メンデルスゾーンの弦楽交響曲まとめ

フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809年2月3日 - 1847年11月4日(38歳没))の弦楽交響曲は、彼が12歳から14歳にかけて手掛けた一連の管楽器を伴わない弦楽合奏のための交響曲で、断章的なものを含め13作ある。
習作的な性格が強くメンデルスゾーンの生前はもちろん長いあいだ出版されず、第二次世界大戦後の1950年になってようやく楽譜が再発見され知られはじめた作品群ではあるが、どれも非常に手の込んだ魅力的なものばかり。個人的には特に4番と7番と9番と11番と12番が特に好きです(多い。

 

弦楽交響曲の第1番から6番あたりまでの流れは、メンデルスゾーンカール・フィリップエマヌエル・バッハの強い影響下からはじまり、ヨハン・セバスティアン・バッハに傾倒していく様子がよくあらわれている。
全体的にCPEバッハゆずりの、曲のテーマとなるメロディやここぞというフレーズにおける弦のユニゾンの効果的な活用、細かいパッセージによる複雑な内声部の響きに加え対位法やフーガへの並々ならぬこだわりも感じさせる、っていうかあきらかに対位法的に「こねくり回す」のにドハマりしてらっしゃる様子がうかがえる。

7番以降そうした下地を踏まえつつ、ベートーヴェンも視野に入れたハイドンモーツァルトの流れをくむスタイルが完成の域に達する。
ちなみにベートーヴェン交響曲第9番は1824年作曲、つまりこれら弦楽交響曲より後の作品で、交響曲第1番と同年である。

作品内容的にも、時期的な面からしても、この時点でのメンデルスゾーンは「ロマン派」ではなくむしろ「古典派最後期」の作曲家と言えると思う。

 

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作品

1821年(12歳)。モーツァルトがイタリア風のシンフォニアからスタートしていたのに対し、メンデルスゾーンはドイツ風であることがよくわかる、CPEバッハの弦楽交響曲と並べでも遜色のない十分立派な作品。
なお1番から6番まではすべて3楽章構成になっている。

 

1821年。第1楽章展開部や第2楽章の憂いを帯びたような短調が印象的。

 

1821年。ハイドンの疾風怒濤期の短調作品のような激しさとバロック音楽を連想する対位法的で複雑な声部の絡み合いがある。
第2楽章と第3楽章は繋げて演奏される。

 

1821年。第1楽章がGraveの序奏付きで、主題が提示されたそばから対位法的に展開される。

メンデルスゾーンの、細かいパッセージによる複雑な声部の絡み合いが続く、素直に言うと「なんかずっとぐちゃぐちゃやってる」という後年に至るまでの特徴のひとつがこの3番と4番ですでに完成されている感じがある。むしろこの時点では無邪気に声部の絡み合いを楽しんでいて、後年のように「聴衆に合わせてバランスをとる」みたいなことをしていないとも考えられるかもしれない。
これも第2楽章と第3楽章は繋げて演奏される。

 

1821年。JSバッハやヘンデルあたりの管弦楽組曲とか合奏協奏曲を思わせる。第2楽章最後の音が引き伸ばされ、そこから第3楽章が鮮やかにはじまる。

 

1821年。これもバロック風で、他の楽曲とくらべて根明な感じ。

 

1822年。初の4楽章構成で、メヌエットが入った。

第1楽章はピチカートやコーダが印象的。第3楽章のトリオはリズムの感じがなんだかベートーヴェンっぽい気がする。ちゃんとした形式がよくわかんないけど、トリオに入ると変奏が続いて結局メヌエットに戻らずに終わる。第4楽章は冒頭こそ短調だけどすぐ長調になるのがハイドンとかを連想する。そして6番までのように執拗に対位法的にこねくり回さない楽想からの怒涛のフーガ4連発、と思ってたんだけどこれ自分が3回目と認識してた部分はあくまで展開部を対位法的に進めてるだけかもしれない(素人すぎていまいち区別がついてない)。
第4楽章は未完成の別稿があるが、そちらはある種の晴れがましさのある完成稿と較べて真っ当に古典派の短調交響曲の第4楽章やってる感じがある。このあたりの判断にメンデルスゾーンの「短調の曲で明るく終わり、長調の曲で暗くなる」という傾向がすでに表れていたりするのかもしれない。

 

1822年。同年のうちに管弦楽版が作られた。

第1楽章は短調の序奏付きで、管弦楽版だと提示部途中にオーボエかなにかのちょっとギョッとする音使いがある。全体的にティンパニが元気。第4楽章はさあ皆さんお待ちかねのフーガです。

管弦楽版はもう普通に「ベートーヴェンと同時代に作られた古典派交響曲」として納得感あるやつ。

 

