Benefit / JETHRO TULL (1970/2013/2021)

 

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1970年4月リリース、JETHRO TULLの3rdアルバム。

作曲と音作りがこれまでになく洗練され、ハード・ロック的な力強いギターリフやピアノも交えたこれまでより繊細なフォーク調のアンサンブルが登場するとともに、それらをバラバラに並べるのではなくひとつひとつの曲のなかにまとめ上げてみせた完成度の高い地味なアルバム。

 

  • イアン・アンダーソン Ian Anderson:Vocals, Flute, Guitar & Balalaika
  • マーティン・バー Martin Barre:Guitar
  • グレン・コーニック Glenn Cornick:Bass
  • クライヴ・バンカー Clive Bunker:Drums

 

今作にはセッション・ミュージシャンとして鍵盤奏者のジョン・エヴァがピアノとオルガンで参加している。

何を隠そう彼こそはJETHRO TULLの前身であるTHE JOHN EVAN BANDがその名を冠したジョン・エヴァ*1そのひとであり、この段階ではあくまでスポット参戦的な扱いだったがこの後正式メンバーとなり70年代の名作群を支えることになる。

 

JETHRO TULLジョン・エヴァンの加入によってアンサンブルや編曲の幅が大きく広がり、それに合わせてより高度な演奏や複雑な曲構成が増えていくことになるので、つまり彼の加入はバンドにそれまでメンバーが片手間に弾いてたキーボードを専門に担当するやつが増えたという以上に決定的な変化をもたらしたと言えるんじゃないかと。

また前作『Stand Up』から今作で「ブルースっぽさ」がかなり薄まっていて、それが印象的なギターリフ、これまでより凝った曲展開、それと関連して各々の自発性より事前に計画されたものとしてのアンサンブルのおもしろさ、そして叙情的な旋律、といった今作以降の要素に繋がっているように思える(あるいは逆に、そういった要素を志向した結果としてブルースっぽさが薄まったか)。

ちょうどこのあと数ヶ月のあいだにブルースを土台にしつつ「ブルースっぽさ」を薄めてシャープにしたDEEP PURPLE『In Rock』やBLACK SABBATH『Paranoid』みたいな作品が出てくるので、時期的にそういう流れがあったりしたんですかね。

 

ちなみにこの当時学生だったジョン・エヴァンはJETHRO TULLのフルタイム・メンバーになるようイアン・アンダーソンに熱心に説得され、さんざん悩みまくっていろんなひとに相談し教師に「よう知らんけどポップスだし金稼げるんでしょ? 2年とかそこら稼ぐだけ稼いだら家でも買って学業再開すりゃええんや!」とアドバイスされた、みたいな話がリイシューのブックレットに書かれてた。

エヴァン加入後間もない時期のライブ音源ではイアンのほんの少し前まで学生だったエヴァンをイジるMCが聞けたりする。

本来ミュージシャンなどというヤクザな稼業に身を置くような人柄ではなかったらしいエヴァンだがそれでもバンドに約10年間在籍し、その後は結局学業には戻らず音楽業界からも足を洗って建設業というより建築的な仕事を選択したとか。

 

アルバムは前作とおなじMorgan Studiosでイアン・アンダーソンとテリー・エリスのプロデュースのもと制作され、エンジニアはRobin Black。

おそらくはシングル「Sweet Dream」を含む1969年9月のセッション、おなじく「The Witch's Promise」を含む1969年12月のセッション、翌1970年2月25日までのアルバムを仕上げるセッションと、完成までに3回ほどの期間に分けて制作され、そのうちジョン・エヴァンが参加したのはうしろの2回。

レイアウトなどまだ60年代的なステレオ像を残してるが、前作『Stand Up』の各パートの音をステレオ2chのあいだにポンポンと設置していきました、みたいなのに比べるとずっと全体の音の響きまで気を配って整えられている。

これによって空気感というか雰囲気作りみたいなところまでコントロールが行き届くようになり、ゴロっとしたモノトーンな印象があった前作と比べて薄暗い黒のなかにわずかな緑を感じさせる瞬間があるような、しょせんジャケットの印象に引っ張られてるだけなような。

