ハイドン:交響曲94番「驚愕」、100番「軍隊」 サヴァリッシュ指揮ウィーン響 (1961)

 

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ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ウィーン交響楽団によるフランツ・ヨーゼフ・ハイドン交響曲、94番ト長調「驚愕」Hob.I:94と100番ト長調「軍隊」Hob.I:100。

両曲とも1961年のおそらく4月頃に、一連のセッションで録音されたものと思われる。

 

サヴァリッシュハイドンはほかに翌62年録音の交響曲101番「時計」があるくらい。

交響曲以外だとおよそ30年後の90年代にN響と『天地創造』、バイエルン放送響と『四季』それぞれをライブ録音で残している。

 

 

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フレージングの滑らかさや各パートのエッジの柔らかさに加えてPhilips特有のふわっとした残響の感じがあるものの、テンポが快速で曲中の演出をことさら強調したりもしないので、全体としてはさっぱりとした印象になる演奏。

94番も100番も基本的な表現の方向性は一貫しているが、100番のがそれなりに派手っぽくしてる。

ただしこれはステレオの印象で、手持ちのレコードはモノラル盤です。

 

 

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日本ビクター配給時代のPhilips国内盤モノラル。マトを確認した感じ輸入原盤を使っているっぽい。

クラシックあるあるで、具体的なリリース時期がよくわからん。

 

モノラル盤はステレオでの各パートの分離の良さとか高音域低音域の広がりとかが無く響きがまろやかで、音のエッジの柔らかさや残響感がより前面に出てくる。その結果ステレオとはだいぶ印象が変わり、全体的に快速ではあるがまったりした演奏といった感じに。

なんというか、同時期のポップスやジャズが「モノラルが基本だけどステレオでも作っておく」状態だったとするとこの時期のクラシックはすでに「ステレオが基本だけどモノラルでも作っておく」状態だったと思われ、それ故か同じクラシックでも最初からモノラル前提の時期に作られたミックスよりまったりもっさりした音になっているような気がしなくもない。

ポップスやジャズの分野で当時のモノラル・ミックスが見直される一方でクラシックのステレオ盤と同時にリリースされたモノラル盤の音がほとんど顧みられないのにはそれなりの理由があるのかも。

とはいえ様々な録音やディスクのなかのひとつとしては、これはこれで楽しめるものではあります。

 

 

これらの録音は前述した翌62年の「時計」とセットで1990年頃にCD化され、Philipsが消えDeccaになってしまった現在でもそのままの状態で配信されている。なんならジャケットもそのまんまなのでそのうち消されたりしないかちょっと心配。

 

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あとこれはサヴァリッシュとはまったく関係ないんだけど、世界中が固唾を呑んでその進行を見守る今もっともアツいハイドン交響曲全集プロジェクトであるところのHAYDN2032の第8巻が今年の2月あたりにリリースされてたので貼っときます。

ハイドン交響曲63番、43番と28番の間にバルトークの『ルーマニア民族舞曲集』と作者不詳17世紀頃の『ジュクンダのソナタ』を挟むおもしろそうな構成になってるらしい。

 

 

Caravanserai / SANTANA (1972)

 

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1972年10月リリースの4作目。

レコードのA面とB面がそれぞれひと繋がりの組曲のような作りになっているアルバムで、各楽曲は単体での完成度以上にアルバム内での役割を重視した作曲および編曲がなされている。

ぱっと聴きこれ以前の3枚と今作でサウンドが大きく変わったような印象も受けるが、実際にはむしろ作曲やアレンジ面の変化、つまり前作までのソロの応酬を最大の聴かせどころとしてそれをパッケージングする手法から綿密なアレンジによる楽曲展開で聴かせる手法への変化によって、そのような印象を受けている気もする。音以上に音の配置や使われ方が変わったというか。

そういった意味では、今作はこれまでのSANTANAの音楽の諸要素を作曲的な観点から構築し直したものと見なすことができるかもしれない。このあたり今は勢いで書いてるけどちょっと経ってから読み返すと「いやぜんぜん違うだろなに聴いてたんだ俺は」みたいになる可能性が大いにあります。いつものことですが

