Wednesday Morning, 3 A.M. / SIMON & GARFUNKEL (1964)

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1964年10月19日リリース。アメリカのフォーク・デュオSIMON & GARFUNKELのデビュー・アルバム。

 

ポール・サイモンアート・ガーファンクルはおなじニューヨーク市クイーンズ育ちの同級生*1

ハイスクール時代から学業の合間を縫って音楽活動を行い、1957年にはTOM & JERRY名義のデュオでリリースしたシングル「Hey Schoolgirl」がビルボードでチャートインするという成果を上げている*2

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TOM & JERRY時代はドゥーワップ色を強くしたTHE EVERLY BROTHERSみたいなスタイルだったが、サイモンの学業に一区切りついた1963年頃から流行りのフォーク・リバイバルにあわせてよりコンテンポラリーなフォーク色を強めたスタイルで売り込みをはじめ、他でもないボブ・ディランのプロデューサーであるトム・ウィルソンの目にとまったみたいな感じっぽい。なおガーファンクルのほうはまだ学業に一区切りついてなかった模様。詳しくは知らないけどコロンビア大学に進学して途中で学科を変更したんだったか。

 

レコーディングはトム・ウィルソンのプロデュースのもと1964年3月にニューヨークのColumbia Studiosで数回に分けて行われた。

セッションにはサイモンとガーファンクルのふたりに加えてアコースティック・ギターでバリー・コーンフィールド、アコースティック・ベースでビル・リー*3が参加。

エンジニアは今作以降SIMON & GARFUNKELだけでなくふたりのソロ・アルバムにも関わっていくことになるRoy Halee。

収録曲は民謡のアレンジを含むカバー7曲、オリジナル5曲という割合。

 

裏ジャケのライナーノートはアート・ガーファンクルポール・サイモンに宛てた手紙の体裁をとりある種の需要に答えている。

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収録内容

あくまで言葉の比重が大きい音楽ではあるが、ふたりのヴォーカルを主軸としつつ、伴奏もキレがよくアコギ2つにベースという制約の中でアレンジに工夫をこらしていて十分に楽しめるアルバムに仕上がっている。

当時ステレオとモノラル両方がリリースされ、ステレオではふたりのヴォーカルが左右両端に振り分けられ、伴奏がその内側というまとめられ方。

歌唱スタイルもあって音像のバランスが良く、適度なエコーも相まって聴きやすいサウンドになっている。

ただしヴォーカルが完全に左右に分かれていてヘッドホンやスピーカーの小音量再生ではヴォーカルが重ならずハーモニーって具合ではないので、そのあたりが楽しみたかったらスピーカーで音量上げるかモノラルをどうぞって感じなんだろうけど自分は持ってないしモノラル音源がデジタル・フォーマットでリイシューされたりもしていない。

 

 

A1「You Can Tell the World」

ボブ・ギブソンとハミルトン・キャンプの共作。

アコギをジャカジャカかき鳴らすいかにもフレッシュな感じのトラックで、歌詞はがっつりクリスチャン系。

 

A2「Last Night I Had the Strangest Dream」

エド・マッカーディの曲で、牧歌的な曲調と歌詞のもの。ポール・サイモンバンジョーを弾いてる。

 

A3「Bleecker Street」

ポール・サイモンのオリジナル。「Paul Simon名義でのオリジナル曲」という意味では最初の1曲だったりするかもしれず、曲構成こそ単純だがポール・サイモンのスリーフィンガー(ツーフィンガー?)とそれに合わせるもう1本のギターによる伴奏はよく練られていて、ヴォーカルの淡々と進行していく感じが逆に歌詞の陰影を深める効果をあげている。かと思うとポールのヴォーカルがちょっとひっくり返っちゃったりするのも文学青年ががんばって歌ってる感出ててよい。

ブリーカー・ストリートはマンハッタンにある通りで、歌詞にはわりと宗教的なニュアンスが込められている。

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A4「Sparrow」

ポール・サイモン作の、世知辛い版クックロビンみたいなやつ。

 

A5「Benedictus」

16世紀フランドル楽派の作曲家オルランド・ディ・ラッソのミサ曲をアレンジしたもの。ベースがボウイングで雰囲気を演出している。

ポール・サイモンはどういう経緯でこの曲を採用したのだろうか。

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これは1988年録音の原曲。

 

A6「The Sounds of Silence」

ポール・サイモンのオリジナル。

歌詞と楽曲両方が展開までよく練られたこのアルバムの白眉であり、その歌詞が絶妙だったあまり本人たちと無関係なところでしょっちゅう引き合いに出され便利に使われているもの。最近ではYES「Roundabout」に続いて無事memeと化したりしていた。

 

 

B1「He Was My Brother」

ポール・サイモンのPaul Kane名義による自作曲で、1963年の時点でS&Gに先んじてそのPaul Kane名義でTribute Recordsというマイナーレーベルからシングル・リリースしている。

トム・ウィルソンの興味をひく切っ掛けになり、1963年版、本アルバム収録の1964年S&G版に加えて1965年のポール・サイモンのソロ・アルバムでもとりあげられた。

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1963年版はたぶんこの音源*4。ガーファンクルのハーモニーも聴き取れる。

 