 

そのジャケットに関しては「Cover Design by Terry Ellis and Ruan O'Lochlainn」とクレジットされている。

前作『Stand Up』の見開きポップアップはテリー・エリスのアイディアによるものらしいし、今作の立版古風ジャケットも彼の発案をもとにRuan O'Lochlainnが撮影した写真で作ったんじゃないかと。

この立版古をまじで再現したプロモーション・キットとかレコ屋の特典とかってあるところにはありそう。

 

 

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A1「With You There to Help Me」

左右にパンする幻惑的なフルートとピアノ(とじゃんじゃかアコギ)からはじまり、しっとりめの曲調にエレキギターが切り込んでくるという、ジョン・エヴァンの参加を経た音楽性の変化をぱぱっと提示してくれる楽曲。

それはそうと『Stand Up』で売れてから女性関係なんかあったんすかなんて極めてどうでもいいことが頭をよぎってしまう歌詞。

 

A2「Nothing to Say」

イントロから左chでエレキギターがひとりツインリードしてる。そこにアコギの伴奏が加わるあたりハード・ロック的なものに振り切らないバランスだけど、たんにイアン・アンダーソンの弾きたがりが出てるだけかも。

 

A3「Alive and Well and Living In」

もやっとした響きのピアノやフルートが印象的で、リズムがだんだかやる感じに変化するあたりGENTLE GIANT(今作の数ヶ月後に1stアルバムをリリース)を連想したり。

エレキギターがうねるハード・ロック的な盛り上がりもしっかりある、ってかどの曲もそういう盛り上がりがある結果逆に全体を通して聴くと平板な印象になってねーかこれ。

 

A4「Son」

うるさいなぁって感じにエフェクトのかかったヴォーカルによる、うるさいなぁって感じの歌。

 

A5「For Michael Collins, Jeffrey and Me」

ジェフリー3度目の襲来(むしろイアン・アンダーソンが絡みに行ってる感ある)。

個人的に好きなトラック。2本のアコギがこれまでのフォーク色が強い楽曲のようにじゃかじゃかやる感じじゃなくピッキング主体で両者と後から入るピアノやヴォーカルとのバランスが考えられていて、しっとりしたメロディも魅力的。まあ結局じゃんじゃか盛り上がるんですが。

マイケル・コリンズアイルランドの指導者じゃなくて宇宙飛行士のほうのひと*2

ちょっとデヴィッド・ボウイ「Space Oddity」を連想する題材でもあるが、こちらは人類初の月面着陸に際して司令船に残ったマイケル・コリンズにからめて共同体からの疎外感を主題にしつつ、彼の立場や果たした役割などにも一定の敬意を払っていることが伺える歌詞。

 

 

B1「To Cry You a Song」

ステレオの左右に振られたエレキギターのアンサンブルがWISHBONE ASH(このバンドも数ヶ月後に1stアルバムをリリース)っぽい。

聴いた感じフルートやアコギ、鍵盤の類が入っておらず、マーティン・バーのひとりツインギターによるソリッドな音像のハード・ロックになってる。後半のギターソロは前作でもやってたマイク振り回してレスリースピーカー風の音を録るやつじゃないかと。

このアルバムとつづくツアーでのマーティン・バーのサウンド・メイクや構築力みたいなものの進歩(と言ってしまうとそれはそれで語弊がある気もする)ぶりは目覚ましいものがあると思う。

 

B2「A Time for Everything?」

こちらはエレキギターハード・ロック的に活躍しつつピアノやフルートがしっかり入る、このバンドならではのバランス。エレキギターハウリングまで取り入れてる。

 

B3「Inside」

アルバム中これだけ妙に明るい、いい感じの小曲。左chでブイブイ鳴ってるのはエレキギターだろうか。

ここでもなんかおじいちゃんになったジェフリーの妄想してるし、やたら湿度が高いのはなんなんだ……

 

B4「Play in Time」

これも左右のエレキギターがWISHBONE ASHっぽい。テープの再生速度いじくり回しつつ“In Time”と言ってみせるジョークか。

 

