QUEEN (1973/2011)
QUEENはおそらくTHE BEATLESと並んで世界的に有名なイギリスのグループで、1970年にロンドンで結成された。ハードロックを基調としつつ時代に合わせ様々な音楽的要素を取り入れていったグループだが、この1stアルバムの時点での音楽性はハード化したグラムロックとでも言うべきもの。
その1stアルバムとなる今作は1973年7月13日リリースで、プロデュースはバンド自身とジョン・アンソニー、そしておそらくこのバンドの音作りの立役者であろうロイ・トーマス・ベイカー。邦題は『戦慄の王女』だった。
- フレディ・マーキュリー Freddie Mercury:Vocals, Piano
- ブライアン・メイ Brian May:Guitars, Piano, Vocals
- ジョン・ディーコン Deacon John:Bass Guitar
- ロジャー・テイラー Roger Meddows-Taylor:Percussions, Vocals
70年代のQUEENを特徴付ける多重録音を駆使した独特の厚みのあるギターとコーラス、それらを最大限活用したときに華麗でときに暴力的な目くるめくアレンジといった要素はこのアルバムにおいてすでに完成されていると言っていいと思う。
反面、めいっぱいアイディアを詰め込んだのであろう結果としてクドさやとっ散らかった感じが耳につき、どの曲も凝ってるんだけどそれ故にどの曲も似たような展開になりがち、という問題も。
とはいえ初期QUEEN特有のこのむせ返るような濃厚さには独自の魅力があり、これこそ4thアルバム『A Night at the Opera』に至る過程で整理・洗練されていくその原液とも言えるんじゃないかと思う。
あとQUEENと少女漫画の関係については不勉強なんだけどなんとなく魔夜峰央的な絵柄を連想したりする。魔夜峰央でQUEENだとむしろ「フラッシュのテーマ」だろうけど
QUEENは1971年、ホルボーンからウェンブリーに移設したばかりの De Lane Lea Studios で1stアルバムの素材となるデモ・テープのレコーディングを開始。これをプロデュースしていたジョン・アンソニーの紹介で翌72年にノーマンとバリーのシェフィールド兄弟に招かれ、彼らが設立した名スタジオ Trident Studios で夜の空き時間を使って本格的なアルバム制作にとりかかった。
エンジニアリングはジョン・アンソニーやロイ・トーマス・ベイカーに加えてデヴィッド ・ヘンチェル、マイク・ストーンといった当時のTrident StudiosのスタッフあるいはQUEEN自身がその時々に応じて担当していたようだ。
つまりこのアルバムは、デヴィッド・ボウイやT. REX、エルトン・ジョンといった面々の出入りする言うなれば当時のブリティッシュ・ロックの最前線であるTrident Studiosで、そのスタッフたちも交えてじっくり時間をかけて制作されたということになる。
だからこそロイ・トーマス・ベイカーのトレードマークである執拗な多重録音やデッドで厚みのあるもこもこドラムなどをふんだんに盛り込みつつも、それらがたんなるプロデューサー主導のレコーディングで終わらずQUEENというバンドの音楽性として昇華されているのだろう。
なおアルバムは途中フレディがラリー・ルレックス名義でシングルを作ったりしつつ1972年11月頃に完成したものの、レーベル探しが難航し英EMIからリリースされたのは翌73年も半ばになってからであった。
ノーマン・シェフィールドはこれ以降バンドのマネージメントに敏腕を振るい躍進のきっかけを作るとともに、フレディ・マーキュリーが彼に捧げたといわれる「Death On Two Legs」等創作の原動力にもなったりならなかったり。
- Keep Yourself Alive
アルバムに先行してリリースされたデビュー・シングルで、邦題は「炎のロックン・ロール」。カウベルが足りない
自分がQUEENを聴きはじめた頃は手元にたいした資料がなく今ほどインターネットも一般的じゃなかったもんで、しばらく「炎のロックン・ロール」と「誘惑のロックン・ロール」(「Now I'm Here」の邦題)がどの曲を指すのかわからず、とりあえずどっちかは「Modern Times Rock 'n' Roll」の邦題だろうと予測してたら全然違ったりなどした思い出。
たぶんQUEENでもっともグラムっぽいキャッチーさを備えたトラック。
- Doing All Right
イントロのピアノはだいぶエコーがかけられてるけどそれでも「Lady Stardust」や「Tiny Dancer」と同じあのベヒシュタインだということを思い出させる。
この時期ならではなフレディ・マーキュリーの瑞々しい高音が楽しめるゆったりとした前半から曲調が変わってそこに歪んだギターが入ってきて…というやつ。
SMILE(QUEENの前身となったグループ)時代からある楽曲で、当時のヴォーカリスト、ティム・スタッフェルとブライアン・メイの共作。
- Great King Rat
- My Fairy King
2曲とも初期QUEENを象徴する執拗かつ過剰な楽曲で、左右のチャンネルを目まぐるしく行き交うギターとコーラス、緩急の激しいコテコテとも言える曲展開とそれに合わせて細かく変化するエコーなど、残響に至るまで作り込んだこの思いっきり「やらかしちゃってる」感は他に代えがたい。こういった一面を指してプログレ的と言われたりもする。
凝った音作りの代償として音質的にはかなり苦しい。
原液感ある。
- Liar
当時のライブでハイライトとして演奏され後年のツアーでも取り上げられる機会の多かったこの時期の代表曲で、ハードロック色が強いトラック。
アメリカでのみ3分ちょいに編集されシングル・リリースされた。
- The Night Comes Down
不穏なイントロから一転してフレディが繊細な歌唱を聴かせる楽曲で、このアルバム内では比較的シンプルな音作り。あとカウベル。こんなシンプルなら全体的にもっとクリアな音になりそうなものだけどそこはエコーなどでばっちりお化粧を施されてちゃんと(?)もやもやした音になってる。
このトラックのみDe Lane Lea Studiosでのテイクが採用されている。
- Modern Times Rock 'n' Roll
アルバム中唯一ロジャー・テイラーの作曲とリード・ヴォーカル。
小品ではあるけどギターのバッキングがけっこう美味しい、のちの「Stone Cold Crazy」や「Sheer Heart Attack」に通じるハードな曲調。
- Son and Daughter
QUEENにはわりとめずらしいブルース・ベースのヘヴィ・ロック。
- Jesus
リズムとコーラスが特徴的で「他とはちょっと違った調子の曲だな〜」と聴いてると案の定盛り上がる。正直そんな長々と盛り上がらなくてもとか思ってたんだけど、De Lane Lea Studiosでのデモが公式に聴けるようになったことでこれでも当初よりだいぶ短くなってることが判明した。
- Seven Seas Of Rhye...