公民権運動をイメージしているとはいえ特定の事件を扱っているわけではないはずだったが、このアルバムのレコーディング完了後の1964年6月にポール・サイモンの知人を含む公民権活動家3人がミシシッピ州KKKに殺害されるという事件*5が起き、ある種の真実味が出てしまった。

 

B2「Peggy-O」

ボブ・ディランが彼の1stアルバムでとりあげたスコットランド民謡。

牧歌的な曲調のまま物騒になる歌詞のオチが小学生の頃から妙に好き。

 

B3「Go Tell It on the Mountain」

ジョン・ウェズリー・ワークJr.が採集した黒人霊歌のひとつで、これ以前にPETER, PAUL & MARYも歌詞をいじってとりあげている。

ここではもうちょいストレートに演奏していて、ノリが「You Can Tell the World」に近い。

 

B4「The Sun Is Burning」

1960年代のブリティッシュ・フォーク・リバイバルの立役者のひとり、イアン・キャンベルの楽曲。

これも牧歌的な曲調に物騒な歌詞を乗っけてギャップを楽しむタイプのもので、途中から『太陽を盗んだ男』的な方の太陽の話にすり替わる。

 

B5「The Times They Are a-Changin'」

ボブ・ディランのオリジナルをアイロンがけして整えたような演奏。

 

B6「Wednesday Morning, 3 A.M.」

ポール・サイモンのオリジナルで、A面ラストを飾る「The Sounds of Silence」に対するB面ラストの力作。

方向性は「Bleecker Street」に近い、凝ったパターンのギター伴奏と淡々と進行するヴォーカルによって歌詞とハーモニーを際立たせるもの。

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もともとTOM & JERRYでロックンロール色の強いパフォーマンスを行っていて今作にもアコースティックとはいえベースが入ってるからかこの時代のフォーク系としてはリズムがはっきりしていて、ヴォーカルは力みがちだがそれ故に次作以降とは違った魅力があり、ギター演奏もすばらしく全体としてかなり充実したアルバムになっていると思う。

しかしリリース当時はブリティッシュ・インヴェイジョンの波に飲まれさっぱり売れなかったらしい。

その後SIMON & GARFUNKEL復活とともに再発されるとチャートインするほど売上が伸び、1966年には日本でいろいろ仕様変更され『Last Night I Had the Strangest Dream』として、1968年にはそれまで未発売だったイギリスでやっと発売された模様。

 

レコード

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手持ちの盤は「THE NICE PRICE」ステッカーも眩しいレコード100円市で買ったUSステレオ盤。カタログ#もバジェット・ラインの「PC」に切り替わり済み。

マトリクス末尾はA面が”3H”、B面が”2A”となっていて、聴いた感じA面がなんだかカセットテープに録音したみたいな音質なのに対してB面はもうちょっと鮮明さを維持してる。

ランアウト部分はほかにもよくわからん文字列やマークを含めいろいろ書かれてるけど、とりあえず両面とも手書きの”G1”がエッチングされているのでキャロルトン工場プレスだと思われ、つまり80年代になってからの盤ということになる*6

 

ジャケットの紙質はあきらかに70年代までのものと違っていて裏地も白い。

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リマスターとか配信とか
Wednesday Morning 3am

Wednesday Morning 3am

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80年代のうちからCD化されていたアルバムだが、2001年にSony MusicのLegacyレーベルからVic Anesiniのリマスターで再発された。ボーナス・トラック3つ入り。

 

「Bleecker Street (Demo)」 ボックスセット『Old Friends』で既出

「He Was My Brother (Alternate Take 1)」

「The Sun Is Burning (Alternate Take 12)」

最大の違いは「He Was My Brother」で最終的に使われなかったハーモニカが試されていることだが、基本的には完成形が見えてる感じのトラックばかり。アルバム版よりアート・ガーファンクルの声のエコーが控えめ。

 

 

Wednesday Morning, 3 A.M. - Album by Simon & Garfunkel | Spotify

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2014年には各種配信サイトで24bit-192kHzのハイレゾ音源が配信開始され、現在SpotifyApple Musicにあるのも基本的にはこれだと思う。Spotifyはいまのところ非可逆圧縮だけだけどApple Musicはハイレゾで聴けます。

ただしどこのサイトにもColumbia Recordsという以外のクレジットがないので、どういった素性の音源なのかよくわからん。まあ聴いた感じ手持ちのレコードよりよっぽど鮮明な音質ですが

 

 

*1:さらに言えばふたりはそれぞれハンガリールーマニアにルーツを持つユダヤアメリカ人

*2:どうもレコード会社からアラン・フリードへの袖の下とかそういうのもあったらしいけど

*3:ジャズ方面が本業の方でスパイク・リーの父親

*4:続けてこのアルバムのバージョンも貼ろうかと思ったんだけどちょっと過剰な気がしたのでやめました

*5:この事件は映画『ミシシッピー・バーニング』のモデルになった。映画自体はいろいろ描写に問題があるらしいけど観てないのでなんともいえない

*6:THE NICE PRICE」シリーズ自体は1979年から開始されているっぽい

WEATHER REPORT (1971/1991)

 

Weather Report

Weather Report

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1971年5月12日リリース。ジョー・ザヴィヌルウェイン・ショーターマイルス・デイヴィスのもとを離れ構想を練っていた新グループにミロスラフ・ヴィトウスが合流する形で結成されたジャズバンド、WEATHER REPORTのデビュー・アルバム。

