Live in Munich 1977 / RAINBOW (2005)

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2005年から翌年にかけてリリースされたイギリスのハードロック・バンドRAINBOWのライブ映像。

1977年10月20日ミュンヘンのOlympiahalleでの公演をおそらくフル収録しており、もともとはドイツのテレビ番組Rockpalast用に撮影され長らくブートレグの定番だったらしい。

ロニー・ジェイムス・ディオコージー・パウエルを擁する時期のパワフルなパフォーマンスを十分な画質と音質でたっぷり楽しめるありがたいソフトで、『On Stage』はもちろん『Live In Germany 1976』にも収録されなかったコージー・パウエルの「1812年」を含むドラムソロがついに、しかも映像で公式リリースされたことも話題になった(少なくとも俺の中では)。

 

 

このときRAINBOWは1976年の日本ツアーを中心に収録したライブ・アルバム『On Stage』リリースに伴うツアーの最中で、次のスタジオ・アルバムとなる『Long Live Rock 'n' Roll』の制作途中でもあった。

メンバーは『On Stage』からベースとキーボードがそれぞれボブ・ディズリーとデイヴィッド・ ストーンに交代している。

 

セットリストは基本的に『On Stage』の頃と共通で「Stargazer」が新曲「Long Live Rock 'n' Roll」に入れ替わったくらいだろうか。

どの曲もリッチー・ブラックモアが他のメンバーに指示を飛ばし全体をコントロールしつつ自身はわりと自由に崩したバッキングを弾きソロも各曲の冒頭間奏後奏とあらゆる場面でたっぷりと披露していてスタジオ・アルバムとくらべてやたら演奏時間が長い。はじめて聴いたときはギターソロが多いし長いしえらいこっちゃと思った『On Stage』もこうしてみるとレコード向けにずいぶんかっちり再構成してたんだということがわかる。

そんなわけなのでロニー・ジェイムス・ディオの力強く安定した歌唱もコージー・パウエルや他のメンバーのプレイも魅力的だけども、結局なんもかんもリッチー次第というくらい音楽的に彼の占める要素が大きい。

 

とはいえコージー・パウエルは重要で、RAINBOWのライブにおける全盛期はコージーがいた時代と言われるのも納得のプレイ。

彼のドラムはたしかに派手だけどあくまで引き立て役に徹していて、引くところはわりとすぱっと引くうえでの押し出し方のバリエーションが豊富でともすれば(しなくても)延々とギターの音が垂れ流されるだけになりかねない演奏にメリハリをつけている。

リッチーのギターソロがこれほどドラマティックに決まるのはコージー(とキーボーディスト)あってのことで、後任のボビー・ロンディネリにしろチャック・バーギにしろきっちり作られた楽曲をきっちり演奏するという点に関してはコージーより適任だっただろうがライブでここまでの、言ってしまえば「面倒見の良さ」を発揮することはなかったように思う。

 

ボブ・ディズリーはそのコージーの補助としてバックコーラス含めそつなくこなしている印象で、そもそもRAINBOWがベーシストが魅力を発揮できるバンドじゃないという前提のもとで十分いい仕事をしている。ジミー・ベインより音の粒立ちがよくて細かいパッセージをバリバリ演ってるように聞こえるのはミキシングの問題もあるかなぁ。

 

元SYMPHONIC SLAMというだけあってか歴代キーボーディストのなかでも幅広い機材を揃えたデイヴィッド・ ストーンは雰囲気作りが主な仕事で、よくよく聞くとジョン・ロードに負けないけっこうエグめに歪んだハモンドを弾いてたりもするのだがミキシング・バランスそのものがギターの補強的な使われ方なので目立たず、ところどころのソロもあまりパッとしない。

『On Stage』でのトニー・カレイがわりとリッチーの向こうを張るようなプレイでミキシング自体そういうレイアウトだったことから考えると、彼の脱退をもってこのバンドにおけるキーボードの立ち位置自体が変わり、本格的にリッチーのワンマン化がはじまったとも言えるのかも。

