QUEEN (1973/2011)

f:id:perucho:20201014165844p:plain

 

QUEENはおそらくTHE BEATLESと並んで世界的に有名なイギリスのグループで、1970年にロンドンで結成された。ハードロックを基調としつつ時代に合わせ様々な音楽的要素を取り入れていったグループだが、この1stアルバムの時点での音楽性はハード化したグラムロックとでも言うべきもの。

その1stアルバムとなる今作は1973年7月13日リリースで、プロデュースはバンド自身とジョン・アンソニー、そしておそらくこのバンドの音作りの立役者であろうロイ・トーマス・ベイカー。邦題は『戦慄の王女』だった。

 

 

70年代のQUEENを特徴付ける多重録音を駆使した独特の厚みのあるギターとコーラス、それらを最大限活用したときに華麗でときに暴力的な目くるめくアレンジといった要素はこのアルバムにおいてすでに完成されていると言っていいと思う。

反面、めいっぱいアイディアを詰め込んだのであろう結果としてクドさやとっ散らかった感じが耳につき、どの曲も凝ってるんだけどそれ故にどの曲も似たような展開になりがち、という問題も。

とはいえ初期QUEEN特有のこのむせ返るような濃厚さには独自の魅力があり、これこそ4thアルバム『A Night at the Opera』に至る過程で整理・洗練されていくその原液とも言えるんじゃないかと思う。

あとQUEENと少女漫画の関係については不勉強なんだけどなんとなく魔夜峰央的な絵柄を連想したりする。魔夜峰央QUEENだとむしろ「フラッシュのテーマ」だろうけど

 

QUEENは1971年、ホルボーンからウェンブリーに移設したばかりの De Lane Lea Studios で1stアルバムの素材となるデモ・テープのレコーディングを開始。これをプロデュースしていたジョン・アンソニーの紹介で翌72年にノーマンとバリーのシェフィールド兄弟に招かれ、彼らが設立した名スタジオ Trident Studios で夜の空き時間を使って本格的なアルバム制作にとりかかった。

エンジニアリングはジョン・アンソニーやロイ・トーマス・ベイカーに加えてデヴィッド ・ヘンチェル、マイク・ストーンといった当時のTrident StudiosのスタッフあるいはQUEEN自身がその時々に応じて担当していたようだ。

つまりこのアルバムは、デヴィッド・ボウイやT. REX、エルトン・ジョンといった面々の出入りする言うなれば当時のブリティッシュ・ロックの最前線であるTrident Studiosで、そのスタッフたちも交えてじっくり時間をかけて制作されたということになる。

だからこそロイ・トーマス・ベイカーのトレードマークである執拗な多重録音やデッドで厚みのあるもこもこドラムなどをふんだんに盛り込みつつも、それらがたんなるプロデューサー主導のレコーディングで終わらずQUEENというバンドの音楽性として昇華されているのだろう。

 

なおアルバムは途中フレディがラリー・ルレックス名義でシングルを作ったりしつつ1972年11月頃に完成したものの、レーベル探しが難航し英EMIからリリースされたのは翌73年も半ばになってからであった。

ノーマン・シェフィールドはこれ以降バンドのマネージメントに敏腕を振るい躍進のきっかけを作るとともに、フレディ・マーキュリーが彼に捧げたといわれる「Death On Two Legs」等創作の原動力にもなったりならなかったり。

 

 

  • Keep Yourself Alive

アルバムに先行してリリースされたデビュー・シングルで、邦題は「炎のロックン・ロール」。カウベルが足りない

自分がQUEENを聴きはじめた頃は手元にたいした資料がなく今ほどインターネットも一般的じゃなかったもんで、しばらく「炎のロックン・ロール」と「誘惑のロックン・ロール」(「Now I'm Here」の邦題)がどの曲を指すのかわからず、とりあえずどっちかは「Modern Times Rock 'n' Roll」の邦題だろうと予測してたら全然違ったりなどした思い出。

たぶんQUEENでもっともグラムっぽいキャッチーさを備えたトラック。

 

  • Doing All Right

イントロのピアノはだいぶエコーがかけられてるけどそれでも「Lady Stardust」や「Tiny Dancer」と同じあのベヒシュタインだということを思い出させる。

この時期ならではなフレディ・マーキュリーの瑞々しい高音が楽しめるゆったりとした前半から曲調が変わってそこに歪んだギターが入ってきて…というやつ。

SMILE(QUEENの前身となったグループ)時代からある楽曲で、当時のヴォーカリスト、ティム・スタッフェルとブライアン・メイの共作。

 

2曲とも初期QUEENを象徴する執拗かつ過剰な楽曲で、左右のチャンネルを目まぐるしく行き交うギターとコーラス、緩急の激しいコテコテとも言える曲展開とそれに合わせて細かく変化するエコーなど、残響に至るまで作り込んだこの思いっきり「やらかしちゃってる」感は他に代えがたい。こういった一面を指してプログレ的と言われたりもする。

凝った音作りの代償として音質的にはかなり苦しい。

 

www.youtube.com

原液感ある。

 

  • Liar

当時のライブでハイライトとして演奏され後年のツアーでも取り上げられる機会の多かったこの時期の代表曲で、ハードロック色が強いトラック。

アメリカでのみ3分ちょいに編集されシングル・リリースされた。

 