 

オーストリア出身のジョー・ザヴィヌルは1932年生まれ38歳、ニュージャージー出身*1ウェイン・ショーターは1933年生まれ37歳。

これに対してチェコ出身のミロスラフ・ヴィトウスは1947年生まれ23歳で、多少の年齢差がある。

3人ともここに至るまでのキャリアがある方々だけど自分は「Mercy, Mercy, Mercy」くらいしか知らないので、これを取っ掛かりにできたらいいなという気持ちで書いてます。

とりあえずマイルス以外でもこの前年にレコーディングされたジョー・ザヴィヌル『Zawinul』ですでに3人は共演していて、ミロスラフ・ヴィトウス『Purple』*2にザヴィヌルが参加したりもしているっぽい。

 

 

この時点でのWEATHER REPORTはザヴィヌル、ショーター、ヴィトウスの3人によるグループと言って過言ではなくその他のメンバーは流動的で、アルフォンス・ムゾーンとアイアート・モレイラもこの1作のみの参加。

パーカッションは雰囲気作り、ドラムは3人の演奏に薪をくべるのが主な仕事となっている。

クレジットされていないがドン・アライアスとバーバラ・バートン*3がパーカッションで参加してるらしい。

 

エンジニアはWayne Tarnowskiだけど、いつ頃どこのスタジオでレコーディングされたのかは明記されてなくてよくわからん。とりあえずWikipediaによると1971年の2月から3月にかけて作業が行われたっぽいが。

 

ジャケットの写真はEd Freemanによるもの。長いことネット上の小さい画像でしか見たことなくて、ぼんやり雪山の航空写真かなにかだろうと思ってたらもっとよくわからないものだった。

あとなにげに裏ジャケにはクライヴ・デイヴィスが文章を寄せている。

 

 

基本的にアルバム全編を通じて最初に主題を提示してソロを回していくオーソドックスなスタイルの演奏ではまったく無く、3人が持ち寄った素材を元にスタジオで相互反応的に作曲行為を積み重ねていった様子の記録のようであり、むしろそうであるかのように事前に計画されたもののようでもある。

自作曲でも主題を自ら提示するのを避けるザヴィヌルの演奏に顕著だけどショーター、ヴィトウスも必要な場面以外でははっきりメロディを提示しきってしまうことをなるべく避けて断片的なものに留め、他の奏者のための空間の余白をつねに確保しているような、そう聴こえるように作曲されているような。

いかにも即興っぽい奏者が他の奏者に反応した結果の積み重ねのようでありつつ、エレピの左右のパンニングやオーバーダブなど、事前に計画されていなければ最終的にこんなふうに整えられないんじゃないか?と思わせるような箇所が散見される。

 

ザヴィヌルが関わった時期のマイルス・デイヴィスは、スタジオでまとまりのない散漫なセッションを演りっぱなしにし、そのテープをテオ・マセロが自由に切り貼りしてアルバムという完成品へとでっち上げ、それを聴いたマイルスが次のセッションにフィードバックし……というスタイルをまさに確立する時期にあった。

ザヴィヌルとショーターがそういった工程をどの程度認識していたかはわからないけど、少なくとも本人たちがスタジオで行った演奏と実際に出来上がったレコードの間にある多大なギャップは明白なわけで、それらの音楽的成果を踏まえた上で「複数の立場の人間が関わって知らんうちにそうなってた」のではなく「あくまで自分たちのコントロールで行う」というのがこの時点でのWEATHER REPORTだったんじゃないかという気が今はしてるんだけど、今後いろいろ聴いたりザヴィヌル関係の書籍とかをちょろっと読んだりしたら一瞬で撤回することになるかもしれない。「けど」が多すぎるけどそこまで考えてるとなんも書けなくなるのでこのままいきます。

 

あと正直このアンサンブルにパーカッション要らなくね?と思っちゃったりするんですが、パーカッションによるお膳立てみたいなものによって主役3人が演りやすく、もっと言えば「音を出さない」という選択肢をとりやすくなっている面があるのかもしれない。

ステレオのレイアウトからして3人のスペースは一定以上確保されるようになっているので、そうした沈黙の際にたとえパーカッションが鳴っていともその瞬間その場所はあくまで空白であると認識できるようになっている。

でもこれらのパーカッションのうちどれほどが他の楽器と同時に演奏されどれほどが後から追加されたのかさっぱりわからんし、この文章全部自分の妄想でしかないんですよね。

 

とりあえず書いてる本人が自分でよくわかんなくなってる御託を抜きにしても、ヴィトウスのけっこうグイグイ行くベースがかっこいいし、ザヴィヌルのエレピの一粒一粒が磨かれたようなサウンドが最高に気持ちいいのは確かです。

 

 

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こういう音源をYouTubeビットレートで聴くのはけっこうきびしいな……

A1「Milky Way

アルバムの導入にあたる不思議な音響の小品。ザヴィヌルとショーターの共作。

1:11あたりのアタック感や全編を通じて聞こえるゴソゴソとかカチャカチャしてる音などから考えて、ピアノの弦をなにかしらの方法で鳴らし、それを切り貼りして制作したんだと思う。音の印象的にピアノのダンパーを勢いよく開放した際にうっすら鳴る開放弦の音を増幅したような感じ。

