Living in the Past / JETHRO TULL (1972)

 

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1972年にリリースされたJETHRO TULLのLPレコード2枚組コンピレーション・アルバム*1

Aqualung』(1971)と『Thick as a Brick』(1972)の大ヒットを受けて企画された、新規リスナーと熱心なファン両方へリーチする「ヒット・シングルのコンパイル」「Carnegie Hall公演のハイライト」「未発表曲とEP全曲」そして「写真集を含む豪華な装丁」というなかなか気合の入ったプロダクト。

 

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タイトルはもちろんこのトラックから。

 

JETHRO TULLは『Aqualung』と『Thick as a Brick』で「JETHRO TULLといえば知的なテーマを持ったコンセプト・アルバム」みたいな後年まで続くイメージを確立した感があるが、それ以前はむしろシングルが主戦場で、ヨーロッパとアメリカにまたがってシングル・ヒットを連発するグループとしてこそ存在感を発揮していたといっても過言ではない(もちろんアルバムも内容は充実していたしそれなりにセールスもあったが)。

そうしたヒット曲の大半はアルバムとは明確に区別されシングルのみのリリースだったため、後年アルバム中心のディスコグラフィーからバンドの流れをつかもうとしたときわりと見落としがち、もしくは頭ではわかっていてもいまいち実感というか、アルバム収録曲と比べたときの1曲1曲の重要性みたいなものがイメージできないままになってしまいがち(わたしのことです)。

このアルバムはそうしたシングル曲の流れを端的に掴むことができるのと同時に、リリース時にはモノラルのみだった*2シングル曲にステレオ・リミックスという1972年当時の時代に合わせたアップデートも施されている。

 

バンドにとってはじめてのコンピレーション・アルバムで気合が入ってたのかアルバムの売上が伸びて「大ヒット御礼」状態だったのかジャケットも豪華で、エンボス加工されたハードカバーの表紙にほぼ写真集なブックレットとレコードを収める袋状のページが綴じ込まれた作りになっている。

 

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初期盤の表紙は箔押だったらしいんだけど(現物未確認)、手持ちのものはレイトなのかUS盤は最初からこんなもんなのか普通の印刷となっていて正直ちょっと地味。

 

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ブックレットはこういう感じ。色合いがいかにも「昔の印刷物」って感じ。

考えてみるとシングル曲のレコーディング・データはこのブックレットが初出では。

 

収録内容

まあぶっちゃけベスト盤としては「今となっては」なアルバム。

すべての音源は各オリジナル・アルバムのリマスターやリミックス盤にボーナス・トラックとして収録されていて*3、そっちを集めたりサブスクを活用すればここで省かれているトラックを含めシングル関係の音源を総ざらいすることも可能。ライブ音源も抜粋じゃなく全長版が公式にリリースされている*4

いきなりそれは極端にしても、もっとオーソドックスな選曲のベスト盤やはじめての人向けプレイリストなどが揃ってる今の時代にわざわざ円盤を買うものではなく、実際CDもあるっちゃあるけどリマスター盤などのリイシューは基本的にされていない。

 

そういった意味ではまったく初心者向けではないのだけど、しかしそのうえで、このアルバムの内容はJETHRO TULLにとってシングルがとても重要だった時代のシングル曲の数々とCarnegie Hallという大舞台でのライブ公演のハイライトをまとめたバンドのひとつの時代の総決算とも言えるものとなっていて、むしろオリジナル・アルバムをひと通りおさえた上であらためて意識してみる価値があると思う。

ベスト盤やそれに類するコンピレーション・アルバムの「入門編にして応用編」という存在意義のうち、前者についてはその役割を終えたものの、後者についてはむしろ時代の変遷とともにその重要性を増してすらいるのではないだろうか。あるいはこの記事書いてるうちに気持ちよくなってきちゃって話が盛り気味になっているのではないだろうか。

 

といったところでその収録内容なんですが、このアルバムはUK盤とUS盤で一部収録曲が異なっている。これはおそらく両国でのシングルのリリース状況等を反映したものと思われる。

手持ちのレコードはUS盤なので、ここではそちらに準拠します。と言ってもどのトラックもこれまでのオリジナル・アルバムを扱った記事ですでに触れてしまっているので書くことないけど。

 

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A1「Song for Jeffrey」

A2「Love Story」

A3「Christmas Song」

A4「Living in the Past」

A5「Driving Song」

A6「Bourée」 CDでは収録時間の都合でオミットされてる。

 

B1「Sweet Dream」

B2「Singing All Day」 このアルバムが初出の未発表曲。

B3「Teacher」 このトラックもCDではオミット。

B4「Witch's Promise」 UK盤とUS盤で前の「Teacher」と順番が入れ替わってる。

B5「Alive And Well And Living In」 『Benefit』US盤で「Teacher」に差し替えられていたトラック。本アルバムUK盤では「Inside」を収録。

B6「Just Trying to Be」 これもこのアルバムが初出。

 

レコードC面は1970年11月4日のCarnegie Hall公演から。ブックレットに薬物およびアルコール依存症患者の支援団体へのチャリティ・コンサートだった旨が記載されてる。

C1「By Kind Permission Of」 「With You There to Help Me」後半のジョン・エヴァンのソロ・パートを抜き出したもの。

C2「Dharma for One」 1stアルバム収録のドラム・ソロ用トラックがすっかり様変わりしたもの。なんやかんや書いたけど結局このトラック目当てで聴くとこある。

 

D1「Wond'ring Again」 『Aqualung』収録の「Wond'ring Aloud」初期バージョン、の後半部分。

D2「Hymn 43」 UK盤では「Locomotive Breath」収録。

D3「Life Is a Long Song」 ここから5曲はEP『Life Is a Long Song』の内容をそのまま収録。

D4「Up the 'Pool」

D5「Dr. Bogenbroom」

D6「From Later」

D7「Nursie」

 

当該トラックで触れたように通常のUK盤やUS盤のCDでは1枚に収めるため一部トラックがオミットされている。

1997年にMobile Fidelity Sound LabからリリースされたものはCD2枚組でUK盤US盤両方のトラックを補完した内容だったほか、2004年の日本盤はUK盤に準拠したCD2枚組、しかもオリジナルのジャケットを可能な限り再現した紙ジャケ仕様のものまであった(プラケースのもあった)。

 

 

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手持ちのUS盤のレーベル面。

ChrysalisとRepriseのカタログ番号が併記されている。このアルバムからJETHRO TULLアメリカでのリリースがChrysalisレーベルになったので、その過渡期的な処置だと思われる。

 

マトリクスは

  • A面:2TS-2106 31480-1-2CH-1035
  • B面:2TS-2106 31481-1-2CH-1035
  • C面:2CH 1035 31482-3-1
  • D面:2TS-2106 31483-1-1-2CH-1035

すべて手書きだけどC面だけあきらかに字体が異なるしマトの法則性も違うので、他の面より後に切り直されたんじゃないだろうか。

そもそも本当に初期の盤はChrysalis側のカタログ番号(2CH-1035)が無くてReprise側のもの(2TS-2106)だけな可能性。

あとすべての面に「T1」のエッチングがあるのでTerre Hauteプレスだと思われる。

 

 

これは前述した2004年の紙ジャケ国内盤。「2004年デジタル・リマスター」と銘打たれてるけど独自マスタリングなのだろうか。

あとApple MusicにはUK盤CDの音源があるっぽい。

 

 

*1:イギリスでは6月23日、アメリカではだいぶ遅れて10月31日

*2:FMラジオ局向けにステレオ・ミックスも存在していたが一般流通はしていなかった

*3:ミックス違いについても最近補完されたっぽい

*4:もうけっこう前だから今だとフィジカルは入手しづらそうだけど