Crises / Mike Oldfield (1983/2013)

 

Crises

Crises

 

Remastered from the original master tapes by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

 

1983年発表。70年代的な中音域の厚み感みたいなものが残っていた前作『Five Miles Out』からシンセサイザーやパーカッションの残響が美しい冷たく透き通ったNew Waveサウンドへと変化した作品。ジャケットのイラストや色使いもこのアルバムの響きによくマッチしている。またこの音響はのちのNew Ageに対してマイクが与えた影響の大きさを直に感じさせもする。

アルバムは前作に引き続いてA面に大作1曲、B面によりポップな楽曲という構成。特にB面はこれまでになく歌ものポップスとして完成された作品が並ぶ。

ドラムにサイモン・フィリップスの他、B面のヴォーカル曲にはマギー・ライリー、ジョン・アンダーソンにロジャー・チャップマンと豪華な面子を迎えている。またサイモン・フィリップスはマイクと共同でプロデューサーとしてもクレジットされている。

 

「Crises」 アルバム・タイトルを冠したA面を占める大作で、これまでの長尺曲よりもはっきりと「Tubular Bells」の延長上にある作風。途中めずらしくマイク本人のヴォーカルが入る。

曲の長さは20分程度だがクライマックスの盛り上がりに向けた展開がはやくも10分過ぎには始まりそこからずっとじりじり演っているので、なんだかミニマル的というよりむしろワーグナーなんじゃないかという気もしてくる。そのクライマックスはがっつり音量上げて鳴らしていれば独特の壮大さを味わえるが、音響的にはどこまでもクールなのでそれなり程度の音量だとさんざん引っ張ったわりになんかぱっとしない、みたいな印象になりがち。そういうとこがまたマイクらしいっちゃマイクらしいけど。

実際のところダイナミックレンジを広くとって良好なバランスで制作された、音量を上げれば上げるほど「映える」トラックなので、ぜひ可能な限りの爆音で鳴らしてみてほしい。中盤以降のドラムにかけられたゲートリバーブっぽい残響がたまらないんですよ。

ちなみに当時のライブ音源や映像では「タコ人間」サイモン・フィリップスの見せ場としてバンドも観客も大いに盛り上がっていたことが確認できる。

 


Mike Oldfield - Moonlight Shadow ft. Maggie Reilly

 

「Moonlight Shadow」 皆さんご存知、「Tubular Bells」と並ぶマイク・オールドフィールドの代表作。一度耳にしたら忘れられない印象的なメロディラインを持ち、今作の音作りやマギー・ライリーの淡々としつつも悲しみの滲むようなパフォーマンスの相乗効果もあって実際非常に優れたポップソングに仕上がっている。歌詞は愛する者を失った人間の心情を…って前作でもマギーの歌パートそんな感じだったよな。

「In High Places」 ヴォーカルはジョン・アンダーソン。彼のボーイ・ソプラノ的声質も今作の音作りと実によく馴染む。

「Foreign Affair」 再びマギー・ライリーのヴォーカル。こちらはより無機質な反復によるミニマル・ミュージック的要素の強いトラックで、今作の冷たく澄んだサウンドとマギーの声質の相性の良さが際立っている。

「Taurus 3」 牡牛座シリーズ第三の刺客で、小気味好くまとまった小品といった風情のインスト。

「Shadow On the Wall」 ロジャー・チャップマンのヴォーカルによるマイク流ヘヴィ・ロックとでも言うような楽曲。彼のちりめんビブラート的な歌い回しは他の二人とあきらかに傾向が異なるので最初ちょっとギョッとしたけど慣れればこれはこれで。

 


Mike Oldfield - Shadow On The Wall (Official Video)

 

今作は2013年に30周年記念で3CD+2DVDボックスセット、2CDデラックス・エディション、1CDそしてLPがリリースされたのだけど、ボックスセットはすぐ売り切れになって再生産されたという話も聞かずたまに中古で出るとプレミアがついている。

問題なのはせっかくのサラウンド・リミックスがその入手困難なボックスセットのみに収録されていることで、結局自分は入手することができないまま現在に至っている。デラックス・エディションを初期4作のと同じ2CD+DVDにしてくれていれば……

1CDの内容はようするにボックスとデラックス・エディションにおけるDisk 1そのもので、なんならレーベル面の印刷もそのまま。

 

リマスターに関しては相変わらずAudio Archiving CompanyのPaschal Byrneがいい仕事をしてくれていて、なんのストレスもなくがんがん音量上げて気持ちよく鳴らすことができる仕上がりになっている。

 

1CD(つまり他エディションにおけるDisk 1)収録のボーナス・トラックは7曲。

「Moonlight Shadow」「Shadow On the Wall」のUnplugged Mixはオリジナルのヴォーカル・トラックにシンプルなアコギ中心の伴奏を組み合わせた(というか他の音を省いたと言う方が適切かも)もので、まあ両曲ともマイク・オールドフィールドの作品のなかでも名ヴォーカリストによる名唱といった類いのものだから作りたくなったんだろうなーとか勝手に想像してる。

「Mistake」はアルバム『Five Miles Out』から今作の間にリリースされたシングルA面曲で、『QE2』でもプロデュースを担当したDavid Hentschelと再び組んだ明るくポップな曲調のトラック。わりとあからさまに「狙った」感じを出してきている。ヴォーカルはマギー・ライリーで、シングル自体はなぜかTHE MIKE OLDFIELD GROUP名義でのリリースだった。なおB面の「(Waldberg) The Peak」は『Five Miles Out』のデラックス・エディションに収録。

「Crime of Passion (Extended Version)」は翌84年リリースのシングルA面曲。ヴォーカルは次作『Discovery』に参加するバリー・パーマーで、曲調も次作に通じる大人向けポップスといった具合。これも愛する者を失った人間の心情を的なやつであり、シングルのジャケットはマイクの母親の肖像(当時すでに故人)をあしらったものだった。たぶんわざと滑稽な感じを狙ったのであろうPVがそれにしても変。

「Jungle Gardenia」は同シングルのB面曲で、ケルティックなフレーバーを効かせたギターインスト。タイトルからして密林に咲くクチナシの花をモチーフにしているはずなのにケルティック風なのだけど、まあべつに表現として間違ってるわけじゃないしわりと以降のインストもそういう感じである。

「Moonlight Shadow」「Shadow On the Wall」12" Single Versionは読んで字のごとく両曲の12"シングル版。特に「Moonlight Shadow」は意図的に3分間ポップスとしてあっさり目に仕上げたのであろうアルバムや7"のバージョンとは違った、より聴きごたえのある凝った編曲になっていてこちらはこちらで良い。また歌詞は一部アルバム版にはないフレーズを含んでいる。

 

ところで「Moonlight Shadow」のシングルB面曲「Rite of Man」が今まで一度もリイシューされてないように思うのだけど、これもマイクのヴォーカル曲でしたね……

 


Mike Oldfield - Crime Of Passion ft. Barry Palmer