あと1:37あたりで一瞬だけサックスっぽい音が紛れ込んでびっくりしたり、遠くでこの音響と関連しているのかそもそも意図したのかどうかすらわからない別の音楽らしきものがうっすら鳴ってたり。ピアノを録ってる最中に隣の部屋でやってたリハかなにかが乗っちゃったとかもありそう。

環境音楽的という表現がされたりして実際後年のそういったものに影響を与えた側面もあるんだろうけど、これ自体はどちらかというと現代音楽的な、ピアノの音響に対するアイディアと実践そしてその成果報告、みたいな趣のトラック。

あえて音量を絞って再生すると、環境音やホワイトノイズが小さくなって相対的にメインの音響が浮かび上がり、「ピアノの弦の音(たぶん)の切り貼り」じゃなく「不思議な音の連なり」という印象が強くなる。

 

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A2「Umbrellas」

ここからグループとしての演奏が始まり、ドラムのビートとブイブイいうエレキベースで前曲とのコントラストが強調されてる感じ。ザヴィヌル、ショーター、ヴィトウスの共作。

A→B→Aという楽曲構成があって、AからBへの特徴的なリズム・チェンジとかそれを踏まえてかまされるソプラノ・サックスの「プッ」てひと吹きがあまりにも『Bitches Brew』期マイルスなんだけど、むしろあの音楽性に対する自負からこういう演奏をしてるのかもしれない。

とはいえアンサンブルのあり方は独自色が強く、ベースがドラムの支援のもとある程度演奏を主導していくような立ち振舞をしつつもサックス、エレピと対等に近い、互いに互いの出方を見つつ押したり引いたり、あるいは互いに反応して形を変えつつ自らの領域の収縮拡張を繰り返していく関係性を構築している。

 

A3「Seventh Arrow」

ヴィトウスの楽曲。

前曲に引き続きアップテンポなリズムに乗って3人が相互に反応していく楽曲なんだけど、その3人のやり取りのかなりの部分が事前に作曲されているようにも思える。本当にそうなのか、だったとしてそれを手掛けたのがヴィトウスなのかちょっとわからないが。

ベースはアコースティックながらこちらもずいぶんブイブイいっており、エレピもリングモジュレーターでちょっとやんちゃする。

 

A4「Orange Lady」

ザヴィヌルの楽曲で、これ以前にマイルス・バンドでも録音している(発表はこちらが先)。

マイルス版の初出は1974年の『Big Fun』でその際は「Great Expectations」後半部分という扱いだったが、「Orange Lady」自体の楽曲構成はおなじA→B→A(マイルス版は前半A部分の繰り返しがやたら多いけど)。

マイルス版ではB部分で明確にリズムが強調され盛り上がるのに対してこちらはリズムは明瞭にならず、ゆったりとリラックスした演奏のようであり、ベース、エレピ、サックスの3者が互いに相手の様子を探りながら慎重に駒を進めていく独特の緊張感がある演奏がもともとの曲調や散りばめられたワールド・ミュージック的なパーカッション類によって偽装されているようでもある。

A部分では主題をサックスとベースのボウイングで合わせてるんだと思うけどちょっと自信ない。

この楽曲自体「In a Silent Way」にテオ・マセロが加えた編集を踏まえたもののようにも思える。

 

 

B1「Morning Lake」

ヴィトウスの楽曲。

他の楽曲と比べて「雰囲気の維持」が主要な目標として掲げられているような趣があって、そういう意味では「Milky Way」より環境音楽的。

つまりエレピ、サックス、ベースの3人全員が旋律的になり過ぎず、あくまで抽象的断片的な範囲内で一定の空気感を維持し続ける試み、みたいな感じのもの。

あくまでそういう試みなので演奏上の目印みたいなものはあっても他の楽曲ほどきっちり構成されておらず、聴かせたいとこを聴かせたらさくっとフェードアウトする。でも右側に出てくるエレピって後から追加で弾いたものだと思うのでやっぱりどの程度作曲されてるのかわからん。

パーカッションは正直ちょっと説明的すぎて過剰なような。

 

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B2「Waterfall」

ザヴィヌルの楽曲。「Morning Lake」に近いコンセプトだけどこっちのほうががっちり作曲されてる感じ。

左右に配置されたエレピの音の粒の連なりによって空間が維持および操作される。

タイトルとエレピのリフレインがあまりにもイメージ通りすぎて逆に枷になってる気も。

 

B3「Tears」

ショーターの楽曲で、ザヴィヌルやヴィトウスのものと比べると旋律的というか叙情的というか。

途中から混ざってくる男性のスキャットはタイトルのイメージから来てるんだろうけど、最初に聴いたときお風呂で気分が良くなったおじさんの声と思ってしまったせいでそのイメージから逃れられなくなってる。

 

B4「Eurydice」

ショーターの楽曲。

今作に収められたアンサンブルのなかで唯一ベースが明確にリズムを刻んでいるトラック。

そういう意味ではこのアルバムでいちばんオーソドックスなアンサンブルなんだけど、ここまでの楽曲でエレピ、サックスとベースがより対等に近い関係性で演奏を紡いでいくのを聴いてきたうえでこの楽曲に至ると、逆に違和感というか如何ともし難い不自由さを感じるようになる。