アルバムの最後を飾るインストの小品。この後ヴォーカルが付いてシングル・カットされたり2ndアルバムに収録されたりするもんだからなんとなくYMOの「以心電信」を連想するように。
このアルバムのジャケットは英EMI盤と米Elektra盤で異なり、米盤の方は英盤ジャケをトリミングしたものになっている。
日本のWarner-Pioneer盤は米Elektra配給で、ジャケットも米盤に倣ったもの。正直ジャケットに関しては英盤のが魅力的なような。
裏ジャケは英盤と米盤でロゴやクレジットのレイアウトが異なるものの基本的なデザインは共通で、おなじみ「No Synthesizer」表記や18年後にまさかの再登場を果たすことになる謎のペンギン男の写真等がある。
日Elektra/Warner-Pioneer、P-8427E。
音質はまあこんなもんだと思う。正直70年代のQUEENは凝った音作りの代償としてマスター・テープの段階からけっこうな音質劣化があるように思えるんだけど、英初期盤とかどんなもんなんだろ。
2011年にはQUEENの全アルバムが「Queen 40th Anniversary」シリーズとしてボーナス・ディスク付きの決定版とも言える仕様であらためてリイシューされた。
このシリーズのリマスターは有名なエンジニアの Bob Ludwig が手掛けており、このアルバムに関して言うとクリアながら音圧重視でダイナミックレンジが狭い仕上がりとなっている。ダメでは
Album details - Dynamic Range Database
本来比較対象にしなきゃいけない古いCDを手放してしまって幾年月なのではっきりしたことは言えないが、おそらくアナログ・マスターから丁寧にデジタル化やノイズリダクション(これも手放しで歓迎できるわけじゃないけど)を行ってはいて、でもついでに音圧も上げちゃってるので台無しは言い過ぎだとしてもちょっちキツいな〜という印象。カーステでなるべく音量調節したくないときとか小さめの音で流しておきたいときにはいいかも知れない。
日本限定でSHM-SACDがリリースされたりもしたけど元にしてるのはこのリマスターだそうなので、もちろん実際聴いてみないとわからないとはいえ正直期待できそうにない。
それはそれとしてボーナス・ディスクの内容は上記した1971年De Lane Lea Studiosでのデモ音源5つとアルバムのアウトテイク「Mad the Swine」となっていて、こちらはどれも興味深い内容。
リマスタリングもボブではなく Adam Ayan が手掛けていて案外悪くない。
De Lane Lea Studiosでのデモはおそらく盤起こしだが音質は十分良好で、しかもデモと言ってもアレンジどころかミキシングまで含めかなり完成品に近い段階まで仕上がっている。
この時点ですでにQUEEN側のレコーディングに対するイメージがある程度固まっていて、だからこそ実際に出来上がったアルバムがああいったものになったのだろうことを伺わせる。
ていうかロイ・トーマス・ベイカーが噛んでない分ドラムの音が残響を含むクリアなサウンドになってるし多重録音や執拗なエコー操作で各楽器のディテールが霞んだり全体がぼやけたりしてないので、この方向性でも十分いいアルバムに仕上がってた疑惑がある。ただまあその場合あくまで「この時代の音」の範疇に収まった作品止まりで、そこを突き抜けたものにはなっていなかったかも知れないが。
「Mad the Swine」はアウトテイクだけど軽快でなかなか良いトラック。
1つ1つが作り込まれた結果ある種の箱庭感というかぼんやりと閉じた感じのあるアルバム本編のトラックに対し、これはもうちょっと緩くて開放的。残響感のあるドラムや過剰なエコーがない音作りからして完成したアルバム本編よりDe Lane Lea Studiosでの音作りに近くて、だからこそ他との兼ね合いで外されたんじゃないかと思わずにいられない。
あとこのトラックはなぜか1991年にシングル「Headlong」のカップリングとして蔵出しされたのが初出なはず。
サブスクだとなんか追加で3曲のライブ・クリップも観られたりするっぽい。