Caravanserai / SANTANA (1972)

 

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1972年10月リリースの4作目。

レコードのA面とB面がそれぞれひと繋がりの組曲のような作りになっているアルバムで、各楽曲は単体での完成度以上にアルバム内での役割を重視した作曲および編曲がなされている。

ぱっと聴きこれ以前の3枚と今作でサウンドが大きく変わったような印象も受けるが、実際にはむしろ作曲やアレンジ面の変化、つまり前作までのソロの応酬を最大の聴かせどころとしてそれをパッケージングする手法から綿密なアレンジによる楽曲展開で聴かせる手法への変化によって、そのような印象を受けている気もする。音以上に音の配置や使われ方が変わったというか。

そういった意味では、今作はこれまでのSANTANAの音楽の諸要素を作曲的な観点から構築し直したものと見なすことができるかもしれない。このあたり今は勢いで書いてるけどちょっと経ってから読み返すと「いやぜんぜん違うだろなに聴いてたんだ俺は」みたいになる可能性が大いにあります。いつものことですが

SANTANAはデビュー作の頃から曲と曲の繋がりやアルバム全体の流れに意識的で様々な工夫をこらしていたが、本作はレコードのそれぞれの面を通して大きなクライマックスに至る楽曲構成やその内容の充実といった点でひとつのピークに達したと言えるんじゃないだろうか。

 

今作のアルバムトータルでの曲作りは同時にシングル・カットを意識しない曲作りということでもあり、実際アメリカ本国では前作の「No One to Depend On」から76年の「Europa」まで7インチのリリースが途絶えることになる。

これまでアルバムとシングル両方で順調な売上を記録してきたSANTANAの方向転換にColumbia Recordsのクライヴ・デイヴィスは難色を示したものの、結果的に今作はBillboard 200チャートで8位、R&Bチャートで6位というクロスオーバーの先駆けのような大ヒットを記録。

これを追い風に以降SANTANAというかカルロス・サンタナジョン・マクラフリンとの『Love Devotion Surrender』そして『Welcome』へと、ようするに内容的にはともかく売上の面ではクライヴ・デイヴィスの危惧したとおりの方向へと邁進することになるのでありましたとさ。

 

今作はカルロス・サンタナとマイケル・シュリーブのプロデュースのもと、1972年の2月から5月にかけてサンフランシスコのColumbia Studiosで制作された。

青のグラデーションが美しいジャケットは前作までと同じジョアン・チェイスの手によるもので、音楽性の変化に合わせてアートワークのほうもこれまでより静かな感じになっている。そういえば池田あきこ旅行記かなにかで「サンタナの青くてきれいなジャケット」みたいな記述を読んだおぼろげな記憶があるんだけど、あれはたぶん『Borboletta』の青ピカジャケじゃなくてこっちの商隊ジャケのことなんだろう。

ゲートフォールド・ジャケットの見開きにはパラマハンサ・ヨガナンダの『Metaphysical Meditations』からの引用が掲載されている。たしかジョン・アンダーソンにも来日公演中に読んだこのお方の自叙伝から『Tales from Topographic Oceans』の着想を得たというようなエピソードがあったはず。ヨガナンダってヨガなんだ、というのは思いついたけど書かずにおきます。

前作から今作にかけてのメンバーチェンジによってバンドが妙に大所帯になったり外部のミュージシャンも参加したり、さらにレコーディング中とうとうサンタナグレッグ・ローリーの対立が決定的になったりした結果各トラックの参加メンバーはまちまちで、結局見開きにトラックごとの参加ミュージシャンがクレジットされている。

ところでメンバーチェンジのいざこざで前作後のツアー中にバンドから一時カルロス・サンタナ本人が離脱する事件(狂言脱退とでも言ったものか)があったらしく、残されたニール・ショーンがひとりでがんばってる「サンタナのいないSANTANA」のライブ録音がブートで出回ってたりもするそうな。

 

  • Song of the Wind

虫の鳴き声から静かにはじまったA面が次第に熱を帯びてきた頃合いに一旦引きつつ登場するギター・ソロ曲。滑らかに歪んだギターの音色と旋律が心地良い。

カルロス・サンタナニール・ショーンのふたりがギターとしてクレジットされていて、この一連のソロのどこをどっちが弾いているのか、あるいはどっちかが大半を弾いているのかさっぱり見当がつかない。

マイケル・シュリーブのインタビューによるとふたりはパンチインなどテープ編集を繰り返してこのギター・ソロを作り上げたらしく、そういった意味では重要なのはこれがスタジオで練り上げられた完璧なギター・ソロであるということであって、だれがどこを弾いているかなんてことは取るに足らない些事であるとも言えるかもしれない。

関係ないけど自分はSANTANAをちゃんと聴きはじめるのが遅かったので、ミック・テイラーのストーンズ時代の名ギター・ソロ「Time Waits for No One」を「サンタナ風」と言われてもいまいちピンとこなかったりした。

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A面クライマックス担当らしく、名前負けしない壮大さと奇妙さを兼ね備えた楽曲。

