Stand Up / JETHRO TULL (1969/2010/2016)
1969年7月25日リリース。イギリスのバンドJETHRO TULLの2ndアルバム。
JETHRO TULLのアルバムではじめてイアン・アンダーソンが全曲の作詞作曲を手掛け、前作の延長線上にあるブルース調のヘヴィ・ロックからフォーク色の強いトラックにクラシックの翻案など、グッとバラエティ豊かになった(わりにきらびやかさに欠けるあたりがこのバンドらしい)。
- グレン・コーニック Glenn Cornick : Bass Guitar
- クライヴ・バンカー Clive Banker : Drum, All manner of Percussion
- マーティン・バー Martin Lancelot Barre : Electric Guitar, Flute on track 2 and track 9
- イアン・アンダーソン Ian Anderson : Flute, Acoustic Guitar, Hammond Organ, Piano, Mandolin, Balalaika, Mouth Organ, Sang
1stアルバム『This Was』と続くシングル「Love Story」を最後にそれまで重要な役割を担っていたギタリストのミック・エイブラハムズが脱退。
これによってイアン・アンダーソンがバンドの実権を掌握し、以降今日まで続くJETHRO TULL=イアン・アンダーソンという図式が出来上がる。
次なるギタリストはバンドと交流があったトニー・アイオミ*1なる人物に決まりかけたものの、彼はバンド内の人間関係に馴染めずTHE ROLLING STONESが主催した『Rock and Roll Circus』の撮影に参加したのみで離脱してしまう。これはイアン以外のメンバーは当て振りだったので、残念ながらタルにおけるアイオミのプレイの記録は残されなかった。
THE NICEのデヴィッド・オリストやTOMORROWのスティーヴ・ハウに声をかけてみたり紆余曲折あったようだが、結局次のギタリストはGETHSEMANEというバンドにいたマーティン・バーに決定。なかなかになかなかな名前のバンドやなぁと思ったけどそれを言ったらNAZARETHとかも大概だしそんなもんか。
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バンドは彼が加入して早々のヨーロッパ・ツアーから初のアメリカ・ツアー、その道中でシングル「Living in the Past」レコーディングと精力的に働き、1969年の4月17日から5月21日にかけてロンドンのMorgan Studiosで2ndアルバムの制作に取り組んだのでありましたとさ。
プロデュースは前作とおなじくマネージャーのテリー・エリスとバンド自身により、エンジニアはAndy Johns。
JETHRO TULLのイアンに次ぐ重要人物となるマーティン・バーは以前日本で「マーティン・バレ」というフランス読みのカタカナ表記で紹介されたりミドルネームが「Lancelot」だったりと、いかにもフランスっぽい名前なバーミンガム出身のギタリスト。家系のルーツはフランスにあるらしい。
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彼のギターは今作の段階ではミック・エイブラハムズと比較すると物足りない面がないとは言い切れないが、メンバー個々の演奏を主軸にしていた前作からアレンジや音作りにこだわった楽曲そのものを聴かせる方向性が強まった今作の変化によく適応していて、すでにエイブラハムズの抜けた穴を補って余りある成果をあげているんじゃないかと。
加えて前作『This Was』は4トラック録音だったが今作は8トラック録音であり、エンジニアのAndy Johnsがレコーディングに際して様々なアイディアを提供したことも相まってメンバーの創作意欲が高まり、自ずと録音作品として趣向を凝らす意識が強まったのではないかと思う。
前作ではミック・エイブラハムズがリズムの要だったが今作ではマーティン・バーが健闘してるのに加えて、クライヴ・バンカーのドラムもよりシャープになったように感じる。一方グレン・コーニックのベースが意欲的にソロをとったりしつつもなんとなくもたつく感じなのは指弾きだとそうなりがちって面もあるだろうか。