  • The Night Comes Down

不穏なイントロから一転してフレディが繊細な歌唱を聴かせる楽曲で、このアルバム内では比較的シンプルな音作り。あとカウベル。こんなシンプルなら全体的にもっとクリアな音になりそうなものだけどそこはエコーなどでばっちりお化粧を施されてちゃんと(?)もやもやした音になってる。

このトラックのみDe Lane Lea Studiosでのテイクが採用されている。

 

www.youtube.com

 

  • Modern Times Rock 'n' Roll

アルバム中唯一ロジャー・テイラーの作曲とリード・ヴォーカル。

小品ではあるけどギターのバッキングがけっこう美味しい、のちの「Stone Cold Crazy」や「Sheer Heart Attack」に通じるハードな曲調。

 

  • Son and Daughter

QUEENにはわりとめずらしいブルース・ベースのヘヴィ・ロック。

 

  • Jesus

リズムとコーラスが特徴的で「他とはちょっと違った調子の曲だな〜」と聴いてると案の定盛り上がる。正直そんな長々と盛り上がらなくてもとか思ってたんだけど、De Lane Lea Studiosでのデモが公式に聴けるようになったことでこれでも当初よりだいぶ短くなってることが判明した。

 

  • Seven Seas Of Rhye...

アルバムの最後を飾るインストの小品。この後ヴォーカルが付いてシングル・カットされたり2ndアルバムに収録されたりするもんだからなんとなくYMOの「以心電信」を連想するように。

 

 

f:id:perucho:20201014165729p:plain

このアルバムのジャケットは英EMI盤と米Elektra盤で異なり、米盤の方は英盤ジャケをトリミングしたものになっている。

日本のWarner-Pioneer盤は米Elektra配給で、ジャケットも米盤に倣ったもの。正直ジャケットに関しては英盤のが魅力的なような。

裏ジャケは英盤と米盤でロゴやクレジットのレイアウトが異なるものの基本的なデザインは共通で、おなじみ「No Synthesizer」表記や18年後にまさかの再登場を果たすことになる謎のペンギン男の写真等がある。

 

 

f:id:perucho:20201014165758p:plain

日Elektra/Warner-Pioneer、P-8427E。

音質はまあこんなもんだと思う。正直70年代のQUEENは凝った音作りの代償としてマスター・テープの段階からけっこうな音質劣化があるように思えるんだけど、英初期盤とかどんなもんなんだろ。

 

 

QUEEN

QUEEN

  • アーティスト:QUEEN
  • 発売日: 2011/03/18
  • メディア: CD
 

2011年にはQUEENの全アルバムが「Queen 40th Anniversary」シリーズとしてボーナス・ディスク付きの決定版とも言える仕様であらためてリイシューされた。

このシリーズのリマスターは有名なエンジニアの Bob Ludwig が手掛けており、このアルバムに関して言うとクリアながら音圧重視でダイナミックレンジが狭い仕上がりとなっている。ダメでは

Album details - Dynamic Range Database

 

本来比較対象にしなきゃいけない古いCDを手放してしまって幾年月なのではっきりしたことは言えないが、おそらくアナログ・マスターから丁寧にデジタル化やノイズリダクション(これも手放しで歓迎できるわけじゃないけど)を行ってはいて、でもついでに音圧も上げちゃってるので台無しは言い過ぎだとしてもちょっちキツいな〜という印象。カーステでなるべく音量調節したくないときとか小さめの音で流しておきたいときにはいいかも知れない。

日本限定でSHM-SACDがリリースされたりもしたけど元にしてるのはこのリマスターだそうなので、もちろん実際聴いてみないとわからないとはいえ正直期待できそうにない。

 

それはそれとしてボーナス・ディスクの内容は上記した1971年De Lane Lea Studiosでのデモ音源5つとアルバムのアウトテイク「Mad the Swine」となっていて、こちらはどれも興味深い内容。

リマスタリングもボブではなく Adam Ayan が手掛けていて案外悪くない。

 

De Lane Lea Studiosでのデモはおそらく盤起こしだが音質は十分良好で、しかもデモと言ってもアレンジどころかミキシングまで含めかなり完成品に近い段階まで仕上がっている。

この時点ですでにQUEEN側のレコーディングに対するイメージがある程度固まっていて、だからこそ実際に出来上がったアルバムがああいったものになったのだろうことを伺わせる。

ていうかロイ・トーマス・ベイカーが噛んでない分ドラムの音が残響を含むクリアなサウンドになってるし多重録音や執拗なエコー操作で各楽器のディテールが霞んだり全体がぼやけたりしてないので、この方向性でも十分いいアルバムに仕上がってた疑惑がある。ただまあその場合あくまで「この時代の音」の範疇に収まった作品止まりで、そこを突き抜けたものにはなっていなかったかも知れないが。

 

「Mad the Swine」はアウトテイクだけど軽快でなかなか良いトラック。

1つ1つが作り込まれた結果ある種の箱庭感というかぼんやりと閉じた感じのあるアルバム本編のトラックに対し、これはもうちょっと緩くて開放的。残響感のあるドラムや過剰なエコーがない音作りからして完成したアルバム本編よりDe Lane Lea Studiosでの音作りに近くて、だからこそ他との兼ね合いで外されたんじゃないかと思わずにいられない。

あとこのトラックはなぜか1991年にシングル「Headlong」のカップリングとして蔵出しされたのが初出なはず。

 

