My Maria / B.W. Stevenson (1973/2020)
1973年リリース、テキサスはダラス出身の歌手B.W. スティーヴンソンの3rdアルバム。
プロデュースはデヴィッド・カーシェンバウムで、ハリウッドのRCA Victor's Music Center Of The Worldで録音された。
スティーブンソンの自作3曲を除いてジム・ゴードン、ジョー・オズボーン、ラリー・カールトン、ラリー・ムホベラックというハリウッドの腕利きスタジオ・ミュージシャンが起用され、それらの曲についてはムホベラックとカールトンが編曲も担当している。
ちなみに自分はほぼジム・ゴードンのドラム目当てに手を出しました。
ダニエル・ムーア、デイヴ・ロギンスといった若手シンガー・ソングライターの作品をいち早く採り上げ、キレの良い的確な演奏と簡潔ながらそれぞれの曲の聴かせどころを押さえた編曲でさくっと楽しめるレコードに仕上がっている(具体的には再生時間が30分未満)。
実際それぞれの楽曲のオリジナルの録音と比べてみると、荒削りだったオリジナルから歌メロや構成を洗練させ演奏もタイトになり、全体的に磨き上げられていることがわかる。
アルバムとしては、外部ライターとスタジオ・ミュージシャンによるレコード会社も納得の「品質保証付き」のトラックを作りつつ、スティーヴンソン自身の3曲はよりパーソナルなメンバーで固めたという面もあるだろうか。
ところでこのアルバムのジャケット写真、スティーヴンソンがおもいっきりピンぼけしてるんですが……
- My Maria
ダニエル・ムーアとスティーヴンソンの共作で、全米第9位のヒットを記録した両者にとっての代表作。
ラリー・ムホベラックによる、アコースティック・ギターの印象的なイントロを活かしたコンパクトに纏めつつ適度にドラマティックでもある編曲が見事。
そしてジム・ゴードンのドラム。リムショットも太鼓もライドシンバルのベルもむっちゃいい音で鳴っててフィルインもキレッキレ。
ジム・ゴードンはあんまりにも最高のドラマーなんでなんなら楽曲がつまらなくても彼の演奏が聴ければそれでいいまであるけど(本当にそうか?)、この曲は展開とそれに合わせたビシバシ決まるドラムの相乗効果でもって彼のベストプレイのひとつに仕上がっていると思う。
1996年にはBROOKS & DUNNがわりとストレートな編曲でカバーしてそちらも大ヒットしたが、その頃にはスティーヴンソンはすでに亡く、ジム・ゴードンも塀の中だったと考えるとなんというかなんだろ。
- Be My Woman Tonight
NRBQのアル・アンダーソン作で、同時期に彼の1stソロ・アルバムにも収録された。
こういうシンプルで軽快な曲はほんと鳴りのいいドラムが映える。でもそれにしたってシンプルなような。
- Sunset Woman
「Please Come to Boston」のヒットやTHREE DOG NIGHTへ提供した「Pieces of April」で知られるシンガー・ソングライター、デイヴ・ロギンスの作。彼のソロ・アルバム『Apprentice (In A Musical Workshop)』(1974)にも収録された。
スティーヴンソンの恰幅通りな響きの良い声はこういうしんみりした曲調によく合っている。
- A Good Love Is Like A Good Song
シンガー・ソングライターのケイシー・ケリー作で、オリジナルは彼の1972年1stソロに収録。
サビのハモリがいい感じでけっこう気に入ってる楽曲。
ちなみにケイシー・ケリーの1stは同年リリースのジャクソン・ブラウンの1st(ジム・ゴードンがオルガンで参加してる)とスタッフの大半が重複するいわゆる裏盤的な存在だったりする。
- Shambala
これもダニエル・ムーアの楽曲。編曲はラリー・カールトンで、ゴスペル風コーラスが印象的。
シングル・カットされチャート66位まで上ったが、スティーヴンソンの翌週にTHREE DOG NIGHTもこの曲をシングル・リリース、そちらが大ヒットしてお株を奪われる形になってしまった。
THREE DOG NIGHT版はゆったりした雰囲気のスティーヴンソン版と比べて勢いがあって、演奏時間も1分近く長いので正直なところ耳に残りやすいとは思う。この曲に限らず、スティーヴンソンのアルバムの編曲ってラジオを意識したにせよ短すぎあっさりすぎなような。
