『続・夕陽のガンマン』(1966/2003/2014)

 

 

『続・夕陽のガンマン』(伊: Il buono, il brutto, il cattivo、英: The Good, the Bad and the Ugly)はセルジオ・レオーネ監督、西ドイツ・イタリア・スペイン共同制作による1966年公開のマカロニ・ウェスタン映画。テクニスコープ/テクニカラー

南北戦争の混乱のさなかを舞台に、Blondieクリント・イーストウッド)、Angel Eyes(リー・ヴァン・クリーフ)、Tuco(イーライ・ウォラック)をそれぞれタイトルの「良いやつ」「悪いやつ」「酷いやつ」に見立て、彼ら3人の隠された「南軍の黄金」(日本における徳川埋蔵金みたいなものか)を巡る旅路とその決着が描かれている。

アメリカおよび日本では翌67年公開、日本では『地獄の決斗』という副題がくっついていた。舞台となっているのは南北戦争のなかでもニューメキシコ作戦の時期であり、劇場公開当時から見て「今から100年前」とでもいうような時代設定になっている(ということに最近やっと気づいた)。


エンニオ・モリコーネの音楽は基本的にいくつかの主題(おそらく主役3人を表す「あえあえあ〜」ってやつとか南北戦争を表すやつとか)とその変奏から成り立っているが、主題ひとつひとつのアクの強さとアレンジの巧みさ、そして劇中での聴かせ方の絶妙さといったらない。

OPや墓地を駆け回るTucoそして三つ巴の決闘とどれもこれも最高の音楽と映像なわけだけど、個人的には砂漠でTucoがBlondieにトドメを刺そうとするところに南軍の馬車があらわれる場面の音楽が、哀愁漂う南北戦争の主題に軍隊ラッパが不自然に加わることでそれこそ幻でも見ているかのような雰囲気になっていてとても好き。ちなみにAngel Eyesが南軍の砦に赴く場面でビル・カーソンのいる部隊の行方について言及されこのシーンへの伏線が張られるのだが、インターナショナル版だとカットされているのでTucoとBlondieだけじゃなく観客にとっても思いがけないものが現れることになる。

あとリコーダー好きなので、中盤Tucoの入浴シーン後Angel Eyesが手下にBlondieを尾行させるあたりで流れるリコーダーによる3人の動機が耳にうれしい。拡張版のサントラにもこの部分入ってないんですよね。

 

作品としては今の自分の目線で見ると、TucoとAngel EyesがそれぞれBlondieに向ける親近感や友情にも似たなにかしらの感情(TucoはあからさまだけどAngel EyesもBlondieにだけ妙に甘かったり)と、それをわかりつつ人が自分に向けるそういった感情に応えられないBlondie(最後のTucoに対する「良いやつが悪いやつをやっつけて酷いやつを懲らしめる」で片付けるにはなんとも微妙な空気)、みたいなものを感じる。つまりこれは男が男に向ける巨大不明感情のやつなのです。そうか?

Blondie、「良いやつ」として出てきて観客に「いやこいつも大概じゃねーかw」と思わせといてでも赤の他人に妙に優しかったり必要もないはずなのにTucoに謝っちゃったりするのでどうしても「これはBlondie総受け」「Blondie×Tuco、つまりブロトゥコは王道カプ」みたいな方向にいってしまう。

 

版やソフトについて

本作には4つの代表的なバージョンが存在する。

  • 1966年イタリア公開版(175分、イタリア語音声)
  • 1967年インターナショナル版(162分、英語音声)
  • 2003年完全版(179分、英語5.1ch音声)
  • 2014年4Kリマスター版(179分、英語5.1ch音声)

 

2003年完全版(2003 Extended English-Language Version)は、往来の英語音声によるインターナショナル版にイタリア公開版のみに存在したシーンと未公開シーンを追加し、それらの部分の英語音声を新録して補完したもの。新録部分はクリント・イーストウッドイーライ・ウォラックに関しては本人たちが、1989年に亡くなったリー・ヴァン・クリーフに関してはサイモン・プレスコットが担当している。またSE等の差し替えも行い5.1chサラウンドでリミックスされた。このバージョンはアメリカで劇場公開もされ、DVDはドキュメンタリーやその他特典映像を含む2枚組だった。

 