 

open.spotify.com

geo.music.apple.com

サブスクだとなんか追加で3曲のライブ・クリップも観られたりするっぽい。

 

 

再生中のレコードへの静電気対策

 

先に書いちゃうとやることはこの方の記事と同じです。

audio-beginner.com

 

 

自分は普段レコードの再生前にaudio-technicaのクリーナーで盤面のホコリを取り、その上で残ったゴミと静電気をタミヤの除電ブラシで取り除いている。

 自分が使ってるのはもうディスコンになってた。

 

モデルクリーニングブラシ 静電気防止タイプ 74078

モデルクリーニングブラシ 静電気防止タイプ 74078

  • 発売日: 2016/12/03
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

このブラシはレコードに対してすこし小さいけど、まあべつに問題なく使えるし、本来の用途である模型やフィギュアを含め細々したもののホコリを払うのに丁度よいので重宝しております。これ一本でターンテーブル周りの掃除ができる。

 

 

でもレコードは再生中もおそらく盤と針の摩擦等が原因で静電気が発生しやがりますので、それに関しては再生前の処理だけでは対応できない。そもそもなんでレコードって擦って音拾うくせに帯電しやすい素材で作られてんだよ(ものすごく今更)。

 

レコード再生時に発生する静電気の程度は盤によって様々で、たいして気にならないものもあれば、いくら除電しておいても再生をはじめるとだんだんノイズが増えていってえらいこっちゃになり、終わった頃にはターンテーブルシートにびったりくっついてるような有様のものも。ターンテーブルの駆動方式(ベルトドライブかダイレクトドライブか)でも変わってくると小耳に挟んだがよくわからん。

手持ちだと特にビクター音楽産業の国内盤は酷く帯電するものが多い印象で、長いこと気になってたけどとうとう嫌気が差して対策を練っているときに見つけたのが上記の記事となります。

f:id:perucho:20201002035448j:plain

 

 

そもそもレコード再生時に発生する静電気を抑えるために考えられる対策となると

  1. ターンテーブルシートを静電気が発生しにくい、あるいは除電効果があるものにする
  2. 再生中のレコードを直接静電気除去ブラシで処理する
  3. イオン発生機を使用する
  4. ナガオカのクリーニングスプレー等、除電効果のある薬品を塗布する
  5. ウェットプレイ(レコードを水にひたした状態で再生する)

あたりだと思う。

2は製品化されているものでいうとSFCのSK FILTERみたいな。ただストレートに金が無いので買ってみたりできるわけもなく、手持ちの除電ブラシを再生中のレコードにかざしてみても思うような効果も得られず、トーンアームにアルミホイルを巻きつけて簡易的な除電ブラシのように用いるのも自分の環境ではろくな効果がなかった(今考えると大きなポップノイズを抑制する効果はあったのかもしれないが)。

3は最近知ったのだけど、イオン発生機を再生中のレコードの近くで稼働させることで除電するという方法があるらしい。オーディオ用の機器もあるがたとえばイオン発生機付きの車載用空気清浄機を流用する人もいるそうな。おもしろそうだからそのうち試してみたいけど、車載用空気清浄機とかは稼働音が気になりそう。

4はよく中古レコードにゴテゴテに付着してて悩まされるやつ。適切に扱えばゴテゴテにはならないのかも知れないが、一枚一枚を処理していくのは面倒だしなるべく避けたい。

5は海外のオーディオマニアがやってたりするやつ。日本語で「レコード ウェットプレイ」とか検索してもえっちでヌルヌルなやつばっかり出てくるけど「record wet play」あたりで検索すればそれらしいものがヒットしたりするはず。まあ現実的ではないですね。

というわけで、今回は1となります。

 

 

Truscoの静電気除去シートは以前Amazonをつらつら眺めてたとき見つけて「これターンテーブルシートに流用できんじゃね?」と思ったらレビュー欄に先駆者の方々がいらっしゃったり、値段もわりと手頃だったり、たとえ今回の目的に対しては効果が得られなくても普通にホコリを払う用途には使えそうだったりと、目をつけてはいたので上の記事は渡りに船でした。

 

ターンテーブルシートはTechnicsのRGS0010A(SL-1200系の保守部品)で、その上にTruscoのものを敷いてる。

 

この状態でビクター音楽産業盤(シュライヤーのシューベルト美しき水車小屋の娘』)を再生してみたところ、予想以上に明確な効果があった。

端的に言うとむっちゃ静か。

以前は再生前にいくら静電気を除去しようと針をのせたらすぐに静電気由来と思しきパチパチノイズが乗りはじめそのうち大きなポップノイズも発生する状態になっていたのが、おそらく溝に残っていたホコリ等由来のわずかなノイズだけになったのだと思う。

なんだかぱったり静かになっちゃったから、本当に以前はそんなに静電気に悩まされてたっけ?と不安になってくる。

再生が終わったあと盤を取り上げて手元でブラシをかざしてみたところわずかに静電気が発生していたが、以前だったらそもそもターンテーブルシートと盤を引き剥がすところからはじめなきゃならなかったので状態は比較するまでもない。

 

お次に同じくビクター音楽産業盤で、ちょうどこの前洗ったばっかりのものを再生してみる。

これこそ今回の件のきっかけになった盤で、ほんとに帯電っぷりがエグい。

再生してみると、最初のうちの静けさには「おおっ!」となったものの、じわじわとノイズが出てくる。

内周に至ると少し歪みっぽくもなるが、これが静電気の影響なのかもともとの録音や盤の性質なのか、それとも単に自分のプレイヤーの調整不足なのかわからない(たぶん最後の要素がでかい)。

