Sounds of Silence / SIMON & GARFUNKEL (1966)

 

1966年1月17日リリースの2ndアルバムにして、実質的な再結成第一弾。

フォーク・デュオとしてのシンプルな編成とその範疇で可能な音楽に徹していた1stアルバムに対し、状況の変化もあって「フォーク・ロック時代のポップス」として大きく変化した内容になっている。

 

制作過程に紆余曲折あったがメインとなるセッションはニューヨークのCBS Studiosで、ボブ・ジョンストンのプロデュースにより行われた。

あとジャケットの写真はガイ・ウェブスターによる。

 

制作経緯

なにはともあれこのトラック。

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このアルバムは同曲のヒットを受けて急遽制作されたものなので、Wikipediaなどを参考にリリースに至る過程をざっとまとめてみます。

 

 

1964年、SIMON & GARFUNKELはトム・ウィルソンのプロデュースで制作された1stアルバム『Wednesday Morning, 3 A.M.』の商業的失敗ののち実質解散。ポール・サイモンは渡英し、アート・ガーファンクルは学業に戻った。

 

1964年5月、英Orioleレーベルからポール・サイモンのイギリスでの活動の取っ掛かりとしてなのかなんなのかJerry Landis名義でシングル「Carlos Dominguez / He Was My Brother」がリリースされる。これは1963年にポールがPaul Kane名義でリリースしたシングルと同内容のもの。

Columbiaとの契約が残っている都合で「Paul Simon」という名前が使えなかったのか、あるいはS&G以前からいくつもの名義を使い分けていた彼のことだし「Paul Simon」という看板は一旦おろして仕切り直すつもりだったのか。全然関係ないけど「Paul Simon」と「Paul Simonon」って紛らわしい。

1964年9月にそのOrioleのレコード工場がCBSに買収され、以降Orioleは段階的にCBSに吸収されていくことに。

 

1965年4月、ポール・サイモンアメリカに一時帰国し、アート・ガーファンクルとともにトム・ウィルソンのもとで「Somewhere They Can't Find Me」と「We've Got a Groovy Thing Goin'」の2曲を制作。

デュオとしてのシンプルなアレンジが中心だった1stと違いポップス的なバックトラックを伴うフォーク・ロックを見据えた内容だが、この段階ではあくまでお試しだったのか普通にボツったか、これといってリリースに向けた動きはなかったっぽい。レコーディング終了後ポールは再度渡英。

 

1965年6月、ポール・サイモンは元OrioleのCBSスタッフの推挙やColumbiaとの契約が残っていたことをきっかけに、CBSPaul Simon名義でソロアルバムを制作開始。

同じ時期、トム・ウィルソンはアメリ東海岸の学生向けラジオ局を中心にSIMON & GARFUNKELの1stアルバム収録曲「The Sounds of Silence」が人気を博していることを知る。そこで同トラックにエレキギター、ベース、ドラムをオーバーダブし、THE BYRDSやトム・ウィルソン自身がプロデュースしたボブ・ディランの「Like a Rolling Stone」など折からの流行であったフォーク・ロックのスタイルに仕立て上げることを画策。

 

同1965年6月、トム・ウィルソン主導でスタジオ・ミュージシャンによる「The Sounds of Silence」へのオーバーダブ作業が行われる。

ポール・サイモンアート・ガーファンクルは事前に知らされておらずトム・ウィルソンというかColumbiaの独断ではあったが、これはSIMON & GARFUNKELがColumbiaとの契約を残したまますでに解散状態にあり、今後の活動を望める状況になかったということも関係していると思われる。つまりトム・ウィルソンはともかく会社側としては、ちょっとでも売れてくれたらその分これまでの投資を回収できるから出さないより出したほうがまだマシ、くらいのものだったかも。

 

1965年7月、ポール・サイモンはジャクソン・C・フランクの唯一となるソロ・アルバムをプロデュース。ジャクソン・C・フランクはポールと同じアメリカ出身でイギリスに渡ったフォーク・シンガーで、当時ポールは彼の部屋で生活していたとも。

レコーディングにはちょうど渡英してきてたアート・ガーファンクルとアル・スチュアートも顔を出し、アル・スチュアートのほうはギターで参加もしている。

 

1965年8月、イギリスでCBSからポール・サイモンの1stソロ・アルバム『The Paul Simon Songbook』リリース。売上はそんなでもなかったっぽい。ちなみに当時S&Gの1stアルバムはイギリスでは未発売だった。