本作はその後2009年に2003年完全版と同一のマスターでBD化されたが、MGM90周年である2014年にそれを記念して4Kリマスターを施され再リリースされた。この4Kリマスターはそれまでのリリースとはカラー・コレクションの異なる黄色っぽい画面になっていて賛否両論あり、2017年にKino Lorberから50周年盤としてより往来のものに近い再リマスターで再々リリースされている(今のところ国内盤はない)。
4Kリマスターの方が本来意図された色に近いはず、という意見もあるっぽいんだが、セルジオ・レオーネも撮影監督のトニーノ・デリ・コリも2014年の時点ですでに故人であり当然このリマスターを彼らが確認したわけではない(なにか具体的な発言でも残ってるのだろうか?)。また仮にそうだったとしても、実際に完成したイタリア公開版やインターナショナル版のフィルムがもともとはこういうカラー・コレクションだったという話も聞かないので、ちょっと自分には判断がつかないところ。映像そのものはむっちゃ鮮明だしこれはこれでなかなか見ごたえがあります。

それはさておき国内盤BDが発売されている2009年と2014年のものは日本語吹き替え、特に2014年盤には完声版なるカット部分をあらたに補完したものが収録されているが、オリジナルのイタリア語モノラル音声が収録されていないという個人的には大問題があったりする。

一方2017年盤は海外サイト見た限り162分のインターナショナル版と179分完全版の2枚組で、両方のディスクに「Newly Restored 2.0 Mono Audio」「English DTS-HD MA 5.1 Audio」「Italian Dolby Digital 2.0 Mono」の3種類の音声が収録されているように読める。この「Newly Restored 2.0 Mono Audio」がロスレスかそれともDolby Digitalかははっきりしないんだけども、ことオーディオ面に関して言えばこれが決定版になるだろうか。ただレビューを読むと2014年版と2017年版でサラウンド音声にも違いがあってかつ2014年版の方がより好ましいみたいなこと書いてる人もいる。

 

手持ちのディスクは2種類。

  • 国内盤DVD(2003年完全版、GXBA-15813)
  • 米盤BD(2014年4Kリマスター版、F1-BOGB 2068207086)※ドル箱三部作をまとめたボックスの1枚

このDVDはケースに表記されてる内容と実際にディスクに収録されてる内容がかなり違っていて、おそらく2000年頃の再発DVDパッケージに2004年アルティメット・エディションのDisk 1そのままな盤をつっこんで訂正も加えずに売りさばいたものと思われる。

BDのほうはぶっちゃけ『荒野の用心棒』のBDをなるべくお安く入手しようとしたらついてきたとこある。

 

音声について

完全版DVD収録の音声は以下の5種類。

  • 英語5.1ch Dolby Digital
  • 英語5.1ch DTS
  • 日本語2.0ch (モノラル)
  • イタリア語2.0ch (モノラル)
  • 音声解説

日本語吹き替え音声は1975年4月27日放送の「日曜洋画劇場」版で、イーストウッド山田康雄、ウォラックを大塚周夫、クリーフを納谷悟朗が担当。前半のTucoのシーンを中心にけっこうなカットがあり、そういった部分と完全版で追加されたシーンでは字幕に切り替わる。

イタリア語モノラル音声は本盤で唯一オリジナル音声と呼べるもの。イタリア公開版のみのシーンはともかく未公開シーンに関しても違和感がないので66年当時に音声も収録されていたということだろうか。

音声解説はイーストウッドとも親交の深い映画評論家リチャード・シッケルによる。彼は2017年に亡くなり、イーストウッドの2018年監督作『運び屋』エンド・クレジットにおいて献辞が述べられている。

 

海外盤4KリマスターのBDには英語5.1DTS-HD Master Audio、英語モノラルDolby Digital、スペイン語5.1Dolby Digital、フランス語5.1DTS、ドイツ語モノラルDTS-HD Master Audio、ポルトガル語5.1Dolby Digitalとなにやらいっぱい入ってるのだが、どういう基準なのかさっぱりわからん。各国のそれまでのリリースから音源をかき集めたのだろうか。ちなみにこれは日本語の吹き替えも字幕もありません。

 

以下は完全版DVD収録の英語5.1ch DTSサラウンド音声とイタリア語2.0ch (モノラル)オリジナル音声を聴き比べた感想。

 

サラウンド音声は非常にクリアで、必要なシーンではサブウーファーもしっかり活躍する。イタリア語音声には中低音の厚みとそれに由来する音色の豊かさやなめらかさがあり、キレもいい(ただしおそらくもともとの録音品質やDolby Digital圧縮に由来する高音の荒れた感じも)。