再生を終えて盤を持ち上げるとシートが一緒にくっついてくる程度に帯電していた。

結局この盤に対しては「あるのとないのじゃ大違いだけど、やっぱり帯電はする」というところか。以前の状態では再生する気にもなれなかったけど、これなら聴くだけ聴いてから「あーあーしょうがねーなー」とか言いながら処理する気にはなれそう。

 

他に輸入盤含めビクター以外の盤を数枚再生してみたけど、全体として劇的というほどではないけど確実に効果が得られている。最初のやつはおろしたて特有のボーナスタイムみたいなやつ?

元々あまり帯電しなかった盤は再生終了後にブラシをかざしてみても毛が反応しない(=静電気がほぼ発生してない)かしてもごくわずか、それなりだった盤はそこそこに、といった感じ。

静電気除去シートを使わない環境だと帯電する盤は再生中からふつうに静電気きてます!って感じだったので逆に目立たなかった、ターンテーブルに乗ってる間はブラシ等に反応しないしホコリも吸い寄せないけど、持ち上げた(=シートから離れた)際に静電気が発生するという新たなパターンのやつも。てかわりとそういうパターンが多いかもしれない。

ちょっと前にオーディオ機材の構成を変えた結果気軽にレコードの音をパソコンで録音したりできなくなってしまったので、きちんと両方の状態を録音して比較できないのが悔やまれる(とかもっともらしく言ってるけどどうせ面倒くさがってやりませんでしたよコイツ)。

 

 

というわけで、少なくとも自分の環境における「再生中に発生する静電気を抑える」という目的に対しては明確に有効な結果が得られました。やったね。

このシートを使ったうえで他の除電手段を併用したり、特に帯電しやすい盤にだけクリーナー等を使用するのが現実的かも知れない。

加えてこれ以上の対策をするなら、機材側をあれこれする前にリストバンドとかシールとか何かしらの手段で自分の身体の静電気対策をした方がいいんじゃないかと。

 

あとこれは個人的な見解だけど、ジャケットから取り出した時点ですでに帯電しているレコードに関しては先にブラシ等でしっかり静電気と付着したゴミを除去してからターンテーブルにのせた方がいいと思うし、帯電具合やゴミの量によっては一旦水洗いしてしまった方が結局余計な手間が省けると思います。

 

 

TRUSCO(トラスコ) 静電気除去シートS

TRUSCO(トラスコ) 静電気除去シートS

  • メディア: Tools & Hardware
 

このシートの効果ってどのくらい保つもんなんだろ。

 

Market Square Heroes EP / MARILLION (1982)

 

f:id:perucho:20200420225945j:plain

 

1982年10月リリース。

イギリスのアイルズベリーで結成されたバンド、MARILLIONのデビュー作。バンド名は当初トールキンの『シルマリルの物語 The Silmarillion』からとってSILMARILLIONだったが後に短くMARILLIONとあらためたそう。

7インチと12インチでリリースされ内容的に7インチはシングル、12インチはEPとなっており、手持ちはEPのみ。

 

  • フィッシュ Fish:Vocals
  • ティーブ・ロザリー Steve Rothery:Guitars
  • マーク・ケリー Mark Kelly:Keyboards
  • ピート・トレワヴァス Pete Trewavas:Bass
  • ミック・ポインター Mick Pointer:Drums

SILMARILLIONはそもそもミック・ポインターが中心となって活動していたグループで、そこにアイルランド出身のマーク・ケリーやスコットランド出身のフィッシュといったメンバーが加わっていってこの形になったようだ。

 

プロデュースは70年代にBLACK CAT BONESやPINK FAIRIESを手掛けたことで名高いデヴィッド・ヒッチコック

アートワークはマーク・ウィルキンソンにより、これ以降もアルバムやシングルのジャケットを継続して手掛けることになる。

 

 

www.youtube.com

いかにも「グループの象徴」「ライブの定番」みたいな役割を狙った感じで、実際フィッシュ期を通してライブのクライマックスを担った。

しかしこのバージョンは全体的に音と音の隙間が目立ってスカスカで、なまじ録音がよく演奏も安定感があるせいかかえって勢いの無いやたら淡々とした仕上がりに聴こえる。

結果的に独特な空虚さや白々しさが醸し出されてもいるので、これぞまさに道化芝居とも言えるかもしれない。

ちなみに歌詞中の「Anti-Christ」という表現が引っかかってラジオ局にオンエアを拒否されたためその部分を「Battle-Priest」に差し替えたバージョンも作られたりした。

 

1984年にはやはりバンド側も出来栄えに納得していなかったのかサウンドやミキシング・バランス等を改善した再録版が制作されシングルB面となった。

MARILLIONの場合いわゆる初期衝動的なあれとか初期ならではの荒さみたいなものとは無縁で演奏能力的にはこの時点ですでに高水準で安定していて、それ故にこそスタジオ・レコーディングにおけるミキシング・バランスとかアレンジの練れてなさが目立ってしまっていた感じがあるので、そのあたりが上手くなってる再録版のほうがふつうに聴く分にはオススメです。