 

1965年9月、アメリカでトム・ウィルソン主導のオーバーダブが施されたシングル「The Sounds of Silence / We've Got a Groovy Thing Goin'」がリリース。ボストンを中心に好調な売れ行きでBillboard Hot 100に登場。

 

1965年12月、ポール・サイモンアメリカに帰国し、ボブ・ジョンストンのプロデュースのもとニューヨークのCBS Studiosで「The Sounds of Silence」をメインに据えたSIMON & GARFUNKELのニュー・アルバムが制作される。さすがにトム・ウィルソンは外されたのか、もうオーバーダブやるだけやってMGM Recordsに移っていた頃合いか。

突発的な事態でマテリアルが不足していたこともあってか5曲は『The Paul Simon Songbook』の使い回しとなった。またこの一連のセッションにおいて次のシングルとなる「Homeward Bound」も録音される。

 

1966年1月、「The Sounds of Silence」がとうとうBillboard Hot 100で1位を記録。1月のあいだTHE BEATLESの「We Can Work It Out」とトップの座を争い1位と2位をいったりきたりすることに。またこのトラックはアメリカだけでなく諸外国でも大ヒットを記録。

 

同1966年1月、アメリカでColumbiaからSIMON & GARFUNKELの2ndアルバム『Sounds of Silence』がリリースされチャートイン。以降継続的に売れ続ける。

1966年2月にはシングル「Homeward Bound / Leaves That Are Green」がリリースされこちらも大ヒット。アメリカでは続く3rdアルバムに収録されることになるが、イギリスでは数ヶ月遅れで発売された『Sounds of Silence』に追加収録された。

 

こんな感じ。なんというかもうちょっといい感じにまとめられなかったのか。

 

収録内容

A1「The Sounds of Silence」

上記の通り1stアルバム収録のトラック(のモノラル音源)にオーバーダブを施したもので、曲自体は『The Paul Simon Songbook』でもとり上げられている。タイトルはリリースによって「The Sound"s" of Silence」だったり「The Sound of Silence」だったり。

小学生の頃の自分はこのトラックのヴォーカルとバックトラックのズレを「下手くそwww」と笑ってるクソガキでした。

しかし実際のところはむしろ逆で、元になった演奏がこの時期のフォーク系アーティストのものとしては整ったリズムを持ち、さらにスタジオ・ミュージシャンたちの能力が十分に高かったからこそ後から演奏を加えることが可能だった、つまりどうにか辻褄を合わせることができた、ということなのだと思う。

 

A2「Leaves That Are Green」

『The Paul Simon Songbook』から。小学生の頃からイントロのハープシコードが好きで気に入ってる曲。なんか自分、ガキの頃から今に至るまで楽曲総体としてよく作り上げられているかよりもそのトラックに含まれる断片的なフレーズや音色が気に入るかで音楽を判断しがちですね。

歌詞がカースティ・マッコールで有名な「A New England」に引用されている。

 

A3「Blessed」

前作ではけっこうストレートにクリスチャンな歌を演ってたのにいきなり皮肉っぽくなってんのは心境の変化があったのか正体現しただけなのか。

トラックのほうはなんというかいかにもフォーク・ロックのLPの3から4曲目あたりに入ってそうな感じ。

 

A4「Kathy's Song」

『The Paul Simon Songbook』から。ポール・サイモンのギターとヴォーカルのみというシンプルな弾き語り曲。

 

A5「Somewhere They Can't Find Me」

SIMON & GARFUNKELとしての活動が暗礁に乗り上げていた1965年4月に制作されたトラックの片割れで、1stアルバムのタイトル・トラック「Wednesday Morning, 3 A.M.」の歌詞にサビを加えて「Anji」の土台に乗せたもの。

長いこと原曲の繊細さが失われた乱雑なポップスという印象で嫌ってたんだけど、管とエレピが都会的な雰囲気を醸し出すどことなく曇ったようなサウンドのものとしては別に悪くもないかもしれないと思い直しつつある。

 

A6「Anji」

ポール・サイモンのギターテクニックが楽しめるアコースティック・ギターによる小品。デイヴィ・グレアムの楽曲だけど、このアルバムの初期盤ではタイトルが「Angie」、作曲がバート・ヤンシュとミスクレジットされていた。

実際ここでのポール・サイモンの演奏はあきらかにバート・ヤンシュのバージョンを踏まえていて、そのバート・ヤンシュのアルバムでは曲名が「Angie」になっていたので、そのあたりで取り違えがあったんだろう。