つまりベースがエレピ、サックスとの対等な関係を離れ一定のリズムを刻むということは、音楽のなかの一定のスペースをベースが占有し続けるということで、そうなるとサックスのほうもエレピと対等な関係性を築くにはスペースが足りず、ソロ楽器として振る舞うしかなくなってしまう。上を飛ぶか引っ込むかという極端な二択しか選べない、みたいな感じ。

 

 

WEATHER REPORTはこのアルバムのあとパーカッションをドン・ウン・ロマンに交代しヨーロッパ・ツアーを行うが、その途中ドイツでBeat-Clubに出演している。曲名は「Waterfall」になってるけど「Seventh Arrow」と「Umbrellas」のメドレー。

 

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こうして聴くとライブでは全員もっとガンガン演奏してるし、ドラムとパーカッションもスタジオでよりずっと重要な役割になっている。そういえばクイーカはマイルス・バンドでもけっこう存在感がある(他の奏者がしっかりレスポンスを返す)楽器だった。

あとヴィトウスが若くてかわいい。

 

 

Reissue

今作は1991年にColumbia Jazz Contemporary Mastersシリーズの一環でVic Anesiniによるリマスターが施され、今に至るまで新規にリマスターされることもなければ廃盤になることもなくずっと売られ続けている。自分が聴いてるのもこれです。

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記事冒頭に貼ったのが現行品で、こっちは2009年のリプレス。

 

日本では独自にMaster SoundとかDSD Masteringで何度かリイシューされている。正直マイルス・デイヴィス関連とかで何枚か持ってるDSD Mastering盤は音圧高すぎて聴けたもんじゃなかった印象があるんですがこれはどうなんでしょう。

これは2007年DSD Masteringによる廉価盤。

 

Weather Report

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こっちは2017年に出た英Talking Elephant盤。これといってリマスターの表記はない。Talking Elephantはライセンス元のリマスター音源をそのまま使ってるのがよくあるパターンだから、これもふつうにVic Anesiniリマスターかもしれない。

 

 

SpotifyApple MusicにはVic Anesiniリマスターが配信されてるけどジャケット画像までColumbia Jazz Contemporary Mastersの赤枠そのまんまで、正直見栄えのいいものではないのでどうにかしてほしい。

Weather Report - Album by Weather Report | Spotify

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あと上に貼ったBeat-Clubの出演映像は放送されたのこそあれだけだけど実際にはもっと長時間撮影されていて、2010年になって『Live in Germany 1971』というタイトルで全編収録のDVDがリリースされた。

なんか『Live in Hamburg 1971』ってタイトルになってるが。

 

 

*1:ひとりだけ国名じゃなくて州名なのはどうかとも思ったんだけど、まあアメリカで結成されたグループだしええか

*2:2022年3月現在にいたるまでCD化も配信もされてない……

*3:これ以外の経歴がよくわからない

Silver Machine 7" / HAWKWIND (1972)

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1972年6月9日リリース。HAWKWINDの2ndにしてバンドを代表する大ヒット・シングル。

バーニー・バブルスのデザインによるピクチャー・スリーブも存在してるけど手持ちの盤はカンパニー・スリーブすらない状態で転がされてたのを拾ってきた感じ。

 

 

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単純明快シンプルイズベスト。どんなバンドのどんな音楽か一目瞭然ならぬ一聴瞭然。

中盤あたりで電子音ノイズが高音域に広がって再生音量次第では広大な空間を形成する。たぶんもともと入ってた電子音とオーバーダブされた電子音とついでにシンバルが重なってそういうことになってるんだけど、手持ちの盤はけっこうボロくてサーフェスノイズが多く、そのノイズとこれらのノイズがわりと近い音域で展開されるもんだからさらによくわからん広がり方になる。うるさくてたのしいです。

歌詞はロバート・カルバートにより、アルフレッド・ジャリのエッセイ「タイムマシンの作り方」に着想を得たものらしい。

あと作曲クレジットのS. MacManusやプロデュースのDoctor Technicalはどっちもデイヴ・ブロックの偽名。なんやこいつ……

 

Recording

このシングルは1972年2月13日The Roundhouseでのライブ音源にMorgan Studiosでオーバーダブを行ったもので、元となるライブ音源はシングルに先駆けて『Revelations: A Musical Anthology for Glastonbury Fayre』というコンピでリリースされている。

ちょっとややこしいんだけど、このコンピは1971年の第2回Glastonbury Festivalを記念してリリースされたものながら収録内容は必ずしもこのフェスでの演奏ではなく、HAWKWINDの音源も1972年2月13日The RoundhouseでGreasy Truckers主催のチャリティー・コンサートに出演した際のものとなっている。

しかもそっちはそっちで『Greasy Truckers Party』というタイトルのコンピが似たような時期にリリースされていて、もちろんHAWKWINDのThe Roundhouseでの演奏も含まれてたりするのだ。

そしてこの『Greasy Truckers Party』、さすがにオリジナル・リリースでは「Silver Machine」が被ったりはしていないのだが、2007年にEMIがCD3枚に当日のフル・コンサートを収めたボックスセットをリリースするという快挙を成し遂げた結果、今度こそばっちり「Silver Machine」まで収録されたのでした。