また再録に際して楽曲の中間部の後に「I give the peace signs...」のくだりが追加されたが、オフィシャルブートとか聴いた感じこのパート自体は82年の年末ライブごろにはすでに楽曲に組み込まれていたようだ。

 

  • Three Boats Down from the Candy

www.youtube.com

 7インチではB面、12インチではA面2曲目収録。

叙情的なメロディやフィッシュによる演劇的な歌詞と歌いまわし、そしてスティーブ・ロザリーの朗々としたギターなど、「Market Square Heroes」よりこちらのほうがむしろ1stアルバム以降の作風に近いといえる。

こちらも「Market Square Heroes」と同じように再録版が作られた。

 

  • Grendel

www.youtube.com

12インチのB面を占める大作で、「GENESISフォロワー」として知られる初期MARILLIONの記念碑的作品。そもそもこの1982年というタイミングでデビュー盤に17分におよぶ楽曲を収録する、というのがけっこうなチャレンジだったのでは。

作風はあきらかにGENESISの「Supper's Ready」を意識した、というより組曲的な構成やその展開からしてむしろオマージュと呼べるものになっている。

おそらく「Supper's Ready」の豊かな楽想に折からの流行であるハードロック・ヘヴィメタル的な疾走感やノリやすい明快なリズムを持ち込むというコンセプトだったのではないかと思われ、ある面ではそれに成功したんじゃないかと。

しかしその疾走感や明快さは欠点ともなっていて、特にパートからパートへの推移の肩透かしを食うような呆気なさ、本来本家譲りの盛り上がりどころな変拍子をバックにキーボードがソロをとる場面でのリズムの明快さ故の緊張感の無さなど、長尺曲ならではのダイナミズムを損なっていると言わざるを得ない面も。

結局MARILLIONが「LP片面を占める大作」をリリースしたのは今作限りで、以降は今作や「Three Boats Down from the Candy」の流れをくみつつもよりまとまりの良い洗練された楽曲を作るようになり、必然的にGENESISフォロワーという枠から離れ独自の作風を確立していくことになった。

 

歌詞は奇しくもこのEPのリリースと同時期に交通事故で死去した小説家ジョン・ガードナーの『Grendel』(1971)にインスパイアされた、叙事詩『 ベーオウルフ』で英雄ベーオウルフに討伐される怪物の視点にたったものとなっている。

この小説『Grendel』はジョン・ガードナーの代表作ともいわれ英語圏では根強い人気のある作品なようなのだけど、残念ながら現在に至るまで日本語訳は刊行されていない。

 

 

f:id:perucho:20200420230104j:plain

英EMI、12EMI 5351。12インチは両面とも33回転。

45回転じゃないけど余裕のあるカッティングなこともあって十分な音質。

 

 

このEPのトラックはどれもオリジナル・アルバム未収録で、1988年のアルバム未収録曲を集めたコンピ『B'Sides Themselves』には「Market Square Heroes」「Three Boats Down from the Candy」の2曲は再録版を収録、ボーナス・ディスクに多数のレア・トラックを収録した1stアルバムの1997年リマスター盤でも「Three Boats Down from the Candy」以外は別バージョンのみでこのオリジナル・リリース版は収録されなかった。

 

その後2000年にフィッシュ時代のすべてのシングルをCDサイズで再現した12枚組ボックスセット『The Singles '82-88'』でようやくすべての音源がCD化された(んじゃないかな?)。

2009年にはこのボックスセットの内容をそのままCD3枚に詰め直した盤がリイシューされたのでずいぶん入手しやすくなった。それに今ではサブスクで聴けます。

 

SINGLES '82-'88

SINGLES '82-'88

  • アーティスト:MARILLION
  • 発売日: 2009/10/15
  • メディア: CD
 

open.spotify.com 

geo.music.apple.com

 

また2020年にリリースされた1stアルバムのDeluxe EditionではアルバムとともにこのEP全曲もあらたにリミックスのうえ収録されているのだけど、こちらは未聴なのでどんな具合かわからない。てかオリジナル・ミックスはアルバムもEPも未収録なんかこれ

 

 

メンデルスゾーンの弦楽交響曲まとめ

フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809年2月3日 - 1847年11月4日(38歳没))の弦楽交響曲は、彼が12歳から14歳にかけて手掛けた一連の管楽器を伴わない弦楽合奏のための交響曲で、断章的なものを含め13作ある。
習作的な性格が強くメンデルスゾーンの生前はもちろん長いあいだ出版されず、第二次世界大戦後の1950年になってようやく楽譜が再発見され知られはじめた作品群ではあるが、どれも非常に手の込んだ魅力的なものばかり。個人的には特に4番と7番と9番と11番と12番が特に好きです(多い。

 

弦楽交響曲の第1番から6番あたりまでの流れは、メンデルスゾーンカール・フィリップエマヌエル・バッハの強い影響下からはじまり、ヨハン・セバスティアン・バッハに傾倒していく様子がよくあらわれている。
全体的にCPEバッハゆずりの、曲のテーマとなるメロディやここぞというフレーズにおける弦のユニゾンの効果的な活用、細かいパッセージによる複雑な内声部の響きに加え対位法やフーガへの並々ならぬこだわりも感じさせる、っていうかあきらかに対位法的に「こねくり回す」のにドハマりしてらっしゃる様子がうかがえる。