B5「Sossity; You're a Woman」

タイトルがハムレットのあれっぽい気がしたけどあらためて見るとべつにそうでもなかった。

左右chのアコギと中央のオルガンがいい感じな終曲で、歌詞もおもしろい。この曲や「For Michael Collins, Jeffrey and Me」はイアン・アンダーソンとマーティン・バーのふたりでアコギを弾いてるっぽい。

 

 

どの曲も前作までと比べてあきらかに手が込んでいて、それぞれに緩急が練られているのだが、その結果ざっと全体の流れをなぞったとき逆に緩急が乏しい印象になってしまう気がしないでもない。全体のトーンがうす暗いし。個人的にはわりと好ましいアルバムなんだけども。

 

とはいえ今作はイギリスのアルバム・チャートで第3位を記録し西ヨーロッパ各国やオーストラリア、北米でも好評を持って迎えられた大ヒットアルバムでもある。

またJETHRO TULLのイギリスでのレコード・リリースは前作までIslandレーベルから行われていたが、今作から(正確にはその前のシングル「Sweet Dream」から)いよいよバンドのマネージャーであるクリス・ライトとテリー・エリスが立ち上げたChrysalisレーベルでのリリースとなった。なお配給は相変わらずIsland。

あとアメリカReprise盤は一部トラックが差し替えられ曲順もちょっと違っていて、翌1971年にリリースされた日本盤もそちらに準じていたので、レコード時代から聴いてるひとほど「CDになったら曲順変わった」という印象を受けたっぽい。

 

ところでイアン・アンダーソンのクレジットにあるバラライカってどこで弾いてるんでしょうか……?

 

 

2013 A Collector's Edition

 

2013年にリリースされたCollector's Editionは2CD+DVDの3枚組。『This Was』や『Stand Up』のCollector's Editionから『Aqualung』箱や『Thick as a Brick』デジブックを経てSteven Wilsonによるリミックス・シリーズという括りが定着していく過渡期っぽいリリース。

  • CD1:Steven Wilsonによるアルバム本編とExtra Tracksのステレオ・リミックス
  • CD2:Associated Recordings 1969-1970
  • DVD:Steven Wilsonによるステレオおよびサラウンド・リミックス+その他

 

Steven Wilsonがリミックスを担当したトラックとフラット・トランスファー以外の音源はDenis Blackhamによるリマスター。つまりこのリリースからSteven Wilsonのリミックスは余計な手を加えずそのまま収録するようになった。

おそらく2011年『Aqualung』2012年『Thick as a Brick』リイシューでSteven WilsonのリミックスをPeter Mewがマスタリングした際に音源の一部にクリックやドロップアウト(音の欠落)が発生した件や、そもそもSteven Wilson本人が納得できるバランスに調整したリミックスをさらにマスタリングする必要があるのかという問題、そしてPeter Mewが2013年にAbbey Road Studiosを退職したこともあって、こういう形になったのだろう。

これ以降のリイシューではオリジナル・ミックスの音源はリマスターせずフラット・トランスファーでの収録を行うようになっていくので、ここでのDenis Blackhamの起用はけっこう例外的。

 

CD1:Steven Wilson Remix

CD1はSteven Wilsonによるアルバム本編とExtra Tracksのステレオ・リミックス。

これより前に扱った『This Was』や『Stand Up』でもそうだったけど、Steven Wilsonによるステレオ・リミックスはあくまでオリジナル・ミックスのレイアウトを尊重したものになっている。

全体的に音がクッキリしてヴェールが一枚剥がれたような感じがあり、「With You There to Help Me」の特にイントロで加工されたフルートがジャリジャリいってるのがかなりマシになってたり等の違いもあるものの、『This Was』や『Stand Up』のリミックスほどには極端な差は感じられない。

今作がそれら2作と比べてミキシング段階での加工が多用されていて、このリミックスでその加工を再現するにあたって可能な限り当時と同じか近い機材を使用しているらしいことが関係してるだろうか。あとはまあ『This Was』とかふつうにオリジナルのミックスが歪んでるという根本的問題があったけど。

 

