Wednesday Morning, 3 A.M. / SIMON & GARFUNKEL (1964)
1964年10月19日リリース。アメリカのフォーク・デュオSIMON & GARFUNKELのデビュー・アルバム。
ポール・サイモンとアート・ガーファンクルはおなじニューヨーク市クイーンズ育ちの同級生*1。
ハイスクール時代から学業の合間を縫って音楽活動を行い、1957年にはTOM & JERRY名義のデュオでリリースしたシングル「Hey Schoolgirl」がビルボードでチャートインするという成果を上げている*2。
TOM & JERRY時代はドゥーワップ色を強くしたTHE EVERLY BROTHERSみたいなスタイルだったが、サイモンの学業に一区切りついた1963年頃から流行りのフォーク・リバイバルにあわせてよりコンテンポラリーなフォーク色を強めたスタイルで売り込みをはじめ、他でもないボブ・ディランのプロデューサーであるトム・ウィルソンの目にとまったみたいな感じっぽい。なおガーファンクルのほうはまだ学業に一区切りついてなかった模様。詳しくは知らないけどコロンビア大学に進学して途中で学科を変更したんだったか。
レコーディングはトム・ウィルソンのプロデュースのもと1964年3月にニューヨークのColumbia Studiosで数回に分けて行われた。
セッションにはサイモンとガーファンクルのふたりに加えてアコースティック・ギターでバリー・コーンフィールド、アコースティック・ベースでビル・リー*3が参加。
エンジニアは今作以降SIMON & GARFUNKELだけでなくふたりのソロ・アルバムにも関わっていくことになるRoy Halee。
収録曲は民謡のアレンジを含むカバー7曲、オリジナル5曲という割合。
裏ジャケのライナーノートはアート・ガーファンクルがポール・サイモンに宛てた手紙の体裁をとりある種の需要に答えている。
収録内容
あくまで言葉の比重が大きい音楽ではあるが、ふたりのヴォーカルを主軸としつつ、伴奏もキレがよくアコギ2つにベースという制約の中でアレンジに工夫をこらしていて十分に楽しめるアルバムに仕上がっている。
当時ステレオとモノラル両方がリリースされ、ステレオではふたりのヴォーカルが左右両端に振り分けられ、伴奏がその内側というまとめられ方。
歌唱スタイルもあって音像のバランスが良く、適度なエコーも相まって聴きやすいサウンドになっている。
ただしヴォーカルが完全に左右に分かれていてヘッドホンやスピーカーの小音量再生ではヴォーカルが重ならずハーモニーって具合ではないので、そのあたりが楽しみたかったらスピーカーで音量上げるかモノラルをどうぞって感じなんだろうけど自分は持ってないしモノラル音源がデジタル・フォーマットでリイシューされたりもしていない。
A1「You Can Tell the World」
ボブ・ギブソンとハミルトン・キャンプの共作。
アコギをジャカジャカかき鳴らすいかにもフレッシュな感じのトラックで、歌詞はがっつりクリスチャン系。
A2「Last Night I Had the Strangest Dream」
エド・マッカーディの曲で、牧歌的な曲調と歌詞のもの。ポール・サイモンがバンジョーを弾いてる。
A3「Bleecker Street」
ポール・サイモンのオリジナル。「Paul Simon名義でのオリジナル曲」という意味では最初の1曲だったりするかもしれず、曲構成こそ単純だがポール・サイモンのスリーフィンガー(ツーフィンガー?)とそれに合わせるもう1本のギターによる伴奏はよく練られていて、ヴォーカルの淡々と進行していく感じが逆に歌詞の陰影を深める効果をあげている。かと思うとポールのヴォーカルがちょっとひっくり返っちゃったりするのも文学青年ががんばって歌ってる感出ててよい。
ブリーカー・ストリートはマンハッタンにある通りで、歌詞にはわりと宗教的なニュアンスが込められている。
A4「Sparrow」
ポール・サイモン作の、世知辛い版クックロビンみたいなやつ。
A5「Benedictus」
16世紀フランドル楽派の作曲家オルランド・ディ・ラッソのミサ曲をアレンジしたもの。ベースがボウイングで雰囲気を演出している。
ポール・サイモンはどういう経緯でこの曲を採用したのだろうか。
これは1988年録音の原曲。
A6「The Sounds of Silence」
ポール・サイモンのオリジナル。
歌詞と楽曲両方が展開までよく練られたこのアルバムの白眉であり、その歌詞が絶妙だったあまり本人たちと無関係なところでしょっちゅう引き合いに出され便利に使われているもの。最近ではYES「Roundabout」に続いて無事memeと化したりしていた。
B1「He Was My Brother」
ポール・サイモンのPaul Kane名義による自作曲で、1963年の時点でS&Gに先んじてそのPaul Kane名義でTribute Recordsというマイナーレーベルからシングル・リリースしている。