 

リッチーはおそらくこの1977年ツアーからMoog Taurusを導入している(1976年ツアーの音源と比較した印象)。よくギタークラッシュの際に迫力を出すためと言われているし実際そういう面もあるのだろうが、この映像で観るとそれに限らずライブの前半からちょくちょくギターソロの補助的に使用しているのがわかる。

またデイヴィッド・ ストーンもTaurusっぽい重低音を出してるんだけど足元を確認できるカットがなく、まさかリッチーがキーボードの伴奏なんかするわけねえよなぁと思っていたところ後述するPVでストーンの足元にもTaurusがあることが確認できた。

ギタークラッシュに関しては1976年のライブではバンドが演奏を続けるなかぶっ壊してたけど、ここでは他のメンバーがステージを去ってから「じゃあこれからギター壊しますんで」みたいな感じで事に及んでいる。かなり最前列の観客に近いところでがっしゃんがっしゃんやってて最初は興奮して手を伸ばしてた客が途中から怖がってたり。もし自分がこの場でうっかり最前列になってたら前はリッチー後ろは押し寄せてくる観客に挟まれて泣く。

 

 

手持ちのDVD2枚組国内盤は2005年12月にvapから海外に先駆けてリリースされたもので、ピカピカの紙ケース(なんとも言い難いデザイン)入りのツヤツヤした真っ黒のデジパック(すごく指紋が目立つ)におまけでギターピックが付属している(いらない)。

海外では2006年に入ってからまったく違うデザインのパッケージでEagle Visionなどからリリースされ、こちらは国内盤と同じ内容に加えて評論家によるコメンタリー付きスライドショーも収録されてDVD1枚に収まっているっぽい。はっ?

ついでにUS盤はリージョン1と4でEU盤はリージョンフリーだけどPALだったはず。

 

国内盤DVD収録の本編音声は以下の3種類。

  • Dolby Digital 5.0ch
  • DTS 5.0ch
  • Dolby Digital 2.0ch

 

ミックスを手掛けたのは本編最後のクレジットによるとstevescanlon.netというところで、名前からしてSteve Scanlonさんご本人かその息のかかった人物の手による仕事だと思われる。

ミックスはステレオもサラウンドも『On Stage』とは違い各楽器がほとんど中央に寄せられたレイアウト。といってもヴォーカルとギター以外の楽器はちょっと脇にずらされてるような感じがして全体的な位置関係というかレイアウトのバランス(あるいは音像とでも言えばいいだろうか)が微妙なんだけど、それなりにクリアで各パートを聞き分けやすくタウラスの低音もわりと出ている。

サラウンドではリアに歓声が増えるくらいで演奏自体はステレオとレイアウト的にそんなに違いはなく、ぶっちゃけステレオを元にした擬似的なものだろうと思うんだけどなんかステレオより全体的なダイナミックレンジが広くなってギターの音の粒立ちがよくベースやドラムそしてタウラスの音が太くなってるような気がする。

サラウンドと比べるとステレオはどうしても低音が細くて全体的に軽い印象で、おそらく同じソースからのCD音源とこのDVDのDolby Digital 2.0chをざっと比較してもたいした違いはなかったし、さしあたってこのライブに関してはDTS 5.0chがベストかなと思わなくもない。正直1977年当時放送された際の音声がどんな感じでこのDVDに際してどの程度いじられてるのかよくわからないので無駄な警戒心が抜けないままになっちゃてるとこあります。あと自分はやっぱり『On Stage』のギターとキーボードが左右のチャンネルにくっきり分かれて配置されたレイアウトのが好きだなぁとも。

 

画質は当時の16mmフィルム撮影ということを踏まえれば十分鑑賞に耐えうるもので、カメラもそれなりの台数が用意されていてわりと見たい場面で見たい部分をしっかり見せてくれる。