Extra Tracksはどのトラックもオリジナル・ミックスがCD2に収録されているので、ひとつひとつはそちらで扱います。

 

CD2:Associated Recordings 1969-1970

CD2はAssociated Recordings 1969-1970と題して、『Benefit』と前後するシングル等のオリジナル・ミックス音源がまとめられている。同じ曲のミックス違いが盛りだくさんだから資料的には嬉しいけど通して聴くのはしんどいかもしれない。

 

「Singing All Day」

JETHRO TULLにはめずらしいジャズ・ヴォーカル風というかな曲調で、中間部で霧が深くなるのがいい。

Steven Wilson(以下SW)リミックス(CD1-11)とこれまで未発表だったモノラル・ミックス(CD2-1)を収録。

もともと「Sweet Dream」「17」と同時期に制作され、3曲まとめてEPとしてリリースされる計画だったが実現しなかったらしい。その後1972年にコンピ『Living in the Past』にステレオ・ミックスが収録されたが、モノラル・ミックスは存在を忘れられていた。

 

「Sweet Dream」「17」は1969年10月ごろにリリースされたシングルのAB面。イギリスのシングル・チャートで7位を記録した快作。

『Stand Up』の2010 Collector's Editionにも収録されていたが、あらためて複数の音源が整理し直されている。

 

「Sweet Dream」

この時期のシングルにしては大胆な曲調の変化があり、デヴィッド・パーマーがアレンジを手掛けている。そういえば『Benefit』ってパーマー関わってないのか。

SWリミックス(CD1-12)、モノラル・ミックス(CD2-2)、ステレオ・ミックス(CD2-4)を収録。

ステレオはこれまで未発表だったオリジナル・ミックス。これは「Living in the Past」とだいたい同じような事情で、オリジナルのシングルはモノラル、プロモ用にこのステレオ・ミックスを制作、のちのコンピ『Living in the Past』ではあらためてステレオでリミックスという経緯で世に出る機会がなかったもの。

ということはつまり、『Stand Up』の2010 Collector's Editionに収録されていた同曲は『Living in the Past』用のステレオ・リミックス音源だったということか。

 

「17」

SWリミックス(CD1-13)、モノラル・ミックス(CD2-3)、ステレオ・ミックス(CD2-5)を収録。

これもステレオ・ミックスはこれまで未発表で、1988年の『20 Years of Jethro Tull』ではモノラル・ミックスを短くエディットするだけでなく派手な響きを追加してステレオっぽくごまかしてた。

 

「The Witch's Promise」「Teacher (UK Single Version)」はイギリスで『Benefit』に先立つ1970年16日にリリースされたシングルで、両A面扱いだった。シングル・チャートで4位を記録した代表曲のひとつ(ふたつ)。

 

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「The Witch's Promise」

トラッド・フォーク調のなかなかパッとした曲で、ジョン・エヴァンのピアノだけでなくメロトロンが聴ける。あれっそういやタルがメロトロン使ったのってこれが初では?

モノラル・ミックス(CD2-6)とステレオ・ミックス(CD2-9)を収録。

1993年の『25th Anniversary Box Set』でステレオ・リミックスが制作されているが、それ以降マルチトラック・テープが行方不明になりSteven Wilsonによるリミックスが行えなかった模様。

 

「Teacher (UK Single Version)」

オルガンの音色はすき。どっちかというと歌詞でウケたやつでは?と思うけど自分に聞く耳がないだけかもしれない。いや聞く耳なんてはなからありゃしないのですが。

SWリミックス(CD1-14)、モノラル・ミックス(CD2-7)、ステレオ・ミックス(CD2-10)を収録。

ステレオ・ミックスは残念ながらマスターテープが見つからず盤起こしでの収録だが、音質はまあこんなもんでしょって程度。

 

「Teacher (US Album Version)」

JETHRO TULLアメリカでのリリース元Reprise(の親会社Warner Bros.)から「もっとAMラジオ向けのトラックを!」みたいなこと言われていろいろ試したけど上手く行かず、結局アレンジ変えて再録音したバージョン。