SANTANAはデビュー作の頃から曲と曲の繋がりやアルバム全体の流れに意識的で様々な工夫をこらしていたが、本作はレコードのそれぞれの面を通して大きなクライマックスに至る楽曲構成やその内容の充実といった点でひとつのピークに達したと言えるんじゃないだろうか。

 

今作のアルバムトータルでの曲作りは同時にシングル・カットを意識しない曲作りということでもあり、実際アメリカ本国では前作の「No One to Depend On」から76年の「Europa」まで7インチのリリースが途絶えることになる。

これまでアルバムとシングル両方で順調な売上を記録してきたSANTANAの方向転換にColumbia Recordsのクライヴ・デイヴィスは難色を示したものの、結果的に今作はBillboard 200チャートで8位、R&Bチャートで6位というクロスオーバーの先駆けのような大ヒットを記録。

これを追い風に以降SANTANAというかカルロス・サンタナジョン・マクラフリンとの『Love Devotion Surrender』そして『Welcome』へと、ようするに内容的にはともかく売上の面ではクライヴ・デイヴィスの危惧したとおりの方向へと邁進することになるのでありましたとさ。

 

今作はカルロス・サンタナとマイケル・シュリーブのプロデュースのもと、1972年の2月から5月にかけてサンフランシスコのColumbia Studiosで制作された。

青のグラデーションが美しいジャケットは前作までと同じジョアン・チェイスの手によるもので、音楽性の変化に合わせてアートワークのほうもこれまでより静かな感じになっている。そういえば池田あきこ旅行記かなにかで「サンタナの青くてきれいなジャケット」みたいな記述を読んだおぼろげな記憶があるんだけど、あれはたぶん『Borboletta』の青ピカジャケじゃなくてこっちの商隊ジャケのことなんだろう。

ゲートフォールド・ジャケットの見開きにはパラマハンサ・ヨガナンダの『Metaphysical Meditations』からの引用が掲載されている。たしかジョン・アンダーソンにも来日公演中に読んだこのお方の自叙伝から『Tales from Topographic Oceans』の着想を得たというようなエピソードがあったはず。ヨガナンダってヨガなんだ、というのは思いついたけど書かずにおきます。

前作から今作にかけてのメンバーチェンジによってバンドが妙に大所帯になったり外部のミュージシャンも参加したり、さらにレコーディング中とうとうサンタナグレッグ・ローリーの対立が決定的になったりした結果各トラックの参加メンバーはまちまちで、結局見開きにトラックごとの参加ミュージシャンがクレジットされている。

ところでメンバーチェンジのいざこざで前作後のツアー中にバンドから一時カルロス・サンタナ本人が離脱する事件(狂言脱退とでも言ったものか)があったらしく、残されたニール・ショーンがひとりでがんばってる「サンタナのいないSANTANA」のライブ録音がブートで出回ってたりもするそうな。

 

  • Song of the Wind

虫の鳴き声から静かにはじまったA面が次第に熱を帯びてきた頃合いに一旦引きつつ登場するギター・ソロ曲。滑らかに歪んだギターの音色と旋律が心地良い。

カルロス・サンタナニール・ショーンのふたりがギターとしてクレジットされていて、この一連のソロのどこをどっちが弾いているのか、あるいはどっちかが大半を弾いているのかさっぱり見当がつかない。

マイケル・シュリーブのインタビューによるとふたりはパンチインなどテープ編集を繰り返してこのギター・ソロを作り上げたらしく、そういった意味では重要なのはこれがスタジオで練り上げられた完璧なギター・ソロであるということであって、だれがどこを弾いているかなんてことは取るに足らない些事であるとも言えるかもしれない。

関係ないけど自分はSANTANAをちゃんと聴きはじめるのが遅かったので、ミック・テイラーのストーンズ時代の名ギター・ソロ「Time Waits for No One」を「サンタナ風」と言われてもいまいちピンとこなかったりした。