妙にもやもやした湿度高そうな音、へなへなヴォーカル、イントロのシュワシュワいってる音、1度目のサビっぽい部分の後イントロが再現して2度目のサビが来るかと思いきや違う歌メロが出てきて急上昇しそのあと結局1度目のサビっぽいのは出てこない構成、スラップ・ベース、オルガン・ソロ、ギター・ソロにくっついてくるピロピロしたギター、愛、宇宙、なんかいろいろ……

 

  • Stone Flower

アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲にヴォーカルをのせ、オリジナルの曲調そのものは保ちつつストレートに仕上げたもの。

原曲があらためて聴くとわりと重さのあるサウンドで編曲にもクセがあって、SANTANA版のがむしろスッキリしてるような気もする。


Antônio Carlos Jobim - Stone Flower

原曲。直接貼り付けられないのでリンクだけ

 

 

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手持ちは1974年の国内再発クアッド盤で、たぶんマト自体は初版から変わっていない。なお初版は被せ帯だった模様。

 

今作は(少なくともアメリカでは)まずステレオ盤がリリースされ、その後73年にはいってからSQ方式のQuadraphonic盤がリリースされたものと思われる。

ステレオ・ミックスのエンジニアはGlen KolotkinとMike Larnerで、クアッド・ミックスはLarry Keyes監修のもとGlen Kolotkinがミキシングを手掛けた。

 

日本でのリリースがよくわからないんだけど、あるいは最初からQuadraphonicでも出されていたのかも。

米Columbia Recordsの4ch盤がオリジナルのアートワークを金枠で縁取ったジャケットなのに対して、日CBS/Sony盤のアートワークは銀ジャケとか呼ばれるらしいなんというかマットな表面の銀紙に印刷したみたいな鈍く輝くジャケットになっている。

あとクアドラフォニックの解説シートとか入ってたり、ファミリーツリーみたいなのがついてたり。

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自分はかつての4chステレオを再生できる環境があるでもなくジャンク箱で見つけたこの盤をとりあえず回収して持ってるだけだったのだが、最近ふとしたはずみで聴く機会を得たりした。

マトリクス方式なのもあって定位はもやもやと曖昧だが、基本的にパーカッション・ドラム・ベースが各チャンネルに割り振られ各種ソロがフロント側、特にヴォーカルとサンタナのギター・ソロはセンターにくるスタンダードなレイアウトになってると思う。もともと軽めなサウンドのアルバムだとは思うけど、余計低音域がスカスカになってる気もする。

A面冒頭の尺八っぽいサックスはふらふらとあっちに行ったりこっちに行ったり。

ギター・ソロはけっこう生々しい音。たぶんクアッドでよくある、ステレオのように全体にエコーをかけて音を馴染ませるような作業がされていない結果の生々しさだと思う。

「Song of the Wind」終盤はステレオ・ミックスだと一旦リード・ギターが消えて後奏のギターがフェードインしてくるが、クアッド・ミックスではリード・ギターがそのまま弾き続けて後奏ギターと絡む感じになってとてもよい。

「All the Love of the Universe」はヴォーカルの音処理の関係かステレオでも他のトラックよりもやもやした感じがあるけど、マトリクス方式のクアッドではそのもやもやが強くなったような。しかもステレオでは中央に定位し強い印象を与えるエレキベースはフロント右の端の方に追いやられ、なんかもやもやに紛れて聴こえるような聴こえないようなバランスになってる。これはちょっとどうだろう。

 

関係あるけどAVアンプにこういうかつてのマトリクス方式クアッドのデコーダーをデジタルで再現したやつがおまけで搭載されたりしないもんですかね。あとAtmosに対応した新しいDolby Surroundはそれはそれでいいから、かつてのPro LogicやPro Logic IIもそれを想定したソフトがあることを鑑みて残しておいてほしい。たぶんライセンス料とかいろいろあるんだろうけど。

 

 

キャラバンサライ

キャラバンサライ

  • アーティスト:サンタナ
  • 発売日: 1999/12/18
  • メディア: CD
 

最高傑作の呼び声も高い今作はSACD元年の1999年にさっそくそのフォーマットでリリースされたがあくまでステレオ・ミックスのみ収録で、これ以降も今のところクアッド・ミックスが復刻されたりあらたにサラウンド・リミックスされたりはしていない。てっきり『Lotus』復刻盤が盛り上がったときにその流れでなんかあるかと思ったら特になかったし。

 

Caravanserai

Caravanserai

  • アーティスト:Santana
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: CD
 

2003年にはおなじみLegacyからVic Anesiniのリマスター再発がされたけど、自分は持ってないのでなんとも言えない。Dynamic Range DBでDR値確認した感じ多少音圧が上げられてるものの酷いことにはなっておらず、特に問題なく聴けるんじゃないかと思います。

 

このアルバムというかSANTANAの80年代までのアルバム全般はサブスクで配信されてる音源がどういう素性のものなのかよくわからないんだけど、リマスター版だったら権利関係のクレジットがあると思うのであるいはどれもそれ以前のCDと同じ音源かもしれない。アーティスト側の強い意向とかでこういうことになってるんじゃない限り、今後しれっと追加や削除、ついでにタイトルを邦題やカタカナに変えられてこっちのApple Musicライブラリがぐちゃぐちゃになる可能性もある。

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