アルバムのジャケットは渡米中に知り合ったJames Grashowという木版画家による作品で、ゲートフォールドの見開きにはバンドメンバーのポップアップがあしらわれていた。
ジャケットの可愛いようで可愛くないわりとキモいデフォルメされたメンバーのイラストとファンシーみあるポップアップからの、いざアルバムを再生すると“It was a new day yesterday, but it's an old day now”とかいう「My Back Pages」のネガティブなパロディみたいな歌詞の重っ苦しい曲がはじまりなんか思ってたのとちゃうぞってなるのでした。
A1「A New Day Yesterday」
前作の延長線上にあるヘヴィなブルース・ロック。ミック・エイブラハムズがあくまでピッキングのニュアンスを失わない範囲内でギターを歪ませていたのに対して、こちらはもっと思いきりよくサウンドを弄っている。また前作ではギターソロのバッキングにうっすらともう1本ギターを加える程度だったがこのトラックでは最初から大胆に2本のギターを使っていて、アプローチの違いとともにMorgan Studiosの8トラック録音をさっそく活用している様子が伺える。なんでもギターにレスリースピーカー風の効果を加えるためケーブルに繋いだマイクロフォンを振り回して録音したりしたらしい。
A2「Jeffrey Goes to Leicester Square」
ジェフリーふたたび。イアン・アンダーソンがエフェクトのかかったバラライカを弾いてる。なんかフレーズがちょくちょくレナード・バーンスタインの「America」っぽいような。フルートはイアンじゃなくてマーティン・バー。イアンより上手くね?
A3「Bourée」
JSなバッハのリュート組曲主題を用いたジャズ色強めのインストで、前作の「Serenade to a Cuckoo」とこのトラックの違いがブルースやジャズ的な演奏重視からより作曲を重視する方向へ移行したことを象徴しているような感じもある。制作が難航した結果このトラックだけ4月24日Olympic Sound Studiosでのテイクが採用されている。ちょうどこの日はMorgan Studiosが使えず、Andy Johnsに頼んで彼の兄Glyn Johnsが働くOlympic Sound Studiosを都合してもらったらしい。
A4「Back to the Family」
なかなか凝った展開でハード・ロック的な盛り上がりもあるトラック。歌詞はイアン・アンダーソンの私小説風。
A5「Look into the Sun」
イアン・アンダーソンがいよいよ詩人としての才能も発揮しはじめたのと同時に、いよいよ自分が苦手なタイプのやつも出てきたなってなるトラックで、詩とその雰囲気作りを重視するあまり音楽的にはほとんど停滞してしまっている。こうなると自分のような空気も読めなきゃ詩情も解さない木偶の坊はぼんやり曲が終わるのを待ってることしかできなくなるのです。エレキギターがひかえめに賑やかしてはいる。
B1「Nothing Is Easy」
これもわりと凝った展開の楽曲で、ライブでとりあげられる機会が多かった。
B2「Fat Man」
歌詞に感動した。それはともかく東欧というかインドというかなフォーク曲で、イアン・アンダーソンがマンドリンも弾いてる。間奏をはさんでレイアウトが左右反転するのはなんか意味があるのかやってみただけなのか。
B3「We Used to Know」
12弦ギターのイントロとレゲエのリズムを加えていれば全米第1位が狙えたやつ。マーティン・バーがワウを効かせたなかなかドラマティックなギターソロを披露している。あとギターソロがあけてちょっとしたあたりで左chのアコギが一瞬空振りしてドキッとしたり。
B4「Reasons for Waiting」
イアン・アンダーソンがめずらしく素直に朗々と歌ってるアコースティック中心のトラック。ともすると「Look into the Sun」とおなじ問題が頭をちらつくけど、こちらはデヴィッド・パーマーのストリングス・アレンジが華を添えている。
B5「For a Thousand Mothers」
ヘヴィ系の「A New Day Yesterday」に対するハード系みたいな激しめの楽曲。一度終わったように見せかけてまたはじまるけど、このとき転調してちょっと明るい雰囲気になるのがいい。これも家族ネタっぽい歌詞。