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A面クライマックス担当らしく、名前負けしない壮大さと奇妙さを兼ね備えた楽曲。

妙にもやもやした湿度高そうな音、へなへなヴォーカル、イントロのシュワシュワいってる音、1度目のサビっぽい部分の後イントロが再現して2度目のサビが来るかと思いきや違う歌メロが出てきて急上昇しそのあと結局1度目のサビっぽいのは出てこない構成、スラップ・ベース、オルガン・ソロ、ギター・ソロにくっついてくるピロピロしたギター、愛、宇宙、なんかいろいろ……

 

  • Stone Flower

アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲にヴォーカルをのせ、オリジナルの曲調そのものは保ちつつストレートに仕上げたもの。

原曲があらためて聴くとわりと重さのあるサウンドで編曲にもクセがあって、SANTANA版のがむしろスッキリしてるような気もする。


Antônio Carlos Jobim - Stone Flower

原曲。直接貼り付けられないのでリンクだけ

 

 

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手持ちは1974年の国内再発クアッド盤で、たぶんマト自体は初版から変わっていない。なお初版は被せ帯だった模様。

 

今作は(少なくともアメリカでは)まずステレオ盤がリリースされ、その後73年にはいってからSQ方式のQuadraphonic盤がリリースされたものと思われる。

ステレオ・ミックスのエンジニアはGlen KolotkinとMike Larnerで、クアッド・ミックスはLarry Keyes監修のもとGlen Kolotkinがミキシングを手掛けた。

 

日本でのリリースがよくわからないんだけど、あるいは最初からQuadraphonicでも出されていたのかも。

米Columbia Recordsの4ch盤がオリジナルのアートワークを金枠で縁取ったジャケットなのに対して、日CBS/Sony盤のアートワークは銀ジャケとか呼ばれるらしいなんというかマットな表面の銀紙に印刷したみたいな鈍く輝くジャケットになっている。

あとクアドラフォニックの解説シートとか入ってたり、ファミリーツリーみたいなのがついてたり。

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自分はかつての4chステレオを再生できる環境があるでもなくジャンク箱で見つけたこの盤をとりあえず回収して持ってるだけだったのだが、最近ふとしたはずみで聴く機会を得たりした。

マトリクス方式なのもあって定位はもやもやと曖昧だが、基本的にパーカッション・ドラム・ベースが各チャンネルに割り振られ各種ソロがフロント側、特にヴォーカルとサンタナのギター・ソロはセンターにくるスタンダードなレイアウトになってると思う。もともと軽めなサウンドのアルバムだとは思うけど、余計低音域がスカスカになってる気もする。

A面冒頭の尺八っぽいサックスはふらふらとあっちに行ったりこっちに行ったり。

ギター・ソロはけっこう生々しい音。たぶんクアッドでよくある、ステレオのように全体にエコーをかけて音を馴染ませるような作業がされていない結果の生々しさだと思う。

「Song of the Wind」終盤はステレオ・ミックスだと一旦リード・ギターが消えて後奏のギターがフェードインしてくるが、クアッド・ミックスではリード・ギターがそのまま弾き続けて後奏ギターと絡む感じになってとてもよい。

「All the Love of the Universe」はヴォーカルの音処理の関係かステレオでも他のトラックよりもやもやした感じがあるけど、マトリクス方式のクアッドではそのもやもやが強くなったような。しかもステレオでは中央に定位し強い印象を与えるエレキベースはフロント右の端の方に追いやられ、なんかもやもやに紛れて聴こえるような聴こえないようなバランスになってる。これはちょっとどうだろう。

 

関係あるけどAVアンプにこういうかつてのマトリクス方式クアッドのデコーダーをデジタルで再現したやつがおまけで搭載されたりしないもんですかね。あとAtmosに対応した新しいDolby Surroundはそれはそれでいいから、かつてのPro LogicやPro Logic IIもそれを想定したソフトがあることを鑑みて残しておいてほしい。たぶんライセンス料とかいろいろあるんだろうけど。

 

 

