Platinum / Mike Oldfield (1979/2012)

 

Platinum

Platinum

 

Remastered from the original master tapes by Paschal Byrne at the Audio Archiving Company, London

 

1979年、マイク・オールドフィールドのはじめてのライブ・ツアー後の作品。内容的には充実していたが大赤字だったツアーの影響かアメリカンなポップス的要素を大々的に導入しており、これはこれでかなり独自色が強い作品に仕上がっている。

A面に長尺曲、B面により短い楽曲群という以降何度も登場する構成も本作ではじめて導入された。

 

大半の楽器をマイク自身が手掛けていた前作までと違い、今作は多数のミュージシャンが参加し基本的にバンド形式で録音されている。またエンジニアリングやプロデュースも他者に委ねており、非常に挑戦的な姿勢で制作に臨んだことがうかがえる(むしろこっちのが一般的なわけですが)。その結果前作までの綿密さや緊張感が薄れたかわりによりリラックスしたアンサンブルに変化し、今作の音楽性とうまいこと合致したと思います。

なお今作以降アルバムやツアーで活躍するモーリス・パートが初参加したほか(クレジットがMaurice Pertになってる)、フィリップ・グラスのカバーを含む今作にエンジニアとしてTHE PHILIP GLASS ENSEMBLEのKurt Munkacsiが関わっているのが興味深い。

 

タイトル・トラックでありA面を占める大作「Platinum」は第1部「Airborn」こそ前作『Incantations』の延長上にある作風だがドラムセットという確実な変化があり、第2部はホーン・セクションが登場しドラムもより強調されファンク風なこれまでにない雰囲気へ。さらにディスコな第3部「Charleston」からビートを維持したまま突入するクライマックスの第4部「North Star」はアメリカの現代作曲家フィリップ・グラスの楽曲をもとにマイクが大幅なアレンジを加えたもので、全体的にとても大胆なこれまでとは違った表現が試みられている。

以降のアルバムでは大作とポップで短い楽曲の住み分けがよりはっきりと志向されたこともあって、結果的にこの楽曲はマイクの長尺曲のなかでも独特なものになったんじゃないだろうか。

 

B面はマイクのアルバムにタイトル・トラック以外の楽曲が収録されるというまさに初の試み(On Horsebackがあるけど)なのだけど、正直全体としてはなんとも言い難い。

というのもこのアルバムの初版では「Into Wonderland」の箇所に「Sally」というタイトルのマイク自身がヴォーカルをとる楽曲が収録されており、前後の曲とひとつながりのメドレーを形成していたらしいのである。

しかも「Airborn」や「Punkadiddle」には「Sally」と共通のメロディが使われていたりリマスター盤における「Punkadiddle」イントロ部分が実際には「Sally」のクライマックス部分だったりと、元々はもっとA面B面を通して楽曲同士の関連性が高いアルバムだったそうだ。

それが詳しい経緯は知らないがセカンド・プレスでVirgin Recordsのリチャード・ブランソンの意向とかで「Into Wonderland」へと差し替えられ、以降マイク本人も確実に関わっているこのリマスター盤においてすら元々意図されていた楽曲の流れが断ち切られた状態のままになっているのだ。

まあマイク本人がこれでいいと思っているのなら作品としてはこれでいいんだろうし、「Into Wonderland」やその前後の流れがダメなわけじゃ決してないんだけど、ないんだけど……。ていうかマイク、今回の一連のリイシューで自身がヴォーカルとった曲を意図的に無視してない?

そのいろいろな意味であれこれあった末の、アルバムラストを飾る「I Got Rythm」はアイラとジョージのガーシュウィン兄弟による名曲。イントロのエレピが素晴らしい効果をあげており、後半にはチューブラー・ベルズも登場する。

 

Audio Archiving Companyによるリマスターそのものは相変わらず良好でまったく不満がないです。楽器とコーラスが重なるフォルテ部分でちょっと音がぐしゃっとなるけど、これは多分マスターからしてそういうバランスで作られてるんだと思う。

 

残念ながら今作と次作『QE2』はボーナス・トラックで1曲ステレオ・リミックスが作られただけでサラウンド・リミックスは作られなかった。

そのリミックスである「North Star (2012 Mike Oldfield remix)」にはオリジナルのコーラスとちょうど対旋律になる女性ヴォーカルが追加され、楽曲の前半から大きくフューチャーされている(ついでにコーラス自体も前半から登場する)。音が整えられた結果後半のフォルテ部分でも音がぐしゃっとならず綺麗に響くので、迫力が薄れた面もあるけどこれはこれで悪くない。長尺曲の美味しいところを単品でさくっと聴けるのも利点か。

個人的にはシングルA面曲「Blue Peter」の収録が嬉しい。以前のトラッド路線シングル曲におけるリコーダー・パートをシンセに置き換えた感じの愛嬌のある楽曲で、PVもすごくいい雰囲気なんですよこれ。本作デラックス・エディション収録のライブにおける「Portsmouth」とのメドレーも最高です。ちなみにイギリスの子供向けテレビ番組のテーマ曲のカバーだそうで、当時同番組(たぶん)でマイクの録音作業の様子が紹介されたりもしたようだ。

 


Mike Oldfield - Blue Peter