このアルバムはイギリスでアルバム・チャート第1位を獲得、ヨーロッパやアメリカでも成功をおさめバンドにとって重要なステップアップになった。
本人たちも手応えがあったらしくインタビューでお気に入りのアルバムみたいな話になるとたいてい言及されてる気がする。
2010 Collector's Edition
2010年にリリースされたCollector's Editionは2CD+DVDの3枚組。ポップアップも再現。
- CD1:2001年リマスターのアルバム本編+ボーナストラック
- CD2:新規ステレオ・リミックスによる1970年11月4日カーネギーホール公演ライブ音源
- DVD:新規ステレオ&サラウンド・リミックスによる1970年11月4日カーネギーホール公演ライブ音源(音声のみ)+イアン・アンダーソンへの2010年インタビュー
リマスターとリミックスはすべてPeter Mewによる。
CD1
アルバム本編は2001年リマスターの使いまわしといえば聞こえは悪いが、特に不満のない出来栄えなのでべつにこれでいいんじゃないでしょうか。
ボーナストラックは2001年盤からかなり増えている。
CD1-11および15「Living in the Past」とCD1-12「Driving Song」は『Stand Up』に先駆けて1969年4月末にリリースされたシングルのAB面。
「Living in the Past」
JETHRO TULLにしてはめずらしいポップな佳曲で、タイトルを読んで字の如きテーマの歌詞と古めかしいストリングスにモヤッとした音質が相まって「Village Green」あたりの(つまりわりと近い時期の)THE KINKSというかレイ・デイヴィスを連想する雰囲気がある。
アメリカ・ツアーの途中ニュージャージー州ウエスト・オレンジにあるVantone Sound Studioというボロい(らしい)スタジオで録音され、New York Symphony Orchestraなる楽団のメンバーを雇ってLou Tobyというアレンジャーのもとストリングス・アレンジが施されたが、楽団員たちはきちんとリズムがとれず苦労したらしい。
New York Symphony Orchestraとは?ってなるけどまあたぶんニューヨークフィルのことじゃないかな……(さすがに“Living in the Past”ってフレーズとニューヨークフィルの来歴を踏まえてあえてこう記述したわけでもないだろう)。
それはさておきマネージャーの「ここらでひとつヒット曲作れない?」って要望に合わせさくっと作られたこの曲はさくっとイギリスのシングル・チャートで3位まで上昇し、押しも押されぬバンドの代表曲のひとつになったのでした。たぶんJETHRO TULLというバンドを「「Living in the Past」のヒットで知られグラミー賞を受賞した…」みたいに紹介するとむっちゃ嫌がられる。
1972年には同じ『Living in the Past』というタイトルのコンピレーションにステレオ・リミックス版が収録されたが、これは一部演奏の差し替えが行われているのと、元のモノラル音源がボロいスタジオでミックスしたからかだいぶモヤッとした音質だったのに比べて随分くっきりした音になっている。
この2010 Collector's Editionにはオリジナルのモノラル音源(CD1-15)と1972年ステレオ・リミックス音源(CD1-11)が収録。
「Driving Song」
「Living in the Past」制作後にB面も必要だよねってことでハリウッドのWestern Recordersで制作された。「Living in the Past」は「オリジナル・リリースのモノラル音源」と「1972年のステレオ・リミックス」なのにB面のこっちはふつうにステレオ音源じゃん!という至極もっともなツッコミどころがあるんだけどここではあえてスルーします。
CD1-13「Sweet Dream」とCD1-14「17」はアルバム『Stand Up』とそこからのシングル・カット「Bourée」の後、1969年10月ごろにリリースされたシングルのAB面。ちなみに「Bourée」のB面は「Fat Man」だった。
「Sweet Dream」
「Living in the Past」より凝った構成を持ちつつイギリスのシングル・チャートで7位まで上がった快作で、イアン・アンダーソンも手応えがあったのか1981年の『Slipstream』でとりあげられミュージックビデオが作られたりした。