キャラバンサライ

キャラバンサライ

  • アーティスト:サンタナ
  • 発売日: 1999/12/18
  • メディア: CD
 

最高傑作の呼び声も高い今作はSACD元年の1999年にさっそくそのフォーマットでリリースされたがあくまでステレオ・ミックスのみ収録で、これ以降も今のところクアッド・ミックスが復刻されたりあらたにサラウンド・リミックスされたりはしていない。てっきり『Lotus』復刻盤が盛り上がったときにその流れでなんかあるかと思ったら特になかったし。

 

Caravanserai

Caravanserai

  • アーティスト:Santana
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: CD
 

2003年にはおなじみLegacyからVic Anesiniのリマスター再発がされたけど、自分は持ってないのでなんとも言えない。Dynamic Range DBでDR値確認した感じ多少音圧が上げられてるものの酷いことにはなっておらず、特に問題なく聴けるんじゃないかと思います。

 

このアルバムというかSANTANAの80年代までのアルバム全般はサブスクで配信されてる音源がどういう素性のものなのかよくわからないんだけど、リマスター版だったら権利関係のクレジットがあると思うのであるいはどれもそれ以前のCDと同じ音源かもしれない。アーティスト側の強い意向とかでこういうことになってるんじゃない限り、今後しれっと追加や削除、ついでにタイトルを邦題やカタカナに変えられてこっちのApple Musicライブラリがぐちゃぐちゃになる可能性もある。

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Forever 7" / Roy Wood (1973)

 

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1973年11月16日リリース(とレーベルに表記されてる)。

ロイ・ウッドのソロとしては3枚目のシングルで、イギリスのシングル・チャートで最高8位を記録、13週にわたってチャートインし続けた。

あんまり売れ続けたもんだからWIZZARDのほうでリリースしたクリスマス向けシングル「I Wish It Could Be Christmas Everyday」と時期が被って、74年1月には一時「Forever」のが上位になったりもしたらしい。

ロイ・ウッドはTHE MOVEとWIZZARDで合計3枚のNo.1ヒットを経験しているが、ソロとしてはたぶんこれが最大のヒットなんじゃないだろうか。

 

これ以前にロイ・ウッド名義でリリースされたシングル2枚はどちらも彼の1stソロ・アルバム『Boulders』関連のものだったが、このシングルはそれらとは異なり単品リリースのみで、オリジナル・アルバムには未収録。

自分はロイ・ウッドのバイオグラフィーには疎いので、なんでこのタイミングでぽろっとソロ・シングルがリリースされたのかいまいちわからない。

たぶんずっと前に完成していながら塩漬けにされてた『Boulders』とそこからのシングル「Dear Elaine」が案外売れたからおかわりってことだったんだろうとは思うけど。

 

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「Forever」はレーベル面にわざわざ "With special thanks to Brian Wilson and Neil Sedaka for their influence" と記載しているだけあってブライアン・ウィルソンニール・セダカへのリスペクトを感じさせる楽曲。

イントロからTHE BEACH BOYSオマージュでそのまま1番はいかにもそれっぽいコーラスが続き、2番になるとコーラスもリード・ヴォーカルの音処理も変わって今度はニール・セダカ風。弦のピチカートが見事にツボを心得てる。

その後も2つの作風が互い違いに現れるようになっているが、それでいて全体的なメロディ・センスや細かい音使いは紛れもなくロイ・ウッド自身のもの。

個人的には1:05あたりからの、ギコギコな低弦が入ってきてしばらく同じ調子が続き、一旦転調を挟んで3番に入る流れが好きです。

あと0:36あたりのパートってなにか元ネタがある気がするんだけど思いつかない。

 

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B面は素敵なタイトルのインストで、レーベル面の表記によればすべての楽器をロイ・ウッド自身が手掛けている。

地中海風というのが具体的にどういうことかわからないんだけどとりあえず地中海風って印象のマンドリン3本くらいとベースとドラムのアンサンブルが中心で、中間に初期ELOを思い出す管や弦を中心にした大仰な展開が挟まる感じ。クラシックのパロディ的なメロディもちょこちょこ出てくる。

