Market Square Heroes EP / MARILLION (1982)
1982年10月リリース。
イギリスのアイルズベリーで結成されたバンド、MARILLIONのデビュー作。バンド名は当初トールキンの『シルマリルの物語 The Silmarillion』からとってSILMARILLIONだったが後に短くMARILLIONとあらためたそう。
7インチと12インチでリリースされ内容的に7インチはシングル、12インチはEPとなっており、手持ちはEPのみ。
- フィッシュ Fish:Vocals
- スティーブ・ロザリー Steve Rothery:Guitars
- マーク・ケリー Mark Kelly:Keyboards
- ピート・トレワヴァス Pete Trewavas:Bass
- ミック・ポインター Mick Pointer:Drums
SILMARILLIONはそもそもミック・ポインターが中心となって活動していたグループで、そこにアイルランド出身のマーク・ケリーやスコットランド出身のフィッシュといったメンバーが加わっていってこの形になったようだ。
プロデュースは70年代にBLACK CAT BONESやPINK FAIRIESを手掛けたことで名高いデヴィッド・ヒッチコック。
アートワークはマーク・ウィルキンソンにより、これ以降もアルバムやシングルのジャケットを継続して手掛けることになる。
- Market Square Heroes
いかにも「グループの象徴」「ライブの定番」みたいな役割を狙った感じで、実際フィッシュ期を通してライブのクライマックスを担った。
しかしこのバージョンは全体的に音と音の隙間が目立ってスカスカで、なまじ録音がよく演奏も安定感があるせいかかえって勢いの無いやたら淡々とした仕上がりに聴こえる。
結果的に独特な空虚さや白々しさが醸し出されてもいるので、これぞまさに道化芝居とも言えるかもしれない。
ちなみに歌詞中の「Anti-Christ」という表現が引っかかってラジオ局にオンエアを拒否されたためその部分を「Battle-Priest」に差し替えたバージョンも作られたりした。
1984年にはやはりバンド側も出来栄えに納得していなかったのかサウンドやミキシング・バランス等を改善した再録版が制作されシングルB面となった。
MARILLIONの場合いわゆる初期衝動的なあれとか初期ならではの荒さみたいなものとは無縁で演奏能力的にはこの時点ですでに高水準で安定していて、それ故にこそスタジオ・レコーディングにおけるミキシング・バランスとかアレンジの練れてなさが目立ってしまっていた感じがあるので、そのあたりが上手くなってる再録版のほうがふつうに聴く分にはオススメです。
また再録に際して楽曲の中間部の後に「I give the peace signs...」のくだりが追加されたが、オフィシャルブートとか聴いた感じこのパート自体は82年の年末ライブごろにはすでに楽曲に組み込まれていたようだ。
- Three Boats Down from the Candy
7インチではB面、12インチではA面2曲目収録。
叙情的なメロディやフィッシュによる演劇的な歌詞と歌いまわし、そしてスティーブ・ロザリーの朗々としたギターなど、「Market Square Heroes」よりこちらのほうがむしろ1stアルバム以降の作風に近いといえる。
こちらも「Market Square Heroes」と同じように再録版が作られた。
- Grendel
12インチのB面を占める大作で、「GENESISフォロワー」として知られる初期MARILLIONの記念碑的作品。そもそもこの1982年というタイミングでデビュー盤に17分におよぶ楽曲を収録する、というのがけっこうなチャレンジだったのでは。
作風はあきらかにGENESISの「Supper's Ready」を意識した、というより組曲的な構成やその展開からしてむしろオマージュと呼べるものになっている。
おそらく「Supper's Ready」の豊かな楽想に折からの流行であるハードロック・ヘヴィメタル的な疾走感やノリやすい明快なリズムを持ち込むというコンセプトだったのではないかと思われ、ある面ではそれに成功したんじゃないかと。
しかしその疾走感や明快さは欠点ともなっていて、特にパートからパートへの推移の肩透かしを食うような呆気なさ、本来本家譲りの盛り上がりどころな変拍子をバックにキーボードがソロをとる場面でのリズムの明快さ故の緊張感の無さなど、長尺曲ならではのダイナミズムを損なっていると言わざるを得ない面も。
結局MARILLIONが「LP片面を占める大作」をリリースしたのは今作限りで、以降は今作や「Three Boats Down from the Candy」の流れをくみつつもよりまとまりの良い洗練された楽曲を作るようになり、必然的にGENESISフォロワーという枠から離れ独自の作風を確立していくことになった。
歌詞は奇しくもこのEPのリリースと同時期に交通事故で死去した小説家ジョン・ガードナーの『Grendel』(1971)にインスパイアされた、叙事詩『 ベーオウルフ』で英雄ベーオウルフに討伐される怪物の視点にたったものとなっている。
この小説『Grendel』はジョン・ガードナーの代表作ともいわれ英語圏では根強い人気のある作品なようなのだけど、残念ながら現在に至るまで日本語訳は刊行されていない。
英EMI、12EMI 5351。12インチは両面とも33回転。
45回転じゃないけど余裕のあるカッティングなこともあって十分な音質。
このEPのトラックはどれもオリジナル・アルバム未収録で、1988年のアルバム未収録曲を集めたコンピ『B'Sides Themselves』には「Market Square Heroes」「Three Boats Down from the Candy」の2曲は再録版を収録、ボーナス・ディスクに多数のレア・トラックを収録した1stアルバムの1997年リマスター盤でも「Three Boats Down from the Candy」以外は別バージョンのみでこのオリジナル・リリース版は収録されなかった。
その後2000年にフィッシュ時代のすべてのシングルをCDサイズで再現した12枚組ボックスセット『The Singles '82-88'』でようやくすべての音源がCD化された(んじゃないかな?)。
2009年にはこのボックスセットの内容をそのままCD3枚に詰め直した盤がリイシューされたのでずいぶん入手しやすくなった。それに今ではサブスクで聴けます。
また2020年にリリースされた1stアルバムのDeluxe EditionではアルバムとともにこのEP全曲もあらたにリミックスのうえ収録されているのだけど、こちらは未聴なのでどんな具合かわからない。てかオリジナル・ミックスはアルバムもEPも未収録なんかこれ