7番以降そうした下地を踏まえつつ、ベートーヴェンも視野に入れたハイドンモーツァルトの流れをくむスタイルが完成の域に達する。
ちなみにベートーヴェン交響曲第9番は1824年作曲、つまりこれら弦楽交響曲より後の作品で、交響曲第1番と同年である。

作品内容的にも、時期的な面からしても、この時点でのメンデルスゾーンは「ロマン派」ではなくむしろ「古典派最後期」の作曲家と言えると思う。

 

www.youtube.com

 

 

作品

1821年(12歳)。モーツァルトがイタリア風のシンフォニアからスタートしていたのに対し、メンデルスゾーンはドイツ風であることがよくわかる、CPEバッハの弦楽交響曲と並べでも遜色のない十分立派な作品。
なお1番から6番まではすべて3楽章構成になっている。

 

1821年。第1楽章展開部や第2楽章の憂いを帯びたような短調が印象的。

 

1821年。ハイドンの疾風怒濤期の短調作品のような激しさとバロック音楽を連想する対位法的で複雑な声部の絡み合いがある。
第2楽章と第3楽章は繋げて演奏される。

 

1821年。第1楽章がGraveの序奏付きで、主題が提示されたそばから対位法的に展開される。

メンデルスゾーンの、細かいパッセージによる複雑な声部の絡み合いが続く、素直に言うと「なんかずっとぐちゃぐちゃやってる」という後年に至るまでの特徴のひとつがこの3番と4番ですでに完成されている感じがある。むしろこの時点では無邪気に声部の絡み合いを楽しんでいて、後年のように「聴衆に合わせてバランスをとる」みたいなことをしていないとも考えられるかもしれない。
これも第2楽章と第3楽章は繋げて演奏される。

 

1821年。JSバッハやヘンデルあたりの管弦楽組曲とか合奏協奏曲を思わせる。第2楽章最後の音が引き伸ばされ、そこから第3楽章が鮮やかにはじまる。

 

1821年。これもバロック風で、他の楽曲とくらべて根明な感じ。

 

1822年。初の4楽章構成で、メヌエットが入った。

第1楽章はピチカートやコーダが印象的。第3楽章のトリオはリズムの感じがなんだかベートーヴェンっぽい気がする。ちゃんとした形式がよくわかんないけど、トリオに入ると変奏が続いて結局メヌエットに戻らずに終わる。第4楽章は冒頭こそ短調だけどすぐ長調になるのがハイドンとかを連想する。そして6番までのように執拗に対位法的にこねくり回さない楽想からの怒涛のフーガ4連発、と思ってたんだけどこれ自分が3回目と認識してた部分はあくまで展開部を対位法的に進めてるだけかもしれない(素人すぎていまいち区別がついてない)。
第4楽章は未完成の別稿があるが、そちらはある種の晴れがましさのある完成稿と較べて真っ当に古典派の短調交響曲の第4楽章やってる感じがある。このあたりの判断にメンデルスゾーンの「短調の曲で明るく終わり、長調の曲で暗くなる」という傾向がすでに表れていたりするのかもしれない。

 

1822年。同年のうちに管弦楽版が作られた。

第1楽章は短調の序奏付きで、管弦楽版だと提示部途中にオーボエかなにかのちょっとギョッとする音使いがある。全体的にティンパニが元気。第4楽章はさあ皆さんお待ちかねのフーガです。

管弦楽版はもう普通に「ベートーヴェンと同時代に作られた古典派交響曲」として納得感あるやつ。

 

1823年。

第1楽章はGraveの序奏付きで、なんとなくモーツァルトっぽい魅力的な提示部からの対位法的こねくり回し。第2楽章の室内楽的な弦楽アンサンブルが美しい。第3楽章はメヌエットではなくスケルツォで、トリオにはスイス民謡の旋律が用いられている。第4楽章は提示部の調性の切り替わりやリズミカルな感じがすごくおもしろくて、そこからハイドンもやってた気がする効果的な音の引き伸ばしが入ったりしつつ、しかるのちフーガへ。コーダで急に元気になる。

ここまでの楽曲のどれもがよく作り込まれていて、なおかつリスナーを置いてきぼりにしない親しみやすさを持った優れた作品ばっかりだったけど、これはそのなかでも特筆すべき傑作だと思う。「若書き」の「ハ長調」作品というなんならそれだけで舐められそうな要素からよくぞここまで、みたいな。

 

1823年。ここまでの作品が3楽章とか4楽章構成だったのにいきなり出てくる単一楽章作品。

序奏付きのソナタ形式で、コーダがものすごい速度(「Piu presto」、つまり「できるだけ速く」ぐらいの意味か)。

本当に単一楽章の作品なのか、他の楽章がどっかいっちゃったのかよくわからないとも。

 

1823年。今度は5楽章構成だが、日本語版Wikipediaによると「第2楽章のスケルツォ『スイスの歌』には斜線が引かれており、削除したのかどうかは不明(オイレンブルク版の楽譜では全4楽章の付録として収録)」らしい。

第1楽章は序奏とコーダが印象的。問題の第2楽章にはティンパニ、シンバルとトライアングルが入る、つまり「そういう」楽章で、ハイドンの100番から29年後、そしてベートーヴェンの9番の前年にこういう試みを行っていたこと自体興味深いが、音楽的にも民謡風なメロディが魅力的で、かつ管を伴わない弦楽+打楽器類という響きがおもしろい。第5楽章提示部のフーガも効果的だけど、主題をいったん対位法的に展開してからあらためてフーガがはじまるので、ほんとお好きですねぇってなる。さらに展開部の入り口でぐっと速度を落として引き伸ばされた旋律を奏でた後、また新しい主題でフーガがはじまり次第に提示部の主題も混じってくるという。当然再現部にもフーガ。