このトラック、以前は誰かがYouTubeにアップロードしてもなぜかすぐ削除されてしまってた記憶があるんだけど、さすがに正式なライセンスのもと自動生成されたクリップは消されないっぽいですね。

 

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英Harvestのプロモ盤で、両面ともマト末尾は1。

発売日と"RADIO TEESSIDE"らしきスタンプが押されてるので、なんの因果かティーズサイドのラジオ局から日本の片田舎まで流れてくるはめになったのだと思われる。

 

ロイ・ウッドのソロとしては代表的なシングルだからか、どちらのトラックもオリジナル・アルバムにこそ未収録だけどわりといろんな編集盤に入っていてなにかしら聴く機会があると思う。

とりあえずApple Musicにあったやつで言うと、

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あるいは

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の2つが有力候補になるかと。

ただし前者はEditバージョンで、フェードアウトがちょっと早い。

Discogs見た感じ当時のUS盤は3分きっかりに編集されていたっぽいので、どうせならそっちを収録すれば資料的価値があったんじゃないかと思わなくもない(けど台無しな編集の可能性もある)。

 

JAN & DEAN (1967)

 

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Liberty Records傘下の廉価盤レーベル、SunsetからリリースされたJAN & DEANのコンピレーション・アルバム。

確証はないけどおそらく1967年頃、ジャン・ベリーの事故後のリリースだろうと思う。

ステレオ盤とモノラル盤があり、手持ちはステレオ。

 

Jan & Dean - Jan & Dean | リリース | Discogs

廉価レーベルからのコンピということでヒット曲を集めたベスト盤的なものかと思いきや、Liberty初期のシングルB面「Poor Little Puppet」にはじまり絶妙に外した、スタジオ・アルバムの穴埋め的なトラックを中心に選曲されている。

JAN & DEANの場合、60年代ハリウッド製の益体もないポップスとはいってもガレージでの自主制作からキャリアをスタートしているだけあってか、シングルA面となる主要曲以外のトラックも意外なほどきっちり作り込んであったりする。

そのうえ演奏はいわゆるレッキング・クルーなわけで、代表曲と呼べるものはほとんど収録されていないけどもこれはこれでけっこう楽しめたりします。

 

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ブライアン・ウィルソンロジャー・クリスチャンの共作。

JAN & DEANのレコーディングには一部リード・ヴォーカルとハーモニーでP.F. スローンとスティーヴ・バリが参加しているが、これはその典型的なトラックのひとつ。

このトラックに関してはさらにスローンとバリのサーフ・ミュージック系プロジェクト、THE RALLY-PACKSやTHE FANTASTIC BAGGYS名義の盤にもまったく同じ(バックトラックが同じとかじゃなく完全に同一)音源が収録されている。

最初スローンとバリのトラックをそのままJAN & DEANに使いまわしてるのかとも思ったけど、どうやらジャン・ベリーのプロデュースのもと制作され彼もコーラスに加わっているようだ。

ついでにJAN & DEAN『The Little Old Lady From Pasadena』収録の「Old Ladies Seldom Power Shift」とTHE RALLY-PACKSの「Bucket Seats」もSEが差し替えられていたりJAN & DEAN側にバージョンによって中華風イントロが追加されている以外は基本的にまったく同じ演奏です。

今じゃ考えられないけど、そういう時代だったんやなぁと言うよりほかにない。

 

A-2「Who Put the Bomp」はLiberty初期のシングルA面で、ストレートなカバーではなく歌詞を独自に変更した原曲に対するアンサー・ソング。

ようするに「Who put the bomp?」に対する「We put the bomp」であり、なかなかの図々しさというか面の皮の厚さだけど、そこは持ち前の情けなさで角が立たない感じになっている。

またおそらくJAN & DEANより数ヶ月早くFRANKIE LYMON & THE TEENAGERSも「I Put the Bomp」と題して同じような趣旨のカバーをリリースしている。

