First Miles / Miles Davis (1988/1994)

 

First Miles

First Miles

  • アーティスト:Davis, Miles
  • 発売日: 2005/02/14
  • メディア: CD
 

 

マイルス・デイヴィスのはじめてのセッション2つを収録したコンピレーションで、1988年にLPでリリースされた。

 

2つのセッションはレコードのA面とB面にそれぞれ割り振られ、A面はマイルスの初レコーディング、B面は初リーダー・セッションとなっている。

音源はすべてオリジナルのアセテート盤からJack TowersとPhil Schaapによってリマスタリングされたそうで、この時代のものとしては十分良好な音質。

 

1. 1945年4月24日のセッション

マイルスにとってはじめてのレコーディング・セッションで、1945年4月24日にラバーレッグズ・ウィリアムズという歌手の伴奏でハーヴィー・フィールズの楽団に参加したもの。ニューヨークのWOR Studiosで、Savoyレーベルにテディ・レイグのプロデュースのもと録音された。

 

メンバーは以下の通り。

  • ラバーレッグズ・ウィリアムズ:ヴォーカル
  • ハーヴィー・フィールズ:テナー・サックス、クラリネット
  • レナード・ガスキン:ベース
  • テディ・ブランノン:ピアノ
  • エディ・ニコルソン:ドラム
  • マイルス・デイヴィス:トランペット


ラバーレッグス・ウィリアムスはWikipediaによるとブルースとジャズのシンガーでダンサー、ヴォードヴィルのスターでFemale Impersonator(正確な意味合いがわからないんだけど日本で言うところの女形とかそいういうものらしいです)ということらしい。
ラバーレッグズという芸名からも察せられるようにダンサーとして高名だったようで、1932年にはエルマー・スノーデン楽団のダンサーとしてショート・フィルム『Smash Your Baggage』に出演している。確証はないけどたぶんクライマックス・パートで目立ってるのがウィリアムズだと思う(途中の女性ヴォーカルがMabel Scott、縄跳びとタップダンスを同時にやってるのがDanny Alexanderというひとらしい)。
また彼はディジー・ガレスピーと親交があったらしく、おそらく1940年代に撮影されたウィリアムズがふざけてガレスピーの胸ぐらをつかんでいる写真が残っているというか、むしろざっと検索してもウィリアムズの写真がそれくらいしか出てこない。

ディジー・ガレスピーバイオグラフィーによると、ウィリアムズはあの時代にあって酒もタバコもドラッグもやらず尊敬を集めたそうだが、1945年1月にクライド・ハートのレコーディング・セッションでガレスピーチャーリー・パーカーと共演した際には珍しく酒に酔っており、そのうえパーカーが自分用に作ったかあるいは盛ったアンフェタミンの錠剤入りコーヒーを飲んでしまい暴言を吐いたり歌唱がボロボロになったり散々だったという話をみかけた。しかもこれがウィリアムズの歌手としての初レコーディングだったとか。
同年4月のこのセッションでウィリアムズは最初ガレスピーを希望したが、ガレスピーとパーカーの推薦でマイルスが参加することになったらしい。

 

ハーヴィー・フィールズはマイルスとおなじジュリアード音楽院出身の管楽器奏者(ソプラノ、アルト、テナー、バリトンのサックスとクラリネット)で、時期は異なるが彼の楽団には軍役に就く以前のビル・エヴァンスが参加していたこともあるらしい。このあたりの経歴的に、なんとなくマイルスを選んだのは本当はこのひとだったんじゃないかとか思わなくもない(あるいはテディ・レイグという線もあるだろうか)。

フィールズはテナー・サックスをスウィング風からベン・ウェブスター影響下のいわゆるホンカーと呼ばれる意図的に音を割った豪快なスタイルまで吹き分け、ソプラノ・サックスやクラリネットも非常に巧み、レコードでは安定した歌唱まで披露しているが、ビバップには馴染めず評論家の油井正一言うところの「でたらめ」な演奏も残している。

実際ライオネル・ハンプトン楽団『All American Award Concert』に収録されている「Red Cross」を聴いてみると、前半のフィールズによるサックス・ソロはビバップもなにもわからない自分の耳にもとち狂ってるというかむちゃくちゃ演ってる感じで、結果的に後のNAKED CITY『Torture Garden』あたりへと通じるような演奏になっているように思えた(と言ってもむこうはがっつり譜面に仕上げてあれを演ってるんだろうけど)。

 

「That's the Stuff You Gotta Watch (Alternate Take 1)」

「That's the Stuff You Gotta Watch (Alternate Take 2)」

「That's the Stuff You Gotta Watch (Master Take 3)」

「Pointless Mama Blues」

「Deep Sea Blues」

「Bring It on Home (False Start Take 1)」

「Bring It on Home (Alternate Take 2)」

「Bring It on Home (Master Take 3)」

 

youtu.be

 

