やかな好青年であるかの如き出で立ちとなったマイク・オールドフィールドが印象的。
この2011年リイシューではジャケットが岩礁をモチーフとしたものに新装された。この岩はオリジナル・ジャケットでマイクの後ろに写っていてLPのレーベル面にも使われてるんだけど、なにか謂れでもあるのだろうか?(北海道の神威岩とかみたいな感じで、Incantationsってネーミングとなにかしら関連性のある名前でもつけられてるとかそういう)
以下でとりあげるデラックス・エディションは気になる点が多くていつも以上に文句たらたらになってしまったので、適当にスルーしてください。
Disk 1、本編のリマスター具合はとても良い。ただし初期プレスは不良品で音飛びがあったらしいのでこれから買う人は注意してください。
ボーナス・トラックとしてアルバムの後にリリースされ物議を醸したシングル「Guilty」が収録されている。アルバムと共通するモチーフを用いつつも曲調はディスコやフュージョン的なものになっていて、曲そのものも、アルバム本編の余韻を見事にぶち壊すという点でも非常におもしろい。いや後者は大問題ですけど。せめて本編終了からボートラがはじまるまでのブランクをもっと長めにとって欲しいしこれじゃあほんとにGuiltyってやかましいわ。
加えてここに収録されている「Guilty」はPV用の別バージョンであり、当時12"と7"でリリースされたシングルとは異なる音源となっている。実際綺麗にリマスターされているわりに当時のテレビ音源特有のモヤモヤした感じの音である。
この曲の12"と7"それぞれのバージョンはおそらく未だにCDというかデジタル・フォーマットでリリースされていないと思われる。はよ
Disk 2及びDVDのサラウンド音源は多少内容の違いはあるが基本的にリミックス集で、本編の一部パートをそれぞれ単体のトラックとしてピックアップしたものが中心となっている。そう、つまり、アルバム全編のサラウンド・リミックスではなくあくまで断片的なものなのでありますなぁ。
本編からピックアップされたリミックスは、たしかに音質的にはオリジナルより各楽器の響きが生々しくなってはいるものの、ここだけ聴かされても……というのが正直な感想であり自分はあまり楽しめない。サラウンドも、本編の流れのなかでこのシーンがこういう風に鳴っていたらまた違った感想になっていただろうとは思うものの、ぶっちゃけこれだけでどうしろと……みたいな気分になってくる、ような感じです。
あと「Guilty」に関してはリミックスされてもDisk 1収録の(一応)オリジナル・ミックスのモヤモヤ感を引き継いでいる。クリアな空間にモヤを纏った音が配置されてるとでも言えばいいだろうか。これは大元のマルチからしてこんな感じなのだと思われる。リミックス自体もクライマックスが12"バージョンをなぞっているのは興味深いけどギターがあまり朗々と鳴り響くようなプレイではないにも関わらず妙に強調されていたりフェードアウトのタイミングも雑な感じだったりとだいぶアレ。
何故こんなことになってしまったのか…本編がサラウンド・リミックスされていれば大勝利間違いなしな作品なのに……。マルチトラックテープの紛失とかあるいはなにか技術的な問題があってその上で最善を尽くしてくれた可能性だってあるのだけども、ライナー・ノートにもオフィシャルサイトにもなんら説明らしい説明は見当たらないのでなんでこんなことに……という不満ばかりが残ってしまう。
これらのディスクはどちらかと言うと本編そのもののリミックスよりも「Northumbrian」「Piano Improvisation」といった追加曲や「William Tell Overture」から「Wrekorder Wrondo」にかけての同時期のシングル曲が興味深いし内容的にも充実している。
なお「Diana - Desiderata」は「Diana」に『The 1984 Suite』の「Zombies」と同じようになにやら某博士風の男性ボイスが加わって宇宙がなんちゃら言っており、わからない。
DVD収録の映像はPVと「Incantations」のライブ映像。
前者は今の時代YouTubeでもオフィシャルで配信されているがまあ資料的に手元において置けるならそれはそれで嬉しい。「Guilty」のものすごく時代を感じるアニメーションも今見るといい味出してるし、「William Tell Overture」も正直編曲自体は当時のマイクのシングル曲の中では精彩を欠いた部類に入ると思ってるんだけど、映像は空元気っぽいアクションや最後の取って付けたような愛想笑いが可愛いのでオッケーなやつです。
「Incantations」はライブビデオ『Exposed』と同じ映像。ふつうに『Exposed』をリイシューしてくれ。
Mike Oldfield - William Tell Overture