ポール・サイモンはロンドンでこのふたりと交流があったらしく、もし「The Sounds of Silence」の思いがけないヒットが転がり込まなければ、あのまましばらくイギリスに居着いてブリティッシュ・フォーク系の人脈と関わりを深めていた可能性があったのかもしれない。

 

ここから突然の動画連貼りとなります。

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元祖デイヴィ・グレアムのバージョン。1962年。

 

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バート・ヤンシュのバージョン。1965年。

全体的にオリジナルより過激になっていて、途中ナット・アダレイ「Work Song」のフレーズを挿入している。

 

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ポール・サイモンのバージョン。いろいろ手を加えてるけど「Work Song」は踏襲。

 

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そしてこれがポール・サイモンがふたりに分裂していた時期の映像記録。

 

んで録音時期こそ前後するけど、こういうロンドンでの交流があったうえでA5「Somewhere They Can't Find Me」とB4「We've Got a Groovy Thing Goin'」がレコーディングされている、ということになる。正直あの時点ではアルバムどころかシングルになるかどうかも定かじゃなかっただろうし、適当にそのとき取り組んでた曲のフレーズを使いまわしたんじゃないかと邪推してしまう。

 

 

B1「Richard Cory」

これとか「Blessed」とか、曲の取っ掛かりになるエレキギターのリフを軸にワンアイディアで押し切らずにちょっと捻った進行を用意して、と、この時点でのSIMON & GARFUNKELに求められていたであろうフォーク・ロックしいてはポップス的なトラック作りを試行錯誤してる印象。

歌詞の方はリチャード・コリーを羨む工場勤務の主人公を羨む工場のバイト面接に落ちた俺ってわけ。ゆるさんぞ

 

B2「A Most Peculiar Man」

『The Paul Simon Songbook』から。アコギ伴奏にオルガンを被せて他の楽器を加えた結果ソフトロックっぽく仕上がったようなトラック。

歌詞は異常独身男性についてで、余計なお世話じゃいという気分になれる。最初この記事に取り掛かったときはガス自殺についてあれこれ書いてたんだけど『ミッドサマー』に話がそれて収集つかなくなったので全部カットしました。

 

B3「April Come She Will」

『The Paul Simon Songbook』から。アート・ガーファンクル単独のヴォーカルにギター1本の伴奏で、A面の「Kathy's Song」に対応したアルバム構成なのかもしれない。

昔は中学校あたりで英語の暦を覚えるときよく引き合いに出されてたような、そうでもないような。

B面ここまでの3曲すべて登場人物が死んでるの、若い頃はわりとさくさくキャラを殺してた作家が年齢とともにあんまりそういうことしなくなってくやつっぽくてちょっと和みますね。

 

B4「We've Got a Groovy Thing Goin'」

1965年4月に制作されたもう一方のトラックで「Work Song」に歌詞乗っけてでっち上げた感じのもの。

正直1965年4月のトラックは2曲ともそこはかとないやっつけ感があって、ポール・サイモンあんまやる気なかったんじゃないの?とか思わないでもない。

 

B5「I Am a Rock」

『The Paul Simon Songbook』から最後の刺客にして稀代の引きこもり賛歌。

A面のラスト2曲とB面ラス前の「We've Got a Groovy Thing Goin'」がどれも「Anji」ネタでなんとなくアルバムがまとまっているかのような雰囲気を出しつつ〆の1曲。

「Homeward Bound」のあとにシングル・カットされけっこうヒットした。

KING CRIMSONの「Islands」ってこれに対するアンサーソングだったりするような、共通のモチーフというだけのような。

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A面6曲でB面5曲と、微妙に曲が足りてないのが当時の状況を偲ばせる。

内容の面でも傑作ぞろいのSIMON & GARFUNKELのオリジナル・アルバムのなかでは多少曲ごとの出来栄えに差があるように思えてしまう、というのが正直なところ。ただ「April Come She Will」や「I Am a Rock」は自分には子供の頃から当たり前にあった普遍的な音楽すぎて逆に評価のしようがない、というのもありそう。

 

 

レコード

なんか2枚持ってるしせっかくなんで裏面も。左が国内盤で右がイギリス盤。

 

手持ちの盤その1。「Homeward Bound」がB面頭に追加収録された英モノラル盤。

モノラル盤が欲しかったんで見かけたときに確保してみたんだけど、あんま良い音とは言い難く、B面はずっと電波状況が微妙に悪いときのラジオみたいな一定のノイズが乗ってる。偽モノ*1だろうか。