「17」
なんかTHE BEATLESだかそのメンバーのソロだかで聴いたことあるようなギターリフをずっと繰り返してるやつ。
2001年盤ボートラには『20 Years of Jethro Tull』の際に編集された3分程度でフェードアウトするバージョンが収録されていたが、こちらはちゃんとフルバージョンになっている。とはいってもヴォーカル・パートが終わった後の同じリフ繰り返しながらずるずる続けてる部分が長いだけだけど。
それにしても「Sweet Dream」はステレオで「17」はモノラルなのはどういうこっちゃ。
CD1-16~19は1969年6月16日のJohn Peel Session音源。
CD1-20と21は1969年当時Reprise(JETHRO TULLのアメリカでのリリース元)が制作した『Stand Up』ラジオCM。いろんなバンドのこういう音源だけ集めたプレイリストを作りたくなる。
CD2&DVD
CD2とDVDは名演として知られる1970年11月4日カーネギーホール公演の実況録音。
もともと1972年のコンピ『Living in the Past』に「By Kind Permission Of」と「Dharma for One」の2曲が収録され話題を呼び、1993年『25th Anniversary Box Set』でその2曲を省いた残りのトラックがお披露目された。
この2010 Collector's Editionではそれら全曲をMC含むカットされていた部分まで収録し、Peter Mewがステレオとサラウンドでリミックスをおこない音質もずいぶんクッキリした(べつに元もそんな悪くないけど)。
あえて言うなら次のアルバム『Benefit』に伴うツアーからの音源をなんで『Stand Up』と組み合わせたんやと思わないでもないけど、まあ「ある程度売上が見込める大ヒットアルバムの豪華リイシュー」だからこそこうした音源もきちんとしたエンジニアにあらためてマルチトラックからリミックス作業をしてもらう、しかもDVDつけてサラウンドまで、という予算を捻出できたみたいな事情もあったりするんじゃないかなーとか勝手に予想してみたり。
あとは前作『This Was』の2008 Collector's EditionでもPeter Mewがステレオ・リミックスを手掛けていて、この翌年には『Aqualung』のCollector's EditionでSteven Wilsonがリミックスを担当することになるので、この時点でJETHRO TULLの過去のマテリアルをある程度包括的にリミックスしていこうというイアン・アンダーソンか誰かの考えはすでにあって、しかしこの段階では『Stand Up』本編のリミックスは叶わず代わりにこういうことになった、みたいな可能性もあるだろうか。
ライブの内容は折り紙付きで、アルバム『Benefit』を経ていよいよ実力を発揮しはじめたマーティン・バーのギターが冴え渡る、初期JETHRO TULLがひとつのピークを迎えた記録となっている。この数ヶ月前のワイト島ライブも歴史的意義のある記録だけど、演奏はこちらのほうが充実してると言っちゃっていいと思う。
おそらく公式にリリースされているタルのライブ音源全体でみても1978年マジソン・スクエア・ガーデン公演と並ぶものなんじゃないかと。むしろこのカーネギーからMSGまでの間の、黄金期なはずのライブ音源が不自然なほどリリースされてないって事情もありますが。
2016 The Elevated Edition
2016年にリミックス・シリーズの一環として「The Elevated Edition」と題した2CD+DVDのデジブック仕様でリイシューされた。こちらもポップアップが再現されているのに加えて、ジャケットの元になった木版の写真も掲載されている。上に貼り付けたヘッタクソなポップアップの写真は手持ちのこれを片手に持った状態でスマホで撮りました。
- CD1:Steven Wilsonによるアルバム本編と追加トラックのステレオ・リミックス+その他
- CD2:1969年1月9日Stockholm Konserthusetでのライブ音源+その他
- DVD:Steven Wilsonによるアルバム本編と追加トラックのステレオおよびサラウンド・リミックス+その他
Steven Wilsonがリミックスを担当したトラックとフラット・トランスファー音源以外はPeter Mewによるリマスター。