上記したようにRepriseリリースのシングルだけでなくアルバムにも差し替え収録されたことで各国のファンの間に混乱を生んだりもした。さらに2001年リマスター盤でも「Original UK Mix」表記でテープ再生速度が違うUS Album Versionが収録されて余計おかしなことに。

SWリミックス(CD1-15)、モノラル・ミックス(CD2-8)、ステレオ・ミックス(CD2-11)を収録。

モノラル・ミックスはおそらくステレオ・ミックスを元に擬似的に制作されたもの。

 

CD2-12「Inside (Single Edit)(Mono)」

アルバム『Benefit』からのシングル・カットで、イギリスではおそらくアルバムと同時期にリリースされた。モノラル・ミックスで、途中でフェードアウトする。

 

CD2-13「Alive and Well and Living In (Mono)」

イギリス含む西ヨーロッパ圏での「Inside」B面。

 

CD2-14「A Time for Everything? (Mono)」

アメリカを中心にRepriseレーベルでの「Inside」B面。モノラルだとハウリングが余計うるさい。

 

CD2-15「Reprise AM Radio Spot 1 (Mono)」

CD2-16「Reprise FM Radio Spot 2 (Stereo)」

『Stand Up』のリイシューにもそれ系のが収録されてたやつ。

 

ちなみに2001年リマスターのボートラに混じってた「Just Trying to Be」ちゃんは『Aqualung』箱にお引越ししました。

 

DVD

DVDの内容は

  • Steven Wilsonによるアルバム本編+Extra Tracksのステレオ・リミックス(96/24 LPCM Stereo)
  • Steven Wilsonによるアルバム本編+Extra Tracksのサラウンド・リミックス(DTS 96/24 & Dolby Digital AC3)
  • UKバージョンとUSバージョンそれぞれのアルバム本編フラット・トランスファー音源(96/24 LPCM Stereo)
  • 「Sweet Dream」「17」「The Witch's Promise」フラット・トランスファー音源(96/24 LPCM Stereo)

 

ステレオ・リミックス関係はまじでCD1と収録内容全く同じでこっちはハイレゾなのでもはやCDを選ぶ理由が気分以外にないやつ。

 

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サラウンド・リミックスはおなじ8トラック録音でこの後リミックスされた前作『Stand Up』のものと比べるとわりと積極的にレイアウトを動かしている。とは言ってもあくまでオリジナルのステレオ・ミックスをベースにチャンネル的に拡張したもので、奇抜だったり無理に現代的な音響に合わせようとしているわけではなく、たぶん制作方針の違いよりそれぞれのアンサンブルの性質に合わせた結果だと思われる。

ひとつひとつのトラックが元々しっかり作り込まれてる今作はまさにサラウンドにうってつけで、そりゃ16トラックやそれ以上の録音に比べればザクッとしたレイアウトではあるけど十分聴き応えのある仕上がりになっている。

 

フラット・トランスファー音源はそれだけでもすごくありがたいのにUSバージョンのアルバム本編までおさえている。

ただしUKバージョンとUSバージョンをそれぞれのマスターから起こしているのではなく、ひとつのマスターから両方の曲順を再現しているっぽく、そこはちょっと思ってたのと違った感ある。「Teacher」のUS Album Versionだけフラット・トランスファー音源を収録するならせっかくだしUSアルバムの曲順再現しとくか!みたいなノリだったのかもしれない。

聴いた感じ2001年リマスターより全体的になめらかで、ちょっと楽曲ごとの音量差が気になるとこもあるけど非常に好ましい音源。正直もっとテープ由来のノイズがあるかと思ってた。

あとメニュー画面でシングルの各トラックを選択しようとすると全曲再生になるという些細な問題点がある。

 

 

ブックレットは特に写真資料などの掲載量でデジブック系リイシューには負けるもののけっこうな情報量で、特にAssociated Recordings 1969-1970の各トラックにきちんと詳細が記述されてるのがすごくうれしい。そういうの読むの大好きなので。

Steven Wilsonのリミックス・ノートでは「当時のミキシング工程での音質劣化まで含めて作品なのに、それをリミックスで取り払ってしまうのはどうなのさ」的な意見に対する彼のスタンスも述べられていて、非常に興味深いです。