ステージにかかるコンピューター制御の虹、リッチーが一瞬ギターのチューニングを直そうとしてすぐあきらめる様子、ロニーが間違えてベース側のコーラス用マイクで歌いはじめて音が入らない場面などがばっちり確認できる。

そういえば以前グラハム・ボネットがRAINBOW時代にライブで前座を務めたBLUE ÖYSTER CULTについてなにかのインタビューで「あいつらは保守的だから俺達とは合わなかった」みたいなこと言ってたのを読んだけど、ライブにいち早くレーザーショーを導入してみたものの様々な問題から継続できなかったBLUE ÖYSTER CULTからすれば大掛かりな虹のセットに予算を注ぎ込んでともすれば赤字を出しつつツアーするRAINBOWはなんやこいつらって感じもあったんじゃないだろうか(妄想)。

 

特典ディスクの内容はアルバム『Long Live Rock 'n' Roll』からのPV3つとコリン・ハートそしてボブ・ディズリーへのインタビューにあとフォトギャラリー。

 

「Long Live Rock 'n' Roll」「L.A. Connection」「Gates of Babylon」という3曲のPVは『Long Live Rock 'n' Roll』リリース後のアメリカ・ツアーに先立ってテレビ番組Don Kirshner’s Rock Concertで放送するために制作されたもの。

音声はモノラルで3曲とも楽器は当て振りだけどロニーのヴォーカルだけこの映像独自のものになっていて、この後『Long Live Rock 'n' Roll』のデラックス・エディションにアウトテイク含めたすべての音源が収録された。

多少演出があるとはいえスタジオに機材置いてふつうに演奏してるだけのシンプルな映像で、個人的見どころは「Gates of Babylon」でリッチーのギターソロのあとカメラがロニーに切り替わるとリッチーを撮影してるカメラマンのひとがばっちり画面に入ってしまいカメラがおもむろに向きを変える場面。

あとステージでの映像より画面が明るいおかげでデイヴィッド・ ストーンの足元に設置されてるMoog Taurusが確認できてすっきりした。

 

コリン・ハート(長年DEEP PURPLEやRAINBOWのツアーマネージャーを務めた人物)とボブ・ディズリーのインタビューはどちらもそれぞれに興味深い内容だが、そこで共通して語られるのがこのDVD本編のミュンヘン公演の2, 3日前、オーストリアでの公演の直後にリッチーが逮捕された事件について。

2人が語るいきさつは微妙に異なっているものの、リッチーがなにかしらの理由で劇場支配人を蹴飛ばして警察を呼ばれ機材ケースに隠れて会場を脱出しようとしたものの警察犬に見つかったというところは共通している。

警察犬といえばHAWKWIND(ボブ・ディズリーの話にちょろっと出てくるヒュー・ロイド・ラントンがいたバンドでもある)もお薬関係で警察にマークされライブ中に踏み込まれたことがあり、こちらはとっさにシンセサイザーで人間の可聴域を超えた音を大音量で流して警察犬を暴れさせて事なきを得たとか。

 

そういえば書き忘れてたけど本編のMCにもインタビューにも日本語字幕ついてます。

 

 

Live In Munich 1977

Live In Munich 1977

  • メディア: DVD
 

2013年のリイシュー盤には2006年盤の内容に加えて「Rainbow Over Texas ’76」と題された1976年アメリカ・ツアーの様子を伝えるショート・フィルムが追加されていて、これ1本でロニー時代の主要な映像をだいたい押さえられるようになった。

US盤こそリージョン1だけどEU盤はNTSCのリージョンフリーっぽい。あと本編音声のうちDolby Digital 5.0chがDolby Digital 5.1chに変更されてるような雰囲気。

日本ではなぜか2012年という微妙すぎるタイミングでやっと2006年の海外盤と同じ仕様(ただしオマケ付き)でリイシューされて2013年盤はスルーされた。なんじゃそりゃ

 

 

www.youtube.com