CD1
Steven Wilsonによるアルバム本編ステレオ・リミックスは、前回扱った『This Was』と同じオリジナルのレイアウトと元になったマルチトラック・テープに収められている音を最大限尊重した、非常にナチュラルな仕上がり。目新しいことはやってないけど、その必要はないってことだろう。
「A New Day Yesterday」では左右にパンするフルートの軌道がやたらはっきり追える。
CD1-11~13にはAssociated Recordingsとして「Living in the Past」「Driving Song」「Bourée (Morgan Version)」のリミックスが収録されている。
どれも方針はアルバム本編と共通で「Living in the Past」には1972年リミックス版で追加されたオルガンの音も含まれる。
「Bourée」は上記したとおり4月24日Olympic Sound Studiosでのバージョンがアルバムに採用されたが、このMorgan Versionはその前日4月23日Morgan Studiosでのテイク。これに納得が行かず、翌日はMorgan Studiosが確保できなかったことがOlympic Sound Studiosでのレコーディングにつながったのだろう。
アルバム本編での「Bourée」はフルートを2声部使ってバッハぽい雰囲気を盛り上げていたがこちらはソロ。ここにもう1本フルートを重ねれば完成なようにも思えるけど、アルバム版でももたってたベースソロが意欲的だけどイメージに指が追いついてない感じだったりドラムが突っ込み気味な部分があったりと、気になる点が散見されるといえば散見される。そんなん気にしなくたってえーやんとも思うし、Steven Wilsonがこのテイクに魅力を感じたからこそこうして収録されてるのだろうけど。
CD1-14と15はOriginal 1969 Stereo Single Mixesとして「Living in the Past」「Driving Song」のオリジナル・ステレオ・ミックスを収録。
2010 Collector's Editionでは「Living in the Past」は1972年ステレオ・リミックスとオリジナルのモノラル・ミックス、「Driving Song」はステレオ・ミックスのみを収録していたが、これはおそらくコンピ『Living in the Past』に収録された際の音源を踏襲しつつオリジナルのモノラル・ミックスもレストアした、ということだったのだと思われる。
そもそもこのシングルが1969年に一般向けリリースされた際はモノラル・ミックスのみだったのだけど、同時にプロモーションやFMラジオ向けにステレオ・ミックスも制作されていた。「Driving Song」はコンピ『Living in the Past』でこの際のミックスが使われたが「Living in the Past」はリミックスされた結果こちらのオリジナル・ステレオ・ミックスはリリースされる機会がなくそのままになっていたのだろう。じつは日本盤EPでいちどリリースされてるけど
ちなみに「Sweet Dream」と「17」は次作『Benefit』のCollector's Editionにお引越ししました。
CD1-16~19は2010 Collector's Editionにも収録されたJohn Peel Session音源だけどなぜか曲順が異なる。なんでだろ。
CD2
CD2のメインはブートレグで有名だった(らしい)1969年1月9日Stockholm Konserthusetでのライブ音源の公式リリース。
Second ShowのおそらくほとんどとFirst Showの1曲が収録されている。THE JIMI HENDRIX EXPERIENCEの前座としての出演で、楽屋でジミとおしゃべりしたりもしたらしい。
この時点でマーティン・バー加入後の初ライブからまだ1週間ちょいぐらいしか経っておらず、彼があきらかに手探りでおそるおそる自己主張してる感じが伝わってくるのがおもしろいっちゃおもしろい。
音質は録音時期とかを考慮すれば十分良好な部類で、マーティン・バー作曲のその名もズバリ「Martin's Tune」や「To Be Sad Is a Sad Way to Be」というスタジオ・レコーディングされなかった楽曲が含まれ、マーティンとイアン・アンダーソンのフルート合戦とかイアンがMCでマーティンのミドルネーム「ランスロット」をかるくおちょくってる様子とかが聴ける。