 

てかこのリミックス・シリーズ、最初の『Aqualung』はボックスだったけど後にデジブックで新装版が出て、『Thick as a Brick』ははじめからデジブックなので、つまりこの『Benefit』だけデジブックになってないんですよね。

べつにデジブックが扱いやすいわけではこれっぽっちもないけど、それはそれとしてやっぱりこのアルバムだけ微妙に扱いが悪いような。

 

 

2021 50th Anniversary Enhanced Edition

 

とかなんとか言ってたら出るっぽいですデジブック拡張版4CD+2DVD*3

 

[予約]JETHRO TULL 11月上旬: '70年作『BENEFIT』発表50周年を記念しCD+DVD6枚組にパワー・アップした拡大盤が発売決定!!

Jethro Tull / Benefit 50th anniversary reissue – SuperDeluxeEdition

 

えっつまりこの記事を最初に書き上げたわりと直後に発表されたのか……。

 

以下ざっと確認した内容について。

  • Steven Wilsonのリミックス自体は2013年と共通

SWステレオ・リミックスのExtra Tracksに旧リマスター盤のボーナス・トラックだった「Just Trying to Be」とついでに「My God (Early Version)」が追加されたんだけど、どっちも『Aqualung』40周年盤に収録されてるやつでは。1970年4月のグレン・コーニック在籍時最後のセッションの補完としてみても1曲足りないしなんなんだろう*4

あとやっぱり今回も「The Witch's Promise」はリミックスできなかった模様。

 

  • Associated Recordings 1969-1970の内容が拡張され曲順も一新

Associated Recordings 1969-1970は曲順がモノラルとステレオに分けて整理し直されたほか、Collector's Editionでは外されていたおそらくコンピ『Living in the Past』関係のステレオ・リミックス音源がひと通り収録された。あれ「The Witch’s Promise」や「Teacher」もミックス違ったんか……

 

  • Steven Wilsonがあらたに1970年Tanglewood公演の音源をリミックス

間違いなく今回のリイシューの目玉となるもの。ステレオとサラウンド両方でリミックスされ、DVD2には映像を含めて収録。

Steven Wilson、以前だとライブ音源は自分でリミックスせずJakko Jakszykにぶん投げてた印象なんだけど、『A』リミックスの際にライブ音源をリミックスして手応えを掴んだのだろうか。『A』ライナーノートでもけっこう意欲的なこと書いてたし、ライブ音源の「実際の会場で聴こえたであろう音」の再現に囚われない方針のリミックスは自分もとても興味がある。

 

よく知らないけどブート音源の公式リリース的なやつでしょうか。

 

以下疑問点。

  • リミックス以外の音源のマスタリング

Collector's EditionではDenis Blackhamによるリマスター音源だったがこちらではどうなってるんだろうか。通例で行くとフラット・トランスファーへの差し替えだけど、特にそれらしい記述も見当たらないし。

 

Collector's Editionのアルバム本編フラット・トランスファーはひとつの音源でUK盤US盤それぞれの曲順を再現していたけど、こちらには「Flat transfers of the original UK+US LP master in 96/24 LPCM」と表記されているので、UK盤US盤それぞれのLPマスターからあらためて起こしたともとれる。

あと仮にAssociated Recordingsの音源がDenis Blackhamリマスターからフラット・トランスファーに差し替えられるとしたらDVDのフラット・トランスファーがどさっと増えそうなものだけど、見た感じ「Sweet Dream」「17」「The Witch's Promise」だけでCollector's Editionから変更はない。

 

こんなところになります。欲しいけどいま衣食住に困るレベルで金がない

 

 

2021/9/22投稿

2021/10/17更新

 

*1:本名はジョン・エヴァンスだが、JOHN EVANS BANDよりJOHN EVAN BANDのが語呂が良いということで“S”を奪われた

*2:コリンズ宇宙飛行士が死去 月面着陸時に司令船を操縦:朝日新聞デジタル

*3:これを書いてる10/17時点ではまだ予定

*4:まさか50周年で『Aqualung』も音源整理し直してリイシューする気があったり・・・?