 

1823年。ひさしぶりの3楽章構成。

第1楽章はユニゾンも強烈なGraveの序奏からあとはひたすらフーガ、それも2連発。第2楽章は長調短調をうつろう美しいAndante。第3楽章は力強いユニゾンの主題、からの〜? フーガです。フーガの終わりに挿入されるヴァイオリンとヴィオラの絡みが美しい。展開部前半のシンプルなフレーズの受け渡しが効果的。

フーガ趣味が行くとこまで行ったような作品ではあるけど、フーガに焦点を絞ったからか対位法的展開は控えめになっていて、逆にこれ以前の楽曲よりすっきりした構造になっているようにも思える。

 

1823年。単一楽章の作品だが自筆譜に番号の記載が無く、1楽章のみで未完成に終わったという説もある。そのため『交響的断章 Symphoniesatz』とも呼ばれる。

Graveの序奏からのフーガ2連発というところは前作12番の第1楽章と共通だけど、こちらはそこからさらに展開をこねくり回す。

正直これが未完だとしたら10番だって断片で、10番があれで完結してるならこれはこれで完成してるんじゃないの?とか思わんでもない。

 

おすすめの録音

この記事自体がトーマス・ファイとハイデルベルク交響楽団の弦楽交響曲を含めた『交響曲全集』を聴き進めてく際にできたメモ書きみたいなもので、楽曲に対する印象はこの録音がベースになってます。

ただこの演奏は交響曲も弦楽交響曲も分け隔てなく徹底して気合の入った表現を行い結果的にキレッキレの強烈なものに仕上がっているので、個人的にはとても気に入ってるけど合わない人には合わないとは思う。弦楽交響曲の第8番は管弦楽編曲版を収録。

 

Felix: Mendelssohn Bartholdy: Complete Symphonies

Felix: Mendelssohn Bartholdy: Complete Symphonies

  • アーティスト:Thomas Fey
  • 発売日: 2017/11/17
  • メディア: CD
 

Mendelssohn: Complete Symphonies by Heidelberger Sinfoniker & Thomas Fey on Apple Music

なんかApple Music関連の仕様が変わって今まで張ってたリンクだかボタンだかが使えなくなってる?

 

他にはミヒ・ガイックとオルフェオバロックオーケストラの録音も適度に擦弦楽器の「弦を擦る」音を活かしつつ響きに透明感があり、アンサンブルも端正で良いです。こちらはピアノの通奏低音入りで、第7番の別稿やおまけの歌曲も収録している。

 

L'Orfeo Barockorchester & Michi Gaiggの「Mendelssohn: String Symphonies, Vol. 1」をApple Musicで

L'Orfeo Barockorchester & Michi Gaiggの「Mendelssohn: String Symphonies, Vol. 2」をApple Musicで

Mendelssohn: String Symphonies, Vol. 3 (Arr. for Strings & Piano) by Margot Oitzinger, L'Orfeo Barockorchester & Michi Gaigg on Apple Music

 

 

John Cage (nova musicha n.1) (1974/2012)

 

John Cage

John Cage

  • アーティスト:Cage, John
  • 発売日: 2013/04/18
  • メディア: CD
 

 

イタリアの Cramps Records が1974年に立ち上げた前衛音楽シリーズ、nova musicha の第一弾リリース。

このシリーズはフルクサスにも参加した芸術家ジャンニ・エミリオ・シモネッティ Gianni-Emilio Simonetti が監修を手掛けており、その第一弾がフルクサスを含む当時の前衛芸術全般に多大な影響を与えたジョン・ケージの作品集というのは非常に納得感がある。

 

参加ミュージシャンはシモネッティ自身のほか、

の3人。

 

ヒダルゴとマルケッティフルクサスとも関わりの深い前衛音楽とパフォーミングアーツを中心とした芸術家グループ Zaj の創設者。

デメトリオはおそらく Cramps Records に所属する最もInternationalでPOPularなGroupであるところの AreA のヴォーカリスト。これ以前からヒダルゴやマルケッティと共同で前衛的なパフォーマンスに取り組んでいたという話もあるんだけどよくわからない。

ちなみにそのヒダルゴとマルケッティは AREA のアルバム『Crac!』収録の「Area 5」作曲者でもあります。

 

録音場所はミラノの Fono Roma で、エンジニアは Ambrogio Ferrario と Piero Bravin。アートワークは Cramps のアルバムの多くにクレジットされている al.sa sas 名義になってるんだけど、これがなにを示してるのかよくわかりません。なにかしらの芸術家集団なのかなんなのか

 

 

  • Music for Marcel Duchamp (1947)

プリペアード・ピアノ曲マルセル・デュシャンのための音楽」。

ハンス・リヒターによる映画『金で買える夢』内のデュシャンが担当するシーンのために作られた。

ヒダルゴによる演奏で、異物が挟まった弦を叩いた際の極端に残響が無くエッジの丸まった、どこかの民族楽器のようにも聴こえるモノトーンな音色とそれを強調するような音階、ダンパーから開放された他の弦が共鳴するゴウゴウとした残響が耳に残る。