まあ実際のところオリジナルの『Glastonbury Fayre』や『Greasy Truckers Party』はコレクターズ・アイテムの類なので、これでやっと「Silver Machine」の元音源を含めThe Roundhouseでのライブ音源をまっとうな手段で聴けるようになったとも言えると思います。しかもマルチトラック・テープからミキシングし直されていて音質良好。よかったよかった。

 

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というわけでこちらがそのライブ音源。最後ぶつ切りなのはこのまま次の曲に移行するから。

ヴォーカルが、まあ、まあまあまあ。この音源が気軽に聴けるようになる以前から「ライブでのカルバートの歌唱力に問題があって、スタジオでレミーのリード・ヴォーカルに差し替えられた」という話は有名だったけど、正直それ以前の問題というか、誰がどんな歌詞をどんなメロディで歌うのか詰めてない段階でなし崩し的に演っちゃってるような印象を受ける。実際突然加入することになって曲を覚える時間もなかったドラムのサイモン・キングはチャック・ベリーの曲でも演ってんのかと思ってたらしいし。

 

Seven by Seven

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B面「Seven by Seven」はRockfield Studiosでの録音。リード・ヴォーカルがデイヴ・ブロックで中間部にカルバートの朗読が入る。

このトラックはシングルのリリースからわりと早い時点でリミックス・バージョンに差し替えられたと思われ、そういう関係でオリジナル・ミックスとリミックス・バージョンの2種類が存在している。

上に張ったのはオリジナル・ミックスで、リミックス・バージョンはテープを再生しはじめたときみたいな音のイントロが追加されてるほか、全体的にサウンドがソフトになっていて俗にSoft Versionと呼ばれたり呼ばれなかったり。

 

 

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英United Artists、UP 35381。

Gramophoneプレスでマトリクスは両面「1U」。ほかに「KT」の刻印があるけど意味はよくわからない。

ここに収録されてる「Seven by Seven」はオリジナル・ミックスで、確証はないけどB面のマトが「2U」以降だとリミックス・バージョンになるんじゃないかと。

ピクチャー・スリーブ無しで盤が全体的にボロくてサーフェスノイズ大きめでプチノイズもちょこちょこ入るけど、わりと初期に生産されて生き残ってきた盤なのかもしれない。

 

 

Top of the Pops

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「Silver Machine」の大ヒットをうけてBBCTop of the Popsへ出演を依頼された際に制作されたPV。

HAWKWINDは当て振りパフォーマンスへの拒否感などもあってスタジオへの出演を断り、代案が実際のライブの様子を放送することだったらしい。

撮影は1972年7月7日Dunstable Civic Hallで行われ、音の方はシングルの音源にところどころ当時のテレビ番組らしい歓声をかぶせて使用。

この映像は結果的にダンサーのステイシアはもちろんのこと、ディック・ミックやデル・ダトマーのステージでの様子を伺えるほぼ唯一の貴重なものになった。

ステイシアは当時のライブの様子を捉えた写真でほとんど裸に近い姿にボディペイントのみでパフォーマンスを行っていることが確認できるけど、ここではBBCで放送することを考慮してか別にそういうわけでもないのか服を着用している。

これが続くシングル「Urban Guerrilla」のPVになるとおもいっきりトップレスで踊る姿を映してたりするものの、さすがにYouTubeにはアップロードされていないっぽい。

 

Reissue

「Silver Machine 」はHAWKWINDを代表する1曲なだけあってレコード時代には手を変え品を変え再発され、葬られても墓場から蘇って何度もリバイバルヒットしている。CD時代に入ってからもいろんなコンピで聴けるので、入手には困らないと思う。再録版?知らない子ですね……

記事冒頭に貼ったのは往年の名コンピ『Stasis - The U.A. Years 1971-1975』のもので、そもそも2ndアルバム『In Search of Space』のリマスター盤にボーナストラックとして収録されてたりも。

 

Stasis: the Ua Years 1971

Stasis: the Ua Years 1971

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In Search of Space

In Search of Space

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気になるのは2011年『Parallel Universe: A Liberty / U.A. Years Anthology 1970-1974』で、これ自体は貴重な音源を多数収録しブックレットも充実している良質なコンピなんだけど、ここに収録されている「Silver Machine」の新規リマスターはこれまでよりあきらかにノイズがひどくなっている。マスタリングの不備なのか、いい加減劣化が進んでいるであろうマスターの現状を伝えるものなのか。

 

 

「Seven by Seven」のほうもミックス違い含めフォローされていて、『Stasis』にはリミックス・バージョンが、『In Search of Space』ボートラにはオリジナル・ミックスが収録されてるほか、『Parallel Universe』にはこれまで未発表だった別ヴォーカルのものが収録されている。

 

 

 

 

 

 

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Kings of Speed 7" / HAWKWIND (1975/2013)

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1975年3月7日リリース、HAWKWINDのイギリスでたぶん5枚目くらいのシングル。

当時*1日本でもリリースされ、邦題は「スピード狂のロックンロール」だった。おそらくシングルの国内盤が出たのはこれが最後だったんじゃないだろうか。

 

scnsvr.hatenablog.com

 

このシングルはアルバム『Warrior on the Edge of Time』からの先行リリースで、基本的な経緯は上に張ったアルバム本編の記事で先に扱ってしまってるのでこちらには正直書くことないです(なのでアルバムと同時期に下書きを作ってそのまま放置してた)。