1823年。

第1楽章はGraveの序奏付きで、なんとなくモーツァルトっぽい魅力的な提示部からの対位法的こねくり回し。第2楽章の室内楽的な弦楽アンサンブルが美しい。第3楽章はメヌエットではなくスケルツォで、トリオにはスイス民謡の旋律が用いられている。第4楽章は提示部の調性の切り替わりやリズミカルな感じがすごくおもしろくて、そこからハイドンもやってた気がする効果的な音の引き伸ばしが入ったりしつつ、しかるのちフーガへ。コーダで急に元気になる。

ここまでの楽曲のどれもがよく作り込まれていて、なおかつリスナーを置いてきぼりにしない親しみやすさを持った優れた作品ばっかりだったけど、これはそのなかでも特筆すべき傑作だと思う。「若書き」の「ハ長調」作品というなんならそれだけで舐められそうな要素からよくぞここまで、みたいな。

 

1823年。ここまでの作品が3楽章とか4楽章構成だったのにいきなり出てくる単一楽章作品。

序奏付きのソナタ形式で、コーダがものすごい速度(「Piu presto」、つまり「できるだけ速く」ぐらいの意味か)。

本当に単一楽章の作品なのか、他の楽章がどっかいっちゃったのかよくわからないとも。

 

1823年。今度は5楽章構成だが、日本語版Wikipediaによると「第2楽章のスケルツォ『スイスの歌』には斜線が引かれており、削除したのかどうかは不明(オイレンブルク版の楽譜では全4楽章の付録として収録)」らしい。

第1楽章は序奏とコーダが印象的。問題の第2楽章にはティンパニ、シンバルとトライアングルが入る、つまり「そういう」楽章で、ハイドンの100番から29年後、そしてベートーヴェンの9番の前年にこういう試みを行っていたこと自体興味深いが、音楽的にも民謡風なメロディが魅力的で、かつ管を伴わない弦楽+打楽器類という響きがおもしろい。第5楽章提示部のフーガも効果的だけど、主題をいったん対位法的に展開してからあらためてフーガがはじまるので、ほんとお好きですねぇってなる。さらに展開部の入り口でぐっと速度を落として引き伸ばされた旋律を奏でた後、また新しい主題でフーガがはじまり次第に提示部の主題も混じってくるという。当然再現部にもフーガ。

 

1823年。ひさしぶりの3楽章構成。

第1楽章はユニゾンも強烈なGraveの序奏からあとはひたすらフーガ、それも2連発。第2楽章は長調短調をうつろう美しいAndante。第3楽章は力強いユニゾンの主題、からの〜? フーガです。フーガの終わりに挿入されるヴァイオリンとヴィオラの絡みが美しい。展開部前半のシンプルなフレーズの受け渡しが効果的。

フーガ趣味が行くとこまで行ったような作品ではあるけど、フーガに焦点を絞ったからか対位法的展開は控えめになっていて、逆にこれ以前の楽曲よりすっきりした構造になっているようにも思える。

 

1823年。単一楽章の作品だが自筆譜に番号の記載が無く、1楽章のみで未完成に終わったという説もある。そのため『交響的断章 Symphoniesatz』とも呼ばれる。

Graveの序奏からのフーガ2連発というところは前作12番の第1楽章と共通だけど、こちらはそこからさらに展開をこねくり回す。

正直これが未完だとしたら10番だって断片で、10番があれで完結してるならこれはこれで完成してるんじゃないの?とか思わんでもない。

 

おすすめの録音

この記事自体がトーマス・ファイとハイデルベルク交響楽団の弦楽交響曲を含めた『交響曲全集』を聴き進めてく際にできたメモ書きみたいなもので、楽曲に対する印象はこの録音がベースになってます。

ただこの演奏は交響曲も弦楽交響曲も分け隔てなく徹底して気合の入った表現を行い結果的にキレッキレの強烈なものに仕上がっているので、個人的にはとても気に入ってるけど合わない人には合わないとは思う。弦楽交響曲の第8番は管弦楽編曲版を収録。

 

Felix: Mendelssohn Bartholdy: Complete Symphonies

Felix: Mendelssohn Bartholdy: Complete Symphonies

  • アーティスト:Thomas Fey
  • 発売日: 2017/11/17
  • メディア: CD
 

Mendelssohn: Complete Symphonies by Heidelberger Sinfoniker & Thomas Fey on Apple Music

なんかApple Music関連の仕様が変わって今まで張ってたリンクだかボタンだかが使えなくなってる?

 

他にはミヒ・ガイックとオルフェオバロックオーケストラの録音も適度に擦弦楽器の「弦を擦る」音を活かしつつ響きに透明感があり、アンサンブルも端正で良いです。こちらはピアノの通奏低音入りで、第7番の別稿やおまけの歌曲も収録している。

 

L'Orfeo Barockorchester & Michi Gaiggの「Mendelssohn: String Symphonies, Vol. 1」をApple Musicで

L'Orfeo Barockorchester & Michi Gaiggの「Mendelssohn: String Symphonies, Vol. 2」をApple Musicで

Mendelssohn: String Symphonies, Vol. 3 (Arr. for Strings & Piano) by Margot Oitzinger, L'Orfeo Barockorchester & Michi Gaigg on Apple Music