どのトラックもジャズというよりジャズ畑のミュージシャンがブルースの伴奏してる感じ。

「That's the Stuff You Gotta Watch」は最初テーマをサックスとトランペットがユニゾンで吹き、ヴォーカルも含め全体的に抑制の効いたアンサンブルへの意識を感じさせる演奏だったのが、マスター・テイクになるとユニゾンがなくなりサックスもヴォーカルも大げさで荒っぽい感じになるのが興味深い。

マイルスは基本的にアンサンブル要員でソロをとったりはしていない。本人曰くあまりにも緊張してろくに吹けなかったそうだが、ハーマン・ミュートではないものの後年トレードマークとなるミュートを用いた印象的なサウンドの萌芽がすでに聞かれ、だんだん調子が出てきたのか「Bring It on Home」ではヴォーカルの裏でわりと自己主張の強いプレイも行っている。

 

なおこれら4曲のマスター・テイクはSavoyから

  • 『That's The Stuff You Gotta Watch / Pointless Mama Blues』
  • 『Deep Sea Blues / Bring It On Home』

の組み合わせでSPとしてリリースされた。

 

2. 1947年8月14日のセッション

マイルスにとって初のリーダー・セッションで、詳しい事情はわからないがチャーリー・パーカーの契約の都合かなにかで代わりにリーダーを務めることになったとか。1947年8月14日ニューヨークのHarry Smith Studiosで、こちらもSavoyレーベルにテディ・レイグのプロデュースのもと録音された。

 

メンバーは

パーカーはなぜかアルトじゃなくてテナーのサックス。

 

マイルスは4曲すべての作曲と編曲を手掛け、ぶっつけ本番が基本なパーカーと違ってリハーサルも2度こなしたうえでセッションに臨んでおり、どのトラックもパーカーがリーダーの際のおりゃっと演って一丁上がりみたいなものとは明確に異なった丁寧な作品に仕上がっている。

マイルスのソロもこの時期特有のたどたどしさはあるものの、しっかりとした足取りで以前よりメロディアスでぱっとした演奏を行っていて、パーカーまで単にアルトとテナーの違いという以上に丁寧な演奏を心がけているように聴こえる。

 

「Milestones (False Start Take 1)」

「Milestones (Master Take 2)」

「Milestones (Alternate Take 3)」

「Little Willie Leaps (False Start – Incomplete Take 1)」

「Little Willie Leaps (Alternate Take 2)」

「Little Willie Leaps (Master Take 3)」

「Half Nelson (Alternate Take 1)」

「Half Nelson (Master Take 2)」

「Sippin' at Bells (False Start – Incomplete Take 1)」

「Sippin' at Bells (Master Take 1)」

「Sippin' at Bells (False Start – Take 3)」

「Sippin' at Bells (Alternate Take 4)」

 

youtu.be

 

「Milestones」は「Mile Stone」とも表記され、後年Columbiaで録音した楽曲とは同名異曲。さっき「マイルスは4曲すべての作曲と編曲を手掛け……」と書いたそばからなんなんだけど、実際の作者はジョン・ルイスで、チャーリー・パーカーと共演の機会を設けてくれたマイルスへのお礼がこの曲だったという。

「Half Nelson」はなんかネルソンがハーフらしい。わからんけどネルソン・ボイドのソロの長さとか? あとコード進行がほぼ「Lady Bird」らしい。わからんけど。

この時点で「MilesだからMilestones」とか「NelsonだからHalf Nelson」みたいなタイトルの雑さが現れている。まあタイトルとか区別さえ付けばどうでもよかったんだろうけど。

 

SPはMILES DAVIS ALL-STARS名義でMilestones / Sippin' at Bells』がリリース。

その他のトラックは「Half Nelson」がMILES DAVIS - CHARLIE PARKER名義でファッツ・ナヴァロとレオ・パーカーのトラックと共に、「Little Willie Leaps」がMILES DAVIS ALL-STARS名義でチャーリー・パーカー単独名義のトラックと共にリリースされた。

以降はどのトラックもチャーリー・パーカー関連のあれやこれやと一緒くたにされて現在に至る感じ。

 

リイシュー

このコンピは90年代に入ってすぐCD化されたが、その際にレコードのA面B面が入れ替えられ、1947年のリーダー・セッションのほうがアルバムの冒頭にくるように変更された。そもそも本当に88年の時点でCDではリリースされてなかったの?とか思わなくもないけどとりあえずDiscogsには載ってない。

その後おそらく94年の国内盤CDリイシューに際して笠井雄二郎によってあらためてリマスターされ、以降はどのリイシューも基本的にその音源が使われているっぽい。なので配信にあるのもそれだと思います。

ところでCDだと一部のトラックで短いミステイクとその後の上手くいったテイクがひとまとめにされていて、マスター・テイクだけ聴きたいときに不便だったりする。

 

open.spotify.com