原曲はバリー・マンとジェリー・ゴフィンという、ドン・カーシュナーやルー・アドラーのもとでポップ・ソングを量産していた作家たちが自らそうしたポップスのパロディとして狙って作ったお馬鹿ソングであり、単純に楽しい曲ではあるが同時に自嘲的でもある。

そういった性質の楽曲に対して、フランキー・ライモンにしろジャンとディーンにしろ、ポップスの担い手のひとりとして反応せずにはいられなかったのではないかとか思わなくもないような穿ち過ぎなような。

 

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やっぱり伴奏が茶化さずしっかりとした演奏でヴォーカルも大真面目、後半の語りにいたっては熱弁してるからこその面白さだと思う。

 

 

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見ての通りレーベルのデザインはLibertyのものを踏襲しており、ランアウトに"X"と刻まれてる(たぶんYじゃなくてXだと思う)ので1968年以前にニューヨークのShelley Productsでプレスされた盤だと思われる。

あの時代のアメリカ製レコード特有の盤質の良さともともとの録音の良さ、あと収録時間の短さゆえの余裕のあるカッティングからか、正直こんなアルバムがこんな高品質でどうするんだよって言いたくなるような心地いい音がする。

 

 

このアルバムは当然ながらCD化されたり配信されたりするような代物ではないので、とりあずこれからJAN & DEAN聴くひとはこっちをどうぞ。

だいたい同じような時期を扱ってるコンピなのにまったく曲が被ってないけど。

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SANTANA’s Greatest Hits (1974)

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1974年7月リリースのコンピレーション・アルバム。
SANTANAとしてのスタジオ・アルバムでいうと『Welcome』と『Borboletta』の間、もっと細かくいうと日本限定のライブ盤『Lotus』とカルロス・サンタナアリス・コルトレーンの共演盤『Illuminations』の間という時期にリリースされていて、このコンピの大ヒットがこの時期のサンタナの活動を支えてた面があったんじゃないかとも思ったり。

 

選曲は初期3作のシングル曲を中心に「Evil Ways」「Jingo」「Black Magic Woman」は短く編集されたシングル・バージョンを収録し、最新作『Welcome』と『Caravanserai』は潔くカット。
全体で35分程度の、手軽に初期SANTANAの一面を俯瞰できるアルバムといった風情で、ついでにオリジナル・アルバムばっかり聴いてると耳にする機会のないシングル・エディットも入ってる、みたいな。

初期3作のベスト盤でありながら「Soul Sacrifice」も「No One to Depend On」も未収録なのが今となっては微笑ましい。

ジョン・ベルグのデザインによるタイトルもバンド名も入っていない写真のみの表ジャケットは3rdアルバムを踏襲しているような感じもある。

 

正直以前だったらとにかくオリジナル・アルバムを聴くべきでベスト盤とか時間と金の無駄くらいに思っていたとこあるけど、気がつくとリサイクルショップのジャンク品コーナーで見つけたこういうレコードをいそいそと持って帰って綺麗に洗ったりするようになっていたのでありました。

 

 

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米Columbia、PC 33050。

マトリクスは機械打ちで、AL 33050-1C / BL-33050-1F。

両面ともマトの前に"p"があるのでピットマン工場かなと思うんだけど、B面には"p"に加えて手書きの"SX"もあるので、よくわかりません。

 

このアルバムはLPと8トラでQuadraphonic Mix版も同時リリースされている。

Quad盤はレーベル面の再生時間表記がステレオ盤と同じだけど、実際にはステレオでシングル・エディットが収録されているトラックもアルバムと同じバージョンらしく、オリジナル・アルバムの4ch音源をそのまま持ってきてると思われ。
なんかサンタナ関係ってけっこうクアッドが充実してるよな。

 

ベスト盤としては完全に役割を終えているけど、さすがに700万枚以上の売上を誇る大ヒットアルバムだからかきっちりCD化も配信もされている。

たぶん3rdアルバムのリマスター盤にボーナス・トラックとして収録されてる「No One to Depend On」のシングル・バージョンと合わせると初期シングルのデジタル音源をそれとなく揃えられたりするようになっているのかも知れない。

 

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