サラウンド音声では銃声や砲撃など一部SEがサブウーファーの低音(ようするにLFEか)で強化された、より現代的なものに差し替えられている。気になる人も多いであろう銃声はオリジナルのある意味マカロニ・ウェスタンを象徴する「バキューーン」みたいな音を尊重したそれっぽい残響を混ぜたものとなっているが、まあぶっちゃけ別物。なのでここを変えてしまったらすべてが台無しだろみたいな意見もあったり。

この新しい銃声は身体に響くLFEの振動も魅力なわけだが、オリジナルよりアタック感が薄れて直接的な音そのものはマイルドになった感じもある。またシーンによって(おもにアップか遠景かの違いだと思う)身体に響くこともあればヌルいこともあり、わりと振れ幅があるような。

 

上記は好みやセッティングによりけりとも言えるけど、それ以上に印象が変わっている箇所もある。映画の中盤、Tucoとその仲間たちが軍隊の騒音に紛れてBlondieの宿に襲撃をかける場面がそれで、イタリア語だと行軍の音が「ゴーッ」と鳴り続けそこに仲間たちの立てる足音が小さく「紛れる」バランスになっているが、サラウンドだと行軍の音が控えめかつ足音(と拍車)がくっきりと分離していることもあってまったく紛れない。それ故に騒音がピタッと止まる瞬間があまり際立たないのである。
これはおそらくだがサウンドの設計思想みたいなものが違うんだと思う。イタリア語では画面に映っているのが軍隊でもTuco一味でも音の方はつねに「Blondieに聞こえているであろう音」にフォーカスされているのに対して、サラウンドでは「そのとき映っている画面で聞こえている音」に忠実なのだ。だから軍隊の騒音はその軍隊がアップで映っているときがピークとなり、屋内のTuco一味が映ると騒音はそれ相応となり彼らの立てる物音がしっかりと描写され、Blondieが映ると銃をメンテナンスする音が際立つ。そういった意味では基本に忠実で丁寧な仕事なのだが、結果的にBlondieが騒音からはみ出たわずかな物音で瞬時に状況判断を行うこのシーンのインパクトが薄れてしまっているようにも思う。反面、オリジナルのイタリア語音声は場面の環境(屋内か荒野か、遠景かアップか、みたいな)に関わらずつねに同じ鳴り方をしていて平面的、とも言えるかもしれない。

同じような法則が後半の橋をめぐる戦争シーンにも当てはまり、サラウンドだとBlondieとTucoが安全圏から見物する兵隊の突撃シーンは妙に控えめな一方、彼らが直接関わる橋爆破から大写しの大砲が連発される一連のシーンには面目躍如的な迫力がある。ここは聴かせどころなだけあってオリジナルもなかなかの迫力。

 

全体的に「ならサラウンドの音量もっと上げればいいじゃん」という感じもあるんだけど、そうすると今度は一部のBGM(特にその高音の荒れた感じ(録音そのものが古いから仕方ない))が大きくなりすぎて少なくとも自分の環境ではバランスをとるのが難しかった。

 

以上を踏まえて海外盤4KリマスターBD収録の英語モノラル音声を聴いてみると、基本的な音のバランスが2003年完全版のサラウンド音声とよく似ていることに気づく。この英語モノラル音声がはたしてインターナショナル版オリジナルのものなのか判断材料がないので確信は持てないが、前述したサウンドの設計思想の違いが最初のイタリア語音声とおそらくアメリカ公開にあわせて制作された英語音声の時点で現れていて、サラウンド音声が後者に基づいて制作されたのだとしたら納得がいくところ。

BDを購入してこの記事を大幅に書き直す前「ちなみにイタリア語モノラル音声=オリジナルぐらいのノリで書いてしまっているけど、自分には今のところ視聴手段がないだけで当然ながらインターナショナル版の英語モノラル音声だってあるんですよね。たぶん音作りのバランス的にはイタリア語音声と同じようなもんだろうと安易に予想してるのですが、実際聴いてみないことにはなんとも。」とか書いてたんですが、ほんと聴いてみないとわからないもんですね……

 

それと同BDの英語5.1ch DTS-HD Master Audioはぱっと聴いた感じDVDのサラウンド音声をそのままよりクリアに、より伸びやかに、より滑らかにした上位互換という印象。数シーンで確認した限り基本的なミックスバランスは完全版のものから変わっていないと思うのだけど、切り替えながら比較できる環境にないので確証はもてない。

 

2017年Kino Lorber盤はインターナショナル版と完全版の2枚組。日本語音声も日本語字幕も無いはずなのでそこは注意