- Pass This Way
裏ジャケに歌詞が掲載されている、スティーヴンソンの自作曲。
本人の弾き語りで他の曲に輪をかけて短いが、しんみりを通り越してある種の虚無に至っている感じもあり興味深い作風。
米RCA Victor、APL1-0088。ダイナフレックス盤でよくしなる。
昔の輸入盤は商標の関係かなにかでメーカー名がマジックやシールで消されたり隠されたりしてることがあるけど、この盤はRCA Victorの「Victor」部分がナイフで切れ込みを入れて剥がすという乱暴な上に手間がかかりそうな手段で消されている。
ダイナフレックスではあるが盤質も音質もばっちりで、がっつり音量を上げてジム・ゴードンのドラムを楽しめます。
ちなみに本作はエンジニアのRick Ruggieriによりステレオ・ミックスと同時にクアドラフォニック・ミックスも制作されたが、そちらはLPではリリースされず8トラック・カートリッジ、しかもカナダでのみのリリースだったっぽい(USリリースの8トラはステレオのみ)。
My Maria & Calabasas
2020年(つまり今年では)にVocalionレーベルから、本作と次作『Calabasas』を1枚のHybrid-SACDにまとめたコンピがリリースされた。
両作ともステレオ・ミックスに加えて当時のクアッド・ミックスが収録され、すべてMichael J. Duttonによってリマスターされている。
本作『My Maria』に関して述べると、ステレオ・ミックスは高音域がちょっと伸びてはいるけど多少キツめな印象で、低音域はレコードと比べてあきらかにベースあたりの帯域が引っ込んでる。
だからダメということではなく、これはおそらくレコードではなくマスター・テープの音を忠実に復刻した結果なのだと思う。
レコードに収められている音というのはマスター・テープをもとに最終調整を行ったもので、エンジニアやプロデューサーによってかなり手法に違いがあるものの、基本的にマスター・テープの段階では減衰しやすい高音域が多少持ち上げられ逆に低音域は抑え気味な、まさにこのSACDみたいな音のはず。
なのでこのSACDはマスター・テープ本来の音っぽいものを楽しみつつ、各自好みに応じてイコライザーやトーンコントロールで調整すればいいのだと思う。
クアッド・ミックスはリスナーを取り囲むタイプのレイアウトで、「My Maria」のサビこそ「4チャンネルステレオといったらこれですね!」とでも言いたげな感じにマラカスがぐるぐる回るが、それ以外は基本的にどの楽器も定位置から動かないシンプルな仕上がり。
けして派手なサラウンドではないが余計な演出がなくレイアウトや音量バランスも良好なので、各楽器がよりくっきりとした2chステレオの上位互換としてそのまま楽しめるものになっている。
ダイナミックレンジは期待したほどには広くない印象もあるけど、どうしても今の時代のサラウンド音源と同じ感覚で聴いてしまうせいでそう感じる面もあると思う。
それはそうとドラムですが、ドラム・セットが基本的にフロント側、パーカッション類が基本リア側に定位していることもあってジム・ゴードンのプレイをより集中的に聴けるようになっていてとてもうれしい。正直油断するとふと冷静になってなんで俺生活やばいのにこんなSACD買っちゃったんだろうとか考えてしまわなくもないけど、ジム・ゴードンのおかげで現実から目を背けていられます。
Vocalionは本作に限らずAudio Fidelityの遺志をついで微妙どころのクアッド音源を続々とリイシューしているのでたいへんありがたい。
B. W. スティーブンソンの音源ってほんの少し前までよくわからない本人が関わってなさそうな再録版(というかバックトラック差し替えた版か)が溢れていてオリジナルを聴く手段が非常に限られていたんだけど、今年になってふとApple Musicで検索したらいきなり各種オリジナル・アルバムが聴けるようになってた。
VocalionのSACDはSony Music Entertainmentからのライセンスでリリースされてるけど、そのあたり含めごく最近それまで微妙なことになってた権利関係が解決したりとかしたんだろうか。
『Calabasas』については次回。