 

なぜか2つ付いてた内袋。片方はプレーンでもう片方はCBSの広告入り。載ってるアルバムの感じからしてリリースから数年後に生産された盤だと思われる。

 

 

手持ちの盤その2。ジャンク屋で拾ったCBS/Sonyのステレオ国内盤。

盤質も音質も良好で安定感があり、自分が子供の頃から家にあったリマスター以前の国内盤CDとほとんど同じような鳴り方をする。

マトリクスは見てないけど、まあ米オリじゃないしあまりにも馴染み深い音だからこれ以上は深堀りしなくていいや。

 

ジャケットはゲートフォールドで歌詞インサート付き。

見開きにはなんか序文みたいなものとか各曲の歌詞とコメントの和訳さらに追加の文章が載せられている。家にあったCDのライナーノートにもまったくおなじものが転載されてたのでやたら懐かしい。

 

1968年に設立されたCBSソニーレコード株式会社が自社工場で最初に生産したレコードはこの見開きにも載ってる『卒業』オリジナル・サウンドトラックで、それが出荷されたのは1969年3月頃らしい。この『Sounds of Silence』も1969年のうちに早速生産され始めたんじゃないかと。

ただし1969年3月時点でのレーベル・デザインはおそらく上に載せた英盤に準じたオレンジ一色のものだったはずで、手持ちの白とオレンジのものに変更されたのは数ヶ月から下手すれば1年以上後だったと思われる。

とりあえずこの盤が1969年3月から1973年に社名が株式会社CBS・ソニーとなるまでの間に製造されたものなのは確か。たぶん『Bridge Over Troubled Water』リリース後もこっちのジャケットは『Bookends』までのままこれといって変更はなかったんじゃないだろうか。

 

 

リマスターとか配信とか

Sounds of Silence (Exp)

Sounds of Silence (Exp)

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2001年にSony MusicのLegacyレーベルからVic Anesiniのリマスターで再発された。クレジットが「Mixed and Mastered by Vic Anesini」となっててすわリミックスかと慌てたんだけど、たぶんボーナス・トラックは今回ミックスしたってことなんじゃないかと。

とりあえずそのボーナス・トラックは4つ入り。

 

「Blues Run the Game」

ポール・サイモン自身がプロデュースしたジャクソン・C・フランクのカバーで、1965年12月のレコーディング・セッションのアウトテイク。1997年にボックスセット『Old Friends』で蔵出しされたもの。

原曲が良くてそれをそのまま演ってるからいい感じに聴けるけど、デュエットが活かされているわけでもないのでまあアウトテイク。

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これはポール・サイモンがプロデュースしたオリジナル。自動生成のオフィシャル音源でリマスターと銘打ってる割に音質が微妙なんですけど、マスター・テープがお亡くなりになってたりするのだろうか。

 

残り3曲はこれまで未発表だったもので、すべて民謡をギター伴奏でとりあえず演ってみた感じのもの。

1970年7月8日、つまり最終作となった『Bridge Over Troubled Water』より後、ラストコンサートの10日前の録音となる。なんでそんな時期の音源をこのアルバムのボートラに……?

ふたりの人間関係が完全に終わってた時期と思われるけど、演奏自体は自然体で悪くない。

これら3曲はJen Wylerによるミックス。

 

「Barbriallen」

チャイルド・バラッド84番でラウド54番「Barbara Allen」。この後アート・ガーファンクルが1stソロ・アルバム『Angel Clare』でとりあげた。

 

「Rose of Aberdeen」

ラウド12708番「Rambling Gambler」。

 

「Roving Gambler」

ラウド498番。

 

 

Sounds Of Silence - Album by Simon & Garfunkel | Spotify

geo.music.apple.com

今作も2014年から各種サイトで24bit-192kHzのハイレゾ音源が配信され、現在SpotifyApple Musicにあるのも基本的にこれだと思われる。Spotifyは相変わらず非可逆圧縮だけでApple Musicはハイレゾ

音源の素性はよくわからんけど音質はいいと思う。クッキリしたVic Anesiniリマスターと比べると気持ちアナログ・マスターに近い柔らかさのあるサウンドな気がするけど先入観もありそう。

 

 

*1:ステレオ・ミックスの音源を擬似的にモノラル化して発売したものの通称。わりとよくあった