Five Miles Out / Mike Oldfield (1982/2013)

 

Five Miles Out: Deluxe Edition

Five Miles Out: Deluxe Edition

 

24-bit digital remastering by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

2013 5.1 Surround Mixes by Mike Oldfield

2CD+DVD

 

1982年発表。アメリア・イアハートを想起するジャケット・イラストや「Taurus II」「Orabidoo」「Five Miles Out」といった各楽曲に共通する主題・歌詞から旅にまつわる希望や喜びそして恐怖といったテーマがおぼろげに浮かび上がってくるアルバム。

プロデュースとエンジニアリングは基本的にマイク自身が手掛けているが、「Mount Teidi」にRichard Manwaring、そして制作が難航したことで知られる表題曲「Five Miles Out」にトム・ニューマンがそれぞれクレジットされている。

 

A面を占める大作「Taurus II」は冒頭の主題がアルバム最終曲と共通なことで密かに結末を暗示しつつも楽曲そのものは後半にいくにつれ楽しげに展開していく。途中挟まれるイーリアンパイプスのソロが素晴らしい(THE CHIEFTAINSのPaddy Moloneyによる)。マギー・ライリーによるヴォーカル・パートは「The Deep Deep Sound」と名付けられている。ラストは冒頭の主題に戻り、余韻を残しつつ終了。

「Family Man」はマギー・ライリーのヴォーカルをフューチャーした、マイク・オールドフィールド初と言っていい本格的な歌ものポップス。マイク本人のバージョンもシングル・カットされUKチャートでそこそこの順位に登ったが、翌83年にアメリカのホール&オーツがこの楽曲をカバーし米英で大ヒットとなった。歌詞はなんか男の人が女の人に誘惑されてる感じのやつなのでアルバムの中で一曲だけテーマが違って浮いてる気もする。

「Orabidoo」は複数のパートに分かれた10分超えの楽曲。牧歌的なオルゴール風の導入ではじまる前半は「Taurus II」中盤以降の楽しげな雰囲気を引き継いだような前途洋々とした感じがあるが次第に不穏さを増していき、「Taurus II」と共通の主題と共に曲調が急変、厳しい雰囲気のインストに(挿入されるヒッチコック映画の台詞“Don't Come In Again...”はこの展開を揶揄してのものだったりするのだろうか?)。後半は「Ireland’s Eye」とも通称されるマギー・ライリーのヴォーカルをフューチャーしたパートで、聴きようによってはほとんど鎮魂歌である。

「Mount Teidi」は前作までの流れを汲んだ作風(ようするにいつものノリ)のインスト。マイク・オールドフィールドカナリア諸島テイデ山に登った際に得たアイディアを反映しているとか。パーカッションはなんとカール・パーマー

アルバム・ラストを飾るタイトルトラック「Five Miles Out」は加工されたマイク・オールドフィールド自身のヴォーカル(一部某ピルトダウン人ボイスも)にマギー・ライリーの呼びかけるようなヴォーカルが加わって展開していく、4分ちょいながら凝った構成の楽曲。「Family Man」や本作以降の歌ものとはまた違った趣のある傑作である。歌詞は航空関係の専門用語が頻出し詳しい意味はわからんけど非常にやばい状況なことは伝わってくるやつで、最後は意味深な飛行機のSEと共にフェードアウトする。シングル・カットされ、PVも制作された。

 


Mike Oldfield - Five Miles Out ft. Maggie Reilly

マギー・ライリーの声帯を持つ謎のちゃんねーが登場するPV

 

長いことジャケットと最終曲そしてマイク・オールドフィールド本人の飛行機好きのイメージからアルバムを通して空の旅を扱っているという先入観を持っていたのだが、「Taurus II」の歌詞はあくまで抽象的なものであり「Orabidoo」は途中カトマンドゥという地名が出てくることからも登山家と残された人の話と思われる。「Mount Teidi」もあきらかに山をモチーフとしていて、直接的に飛行機が関係するのは「Five Miles Out」のみ。あらためて考えてみるとこれらの楽曲に共通するのはむしろ「旅人」と「天候」であった。「Family Man」もまあ歌詞中の"I"が旅人でまさに"she"という嵐に直面していると言えなくもない…か?

 

今作のデラックス・エディションはオリジナル・ミックスのリマスターとサラウンド・リミックスのみでステレオのリミックスは制作されなかった。まあもともと完成度の高いオリジナル・ミックスのリマスターがなんの不満もない出来栄えなのであってもそんなに聴かないと思う。

 

目当てのサラウンド・リミックスはレイアウトが良くて期待通りの仕上がり。70年代作品のリミックスと比べて楽曲の構成面がほとんど弄られていない(よね?)ことからも元々の完成度の高さが伺える。タイトルトラックの最後、例のブーン音はオリジナル以上に「楽曲を終わらせる音」として強調されており、この音が楽曲を断ち切るように終わる。

このアルバムに限らず、マイク・オールドフィールド本人の手によるサラウンド・ミックスはポップス系では標準なサラウンド・スピーカーにも実音を入れてリスナーを取り囲むタイプのもの。どれも製作者本人が手がけていることもあってか楽曲の展開に合わせた音の配置が非常に的確でなんの違和感もなく聴けてしまうので、逆に自分の乏しい語彙力では楽曲の構成をオリジナルから弄っている箇所の指摘以外あんまり書くことが思い浮かばなかったりします。

 

CD1のボーナス・トラックは2曲。

「Waldberg (The Peak)」はシングル「Mistake」B面曲(シングル・リリースのみの「Mistake」そのものは次作『Crises』のリイシューに収録)。マイクらしいバグパイプの音色をフューチャーしたトラッド色の濃いインストである。

「Five Miles Out」のデモ・バージョンはマイクが自身の声を用いる決断を下す前段階のもので、完成版とは曲構成自体が異なる。マギー・ライリーのヴォーカルも完成版でのマイクとの役割分担がない分より切迫感のあるものになっている。音質も悪くないのでこれはこれで別バージョンとして楽しめます。

 

CD2は本作に伴うツアーからのライブ音源。会場はドイツのケルンなんだけど、同じノルトライン=ヴェストファーレン州にWaldbergという地名の丘陵?があるらしいので、あるいは「Waldberg (The Peak)」も「Mount Teidi」の場合と同じくそこから受けた印象に基づいているのかもしれない。

 

DVDにはアルバム本編のサラウンド・リミックスの他に「Five Miles Out」PVとマイク・オールドフィールド迫真の口パクが見られるテレビ出演時の映像を収録。あんまり迫真なんでマギー・ライリーが笑っちゃってるような