 

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「Silver Machine」の流れをくんでるんだろうとは思いつつ、『Warrior on the Edge of Time』のアルバムの流れの最後に出てくるとちょっと違和感があったりもするトラック。この次のシングルが「Kerb Crawler」という意味ではしっくりくる面もあるけど。

ドラマーのアラン・パウエルによるとドラムが2つ入ってる。言われてみると右側にうっすらもうひとつのドラムセットが聴こえる(ほとんどシンバルしか聞き取れないが)。

もうひとりのドラマー、サイモン・キングはこのトラックでは演奏していないと思われる。このとき録音された残り2曲もドラムはたぶんひとりだし、まだ怪我の療養中だったりしたのだろうか。

 

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手持ちの盤は上記した『Warrior on the Edge of Time』がAtomhengeからリイシューされた2013年のRecord Store Dayに際して復刻されたもの。

オリジナルのUK盤シングルのピクチャー・スリーブはおそらく初回出荷分のうちのさらに限られた盤にしか付属しなかった(と思われる)希少なもので、大半は通常のカンパニー・スリーブに収められていた。

この2013年リイシューはそのピクチャー・スリーブが再現されているのが最大のポイント。

なおオリジナルのスリーブがペラペラな紙質だったのに対して、このリイシューはぶ厚めのしっかりした紙質になっている。

 

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盤は『Warrior on the Edge of Time』リイシューと同じくチェコのGZ Digital Media製。サウンドの傾向もおなじでちょっとカッティング・レベルが低いけどマスターに忠実な落ち着いた音質とも言えそう。7インチはもっとビリビリした音であってくれみたいな気持ちも正直ある。

 

このAtomhenge盤「Kings of Speed」はアルバムに収録されているのと同一のバージョン。

現物を聴いたことないので確証はないんだけど、当時リリースされた7インチは国によって間奏などにちょっとしたカットがあって短くなってたりしたはず。

Discogsや45catでレーベル面に記載されている再生時間を確認してみたところ、

  • UK盤:3分25秒
  • US盤:3分35秒
  • 西ドイツ盤:3分25秒

となっていた。

てっきりカットがあるとしたらUS盤かと思ってたんだけど、これを見た限りむしろ逆でカットがあるとしたらUKおよびドイツ盤ということになりそう。10秒しか違わないしこの表記自体どこまで信頼できるもんなのかよくわからんので、結局現物がないとなんもわからんかも。

 

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B面はご存知「Motorhead」。

 

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A面はSpeedで「それってアンフェt……」となりB面はこれ。両方ドラッグ・ソングじゃん。

 

 

*1:Discogsに載ってるプロモ国内盤のレーベル面では8月5日発売となっている

Living in the Past / JETHRO TULL (1972)

 

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1972年にリリースされたJETHRO TULLのLPレコード2枚組コンピレーション・アルバム*1

Aqualung』(1971)と『Thick as a Brick』(1972)の大ヒットを受けて企画された、新規リスナーと熱心なファン両方へリーチする「ヒット・シングルのコンパイル」「Carnegie Hall公演のハイライト」「未発表曲とEP全曲」そして「写真集を含む豪華な装丁」というなかなか気合の入ったプロダクト。

 

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タイトルはもちろんこのトラックから。

 

JETHRO TULLは『Aqualung』と『Thick as a Brick』で「JETHRO TULLといえば知的なテーマを持ったコンセプト・アルバム」みたいな後年まで続くイメージを確立した感があるが、それ以前はむしろシングルが主戦場で、ヨーロッパとアメリカにまたがってシングル・ヒットを連発するグループとしてこそ存在感を発揮していたといっても過言ではない(もちろんアルバムも内容は充実していたしそれなりにセールスもあったが)。

そうしたヒット曲の大半はアルバムとは明確に区別されシングルのみのリリースだったため、後年アルバム中心のディスコグラフィーからバンドの流れをつかもうとしたときわりと見落としがち、もしくは頭ではわかっていてもいまいち実感というか、アルバム収録曲と比べたときの1曲1曲の重要性みたいなものがイメージできないままになってしまいがち(わたしのことです)。

このアルバムはそうしたシングル曲の流れを端的に掴むことができるのと同時に、リリース時にはモノラルのみだった*2シングル曲にステレオ・リミックスという1972年当時の時代に合わせたアップデートも施されている。

 

バンドにとってはじめてのコンピレーション・アルバムで気合が入ってたのかアルバムの売上が伸びて「大ヒット御礼」状態だったのかジャケットも豪華で、エンボス加工されたハードカバーの表紙にほぼ写真集なブックレットとレコードを収める袋状のページが綴じ込まれた作りになっている。

 

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初期盤の表紙は箔押だったらしいんだけど(現物未確認)、手持ちのものはレイトなのかUS盤は最初からこんなもんなのか普通の印刷となっていて正直ちょっと地味。

 

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ブックレットはこういう感じ。色合いがいかにも「昔の印刷物」って感じ。

考えてみるとシングル曲のレコーディング・データはこのブックレットが初出では。

 