 

www.youtube.com

『金で買える夢』からのクリップ。『階段を降りる裸体 No.2』と同じ女性が階段を降りるモチーフやみんな大好き Vertigo レーベルの例のあのぐるぐる。

 

  • Music for Amplified Toy Pianos (1960)

トイ・ピアノ曲「増幅されたトイ・ピアノのための音楽」。

複数のトイ・ピアノとたぶんその時次第で集められた道具を図形楽譜に基づいて演奏してるっぽいもの。タイトルからしてその演奏をマイクで拾ってアンプを通すところまで含めて「楽曲」ということなのだろうか。

ここではシモネッティ、ヒダルゴ、マルケッティの3人による演奏で、左chからはじまって曲の進行に合わせ右chに移動していくヤギの鳴き声(が出るおもちゃ?)が印象的。

 

音と音の隙間が広く取られているせいか、聴いてると鳴らされる一つ一つの音に注意を払うことになり、特にトイ・ピアノの響きの複雑さに意識が集中したりする。

以前子供のいたずらみたいと言っている人がいたんだけど、思い返してみれば自分も子供の頃、子供なりにいろんなモノから出る音と真剣に向き合おうとした結果近いアプローチのことをやったりしていたように思う。だからどうって訳じゃないけど。

 

  • Radio Music (1956)

ラジオ・ミュージック」。

シモネッティ、ヒダルゴ、マルケッティの3人がラジオ受信機を演奏。

弦楽器3つによる合奏曲が弦楽三重奏だとするならここでの演奏はラジオ受信機三重奏とでも言うべきもので、当時のミラノで受信できたいろいろなラジオ局の音が聴ける。

考えてみるとこの楽曲をコンサートで採り上げたり録音して販売したりするのって著作権的にどういうことになるんだろう。なにかしらの曲がそれと聴き取れる形で入っちゃうとサンプリングと同じ扱いになったりでもするのだろうか。

 

  • 4'33" (In Tre Parti: 0'30"/ 2'23"/ 1'40") (1952)

4分33秒」。

おそらくジョン・ケージの作品の中でも特に演奏機会の多いもので、自分も学生時代に友人に第1楽章のみ披露したことがある。

楽器や編成の選択肢がわりと多い楽曲だが、ここではシモネッティのピアノによる演奏。

デイヴィッド・チューダーの初演に倣ってピアノの蓋の開け締めで各楽章の開始と終了を示しており、その操作音もステレオ録音を活かして楽章ごとに位相を変化させている。

このアルバムではタイトルに各楽章の演奏時間が併記されており、初演版とは微妙に異なるものの合計で4分33秒となる。

しかしここで示される演奏時間はピアノの蓋を開け始めてから締め終わるまでのものである。となるとピアノの蓋の開け締めが演奏に含まれることになり、「TACET」とは違ってしまうのではないかという気がしないでもないような、どうでもいいからさっさとこの記事書き上げてビール飲みたいような。

 

  • Sixty-Two Mesostics Re Merce Cunningham (Frammento) (1971)

マース・カニンガムにまつわる62のメソスティックス」からの断片。

メソスティックスはいわゆる「縦読み」のことで、この楽曲の譜面は縦に並んだ様々な単語から演奏者が即興で歌唱するものになっている。たぶん曲名で画像検索したほうがイメージつかみやすいと思います。

また演奏時間はひとつにつき発声部と無音部あわせて1分30秒、つまり速く歌えば歌うほど次までの無音が長くなる=そこで帳尻を合わせるという取り決めになっている、らしい。

 

このアルバムではデメトリオ・ストラトスが6つのパフォーマンスを披露している。

演奏時間はひとつにつき1分30秒を守っているものの、最後のひとつは発声部が終わったところでトラックが終了してしまうので、収録時間は結果的に8分30秒程度。最後の無音部はリスナーが各自塩梅してくれということだろうか。

デメトリオはなにせ持ち声がよくてパワフルなので聴き応えがあるが、まだこの録音の時点では後の『Metrodora』以降ほどには幅広い発声法を身に着けておらず鳴りそのものも後年(といってもほんの数年なわけだが……)ほど豊かでないことが伺えて、多少一本調子な傾向があるようにも思える。

www.youtube.com

 

 

このアルバムはイタリアの前衛音楽の記念碑的作品で、ジャケットのキャッチーさやケージの代表的な使用楽器であるプリペアド・ピアノ、トイ・ピアノやラジオ受信機をひと通り押さえた収録曲、デメトリオ・ストラトスのネームバリューもあってか80年代末からちょくちょくCDでリイシューされている。

現状最新は2012年のイタリア盤で、同じ音源が配信もされている。詳しいクレジットがないもののおそらくリマスタリングされていて、聴いた感じ音質的には問題なし。もともとの録音品質が当時のイタリアのそれなので、特にプリペアド・ピアノ曲とトイ・ピアノ曲はより新しいものと較べてダイナミック・レンジやヒスノイズといった点で物足りない面はあると思う。

2007年にはなにをとち狂ったか(褒め言葉)日本の Strange Days Records から Cramps Label Collection の一環として紙ジャケ盤もリリースされたりした。まあ同じシリーズでコーネリアス・カーデューのアルバムとかも紙ジャケ化されたことを思えばこれはまだ普通かもしれんけど……

 

 

open.spotify.com