トム・ウィルソンの興味をひく切っ掛けになり、1963年版、本アルバム収録の1964年S&G版に加えて1965年のポール・サイモンのソロ・アルバムでもとりあげられた。
1963年版はたぶんこの音源*4。ガーファンクルのハーモニーも聴き取れる。
公民権運動をイメージしているとはいえ特定の事件を扱っているわけではないはずだったが、このアルバムのレコーディング完了後の1964年6月にポール・サイモンの知人を含む公民権活動家3人がミシシッピ州でKKKに殺害されるという事件*5が起き、ある種の真実味が出てしまった。
B2「Peggy-O」
ボブ・ディランが彼の1stアルバムでとりあげたスコットランド民謡。
牧歌的な曲調のまま物騒になる歌詞のオチが小学生の頃から妙に好き。
B3「Go Tell It on the Mountain」
ジョン・ウェズリー・ワークJr.が採集した黒人霊歌のひとつで、これ以前にPETER, PAUL & MARYも歌詞をいじってとりあげている。
ここではもうちょいストレートに演奏していて、ノリが「You Can Tell the World」に近い。
B4「The Sun Is Burning」
1960年代のブリティッシュ・フォーク・リバイバルの立役者のひとり、イアン・キャンベルの楽曲。
これも牧歌的な曲調に物騒な歌詞を乗っけてギャップを楽しむタイプのもので、途中から『太陽を盗んだ男』的な方の太陽の話にすり替わる。
B5「The Times They Are a-Changin'」
ボブ・ディランのオリジナルをアイロンがけして整えたような演奏。
B6「Wednesday Morning, 3 A.M.」
ポール・サイモンのオリジナルで、A面ラストを飾る「The Sounds of Silence」に対するB面ラストの力作。
方向性は「Bleecker Street」に近い、凝ったパターンのギター伴奏と淡々と進行するヴォーカルによって歌詞とハーモニーを際立たせるもの。
もともとTOM & JERRYでロックンロール色の強いパフォーマンスを行っていて今作にもアコースティックとはいえベースが入ってるからかこの時代のフォーク系としてはリズムがはっきりしていて、ヴォーカルは力みがちだがそれ故に次作以降とは違った魅力があり、ギター演奏もすばらしく全体としてかなり充実したアルバムになっていると思う。
しかしリリース当時はブリティッシュ・インヴェイジョンの波に飲まれさっぱり売れなかったらしい。
その後SIMON & GARFUNKEL復活とともに再発されるとチャートインするほど売上が伸び、1966年には日本でいろいろ仕様変更され『Last Night I Had the Strangest Dream』として、1968年にはそれまで未発売だったイギリスでやっと発売された模様。
レコード
手持ちの盤は「THE NICE PRICE」ステッカーも眩しいレコード100円市で買ったUSステレオ盤。カタログ#もバジェット・ラインの「PC」に切り替わり済み。
マトリクス末尾はA面が”3H”、B面が”2A”となっていて、聴いた感じA面がなんだかカセットテープに録音したみたいな音質なのに対してB面はもうちょっと鮮明さを維持してる。
ランアウト部分はほかにもよくわからん文字列やマークを含めいろいろ書かれてるけど、とりあえず両面とも手書きの”G1”がエッチングされているのでキャロルトン工場プレスだと思われ、つまり80年代になってからの盤ということになる*6。
ジャケットの紙質はあきらかに70年代までのものと違っていて裏地も白い。
リマスターとか配信とか
80年代のうちからCD化されていたアルバムだが、2001年にSony MusicのLegacyレーベルからVic Anesiniのリマスターで再発された。ボーナス・トラック3つ入り。
「Bleecker Street (Demo)」 ボックスセット『Old Friends』で既出
「He Was My Brother (Alternate Take 1)」
「The Sun Is Burning (Alternate Take 12)」
最大の違いは「He Was My Brother」で最終的に使われなかったハーモニカが試されていることだが、基本的には完成形が見えてる感じのトラックばかり。アルバム版よりアート・ガーファンクルの声のエコーが控えめ。
Wednesday Morning, 3 A.M. - Album by Simon & Garfunkel | Spotify
2014年には各種配信サイトで24bit-192kHzのハイレゾ音源が配信開始され、現在SpotifyやApple Musicにあるのも基本的にはこれだと思う。Spotifyはいまのところ非可逆圧縮だけだけどApple Musicはハイレゾで聴けます。
ただしどこのサイトにもColumbia Recordsという以外のクレジットがないので、どういった素性の音源なのかよくわからん。まあ聴いた感じ手持ちのレコードよりよっぽど鮮明な音質ですが