収録内容

まあぶっちゃけベスト盤としては「今となっては」なアルバム。

すべての音源は各オリジナル・アルバムのリマスターやリミックス盤にボーナス・トラックとして収録されていて*3、そっちを集めたりサブスクを活用すればここで省かれているトラックを含めシングル関係の音源を総ざらいすることも可能。ライブ音源も抜粋じゃなく全長版が公式にリリースされている*4

いきなりそれは極端にしても、もっとオーソドックスな選曲のベスト盤やはじめての人向けプレイリストなどが揃ってる今の時代にわざわざ円盤を買うものではなく、実際CDもあるっちゃあるけどリマスター盤などのリイシューは基本的にされていない。

 

そういった意味ではまったく初心者向けではないのだけど、しかしそのうえで、このアルバムの内容はJETHRO TULLにとってシングルがとても重要だった時代のシングル曲の数々とCarnegie Hallという大舞台でのライブ公演のハイライトをまとめたバンドのひとつの時代の総決算とも言えるものとなっていて、むしろオリジナル・アルバムをひと通りおさえた上であらためて意識してみる価値があると思う。

ベスト盤やそれに類するコンピレーション・アルバムの「入門編にして応用編」という存在意義のうち、前者についてはその役割を終えたものの、後者についてはむしろ時代の変遷とともにその重要性を増してすらいるのではないだろうか。あるいはこの記事書いてるうちに気持ちよくなってきちゃって話が盛り気味になっているのではないだろうか。

 

といったところでその収録内容なんですが、このアルバムはUK盤とUS盤で一部収録曲が異なっている。これはおそらく両国でのシングルのリリース状況等を反映したものと思われる。

手持ちのレコードはUS盤なので、ここではそちらに準拠します。と言ってもどのトラックもこれまでのオリジナル・アルバムを扱った記事ですでに触れてしまっているので書くことないけど。

 

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A1「Song for Jeffrey」

A2「Love Story」

A3「Christmas Song」

A4「Living in the Past」

A5「Driving Song」

A6「Bourée」 CDでは収録時間の都合でオミットされてる。

 

B1「Sweet Dream」

B2「Singing All Day」 このアルバムが初出の未発表曲。

B3「Teacher」 このトラックもCDではオミット。

B4「Witch's Promise」 UK盤とUS盤で前の「Teacher」と順番が入れ替わってる。

B5「Alive And Well And Living In」 『Benefit』US盤で「Teacher」に差し替えられていたトラック。本アルバムUK盤では「Inside」を収録。

B6「Just Trying to Be」 これもこのアルバムが初出。

 

レコードC面は1970年11月4日のCarnegie Hall公演から。ブックレットに薬物およびアルコール依存症患者の支援団体へのチャリティ・コンサートだった旨が記載されてる。

C1「By Kind Permission Of」 「With You There to Help Me」後半のジョン・エヴァンのソロ・パートを抜き出したもの。

C2「Dharma for One」 1stアルバム収録のドラム・ソロ用トラックがすっかり様変わりしたもの。なんやかんや書いたけど結局このトラック目当てで聴くとこある。

 

D1「Wond'ring Again」 『Aqualung』収録の「Wond'ring Aloud」初期バージョン、の後半部分。

D2「Hymn 43」 UK盤では「Locomotive Breath」収録。

D3「Life Is a Long Song」 ここから5曲はEP『Life Is a Long Song』の内容をそのまま収録。

D4「Up the 'Pool」

D5「Dr. Bogenbroom」

D6「From Later」

D7「Nursie」

 

当該トラックで触れたように通常のUK盤やUS盤のCDでは1枚に収めるため一部トラックがオミットされている。

1997年にMobile Fidelity Sound LabからリリースされたものはCD2枚組でUK盤US盤両方のトラックを補完した内容だったほか、2004年の日本盤はUK盤に準拠したCD2枚組、しかもオリジナルのジャケットを可能な限り再現した紙ジャケ仕様のものまであった(プラケースのもあった)。

 

 

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手持ちのUS盤のレーベル面。

ChrysalisとRepriseのカタログ番号が併記されている。このアルバムからJETHRO TULLアメリカでのリリースがChrysalisレーベルになったので、その過渡期的な処置だと思われる。

 

マトリクスは

  • A面:2TS-2106 31480-1-2CH-1035
  • B面:2TS-2106 31481-1-2CH-1035
  • C面:2CH 1035 31482-3-1
  • D面:2TS-2106 31483-1-1-2CH-1035

すべて手書きだけどC面だけあきらかに字体が異なるしマトの法則性も違うので、他の面より後に切り直されたんじゃないだろうか。

そもそも本当に初期の盤はChrysalis側のカタログ番号(2CH-1035)が無くてReprise側のもの(2TS-2106)だけな可能性。

あとすべての面に「T1」のエッチングがあるのでTerre Hauteプレスだと思われる。

 

 

これは前述した2004年の紙ジャケ国内盤。「2004年デジタル・リマスター」と銘打たれてるけど独自マスタリングなのだろうか。

あとApple MusicにはUK盤CDの音源があるっぽい。

 

 

*1:イギリスでは6月23日、アメリカではだいぶ遅れて10月31日

*2:FMラジオ局向けにステレオ・ミックスも存在していたが一般流通はしていなかった

*3:ミックス違いについても最近補完されたっぽい

*4:もうけっこう前だから今だとフィジカルは入手しづらそうだけど