あとこのときのライブは一部撮影されていて、その際の映像がDVDのほうに収録されている。
CD2-10と11はOriginal 1969 Mono Single Mixesで、「Living in the Past」「Driving Song」のモノラル・ミックスを収録。なにげに「Driving Song」のモノラル・ミックスはこれが初CD化か。
CD2ー12と13は2010 Collector's Editionにも収録されたRadio Spots。
DVD
DVDの収録内容をあらためてリストアップすると以下の通り。
- Steven Wilsonによるアルバム本編とAssociated Recordingsのステレオ・リミックス(96/24 LPCM Stereo)
- Steven Wilsonによるアルバム本編とAssociated Recordingsのサラウンド・リミックス(DTS 96/24 & Dolby Digital AC3)
- アルバム本編のフラット・トランスファー音源(96/24 LPCM Stereo)
- シングル「Living in the Past」「Driving Song」ステレオ&モノラル・ミックスのフラット・トランスファー音源(96/24 LPCM Stereo)
- Film Footage Recorded 9th January 1969 At The Stockholm Konserthuset
Steven Wilsonのステレオ・リミックスは無圧縮ハイレゾで収録。なのでぶっちゃけこっちばっかり再生してCDほとんど聴いてません。
このセットの本命であるサラウンド・リミックスはあまり派手に前後を使うようなことはしておらず、あくまでステレオのフロント側レイアウトを大事にしつつオリジナルでも左右にパンさせていた音をリアまで回したりするのが中心。
しかし何度も書いているように、こういったサラウンド・リミックスで本当に大切なのは派手な演出とか新体験的なものではなく、マルチトラック・テープに収められた音を2chステレオという窮屈な檻から解放してやることなわけでありまして、もともと動いてない音を動かしたりもともとのってない残響をのせたりする必要はまったくないのです。
そういった観点でいくと、ここでのSteven Wilsonの仕事はまさに必要十分と言うのがふさわしいもので、すべての音がステレオ・リミックス以上に豊かに鳴っていてしかも空間的に余裕がある仕上がり。
あとはまあブルースやジャズの要素が濃いとSteven Wilsonがよくやる対位法的に進行する2つの楽器を前後に振り分けて、みたいなレイアウトができなくて必然的に地味になるって事情もありそう。
アルバム本編とシングルのフラット・トランスファー音源は、あくまでマスターテープの音(しかもかなり時間経過した後の)であってこれを元に最終調整されているLPとはまた違った音質のものだけど、現状入手できるオリジナル・ミックスの音源のなかでも最良の部類に入るものなんじゃないだろうか。
さすがにテープ由来のノイズが大きいけど気になるようなものでもないし、高音域の柔らかさや中低音の太さなどかなり魅力的。逆に低音域はけっこう弱い印象。
この音源とPeter Mewによる2001年リマスターを比較するのもまた楽しそう。
Film Footage Recorded 9th January 1969 At The Stockholm KonserthusetはCD2のライブの際に残された白黒映像。
「To Be Sad Is a Sad Way to Be」と「Back to the Family」の2曲分あり、このうち前者は1988年の『20 Years of Jethro Tull』VHSに収録されていた。
デジブックの分厚いブックレットにはこの時期のJETHRO TULLに関する情報が満載でむちゃくちゃ読み応えがあり、ぶっちゃけこの記事で書いたようなことにはだいたい言及されてます。
それだけじゃなく当時のツアー日程や2014年に亡くなったグレン・コーニックの追悼記事、ドッグフードを食べた話やJames Grashowへのインタビューなども掲載されている。
*1:記事公開後しばらくしてから「トミー・アイオミ」と誤表記してたことに気づいて